【第660回】『ブレアウィッチ』(アダム・ウィンガード/2016)

 1994年のハロウィンの季節に起きた猟奇的な失踪事件、モンゴメリー大学映画学科の三人の同級生、女性監督のヘザー、撮影担当のジョシュ、録音担当のマイクは、数百年前から伝わるブレアの魔女伝説(ブレア・ウィッチ伝説)を題材にした卒業制作のために、40年代にラスティン・パーが7人の子どもを攫ったブラックヒルズの森を訪れる。だが、森の中で撮影を続ける三人は不可解な現象にまきこまれ、想像を絶する恐怖を体験し、そのまま消息を絶った。結局、3人の遺体は発見されず、事件の1年後に森の中で彼らが撮ったと見られるビデオテープだけが発見された。全米を震撼したあの忌まわしい事件から20数年、失踪したヘザー・ドナヒューは生きていれば40代だったはずだ。94年当時、まだ4歳だったヘザーの弟ジェームズ(ジェームズ・アレン・マキューン)も映画を志す大学生になっている。もしかしたら姉はこの国のどこかで元気に暮らしているのではないか。そう考えながら今日もジェームズはYoutubeにアップされている動画に心を奪われている。失踪から1年後に偶然発見されたテープには、薄暗い廃屋の中へ分け入る姉ヘザーの最後の瞬間が記録されていた。ジェームズはそこに偶然映り込むヘザーらしき怪しい人影を発見する。

 1999年に全世界でモンスター・ヒットを飛ばしたホラー映画の金字塔である『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』シリーズ第三弾。非職業俳優を起用し、全編P.O.V.撮影、モキュメンタリー形式で撮影されたオリジナルは、6万ドルという僅かな予算にも関わらず、全世界興行収入2億4050万ドルという大ヒットを叩き出した。ヒットから1年後、後日譚となる『ブレアウィッチ2』を発表するが、オリジナルの監督であるダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスはこの映画を続編とは認めていない。正当な続編となることを見込んで制作された今作では、20数年振りに姉の失踪事件の真相を探ろうと、血を分けた弟が名乗りをあげる。ほんの数分のYoutube動画だけを手掛かりに集められたメンバーはオリジナルの3人から倍に増えた6人。互いの両親が親友関係にあるが、ヘザーのことを一切覚えていないピーター(ブランドン・スコット)とその恋人であるアシュリー(コルビン・リード)、それに例の動画のアップロード者であるレイン(ウェス・ロビンソン)とその彼女タリア(ヴァロリー・カリー)である。最低限の必然性を持ったメンバーだが、ヘザー捜索の温度差が気になって仕方ない。その疑惑はやがて確信に変わるのだが、エリカ・ギーアセンの名前が出るなど、2作目を完全に否定したわけではなく、シリーズとして最低限の体裁を守ろうとするアイデアが心憎い。

 滞在1日目にして早々にギヴアップを宣言し、かつて南北戦争の跡地だったと言われる曰く付きのジェフのアジトへ逃げ込んだ前作『ブレアウィッチ2』と比べれば、今作の設定はオリジナルへの愛情に溢れている。大した覚悟もなく、ブラックヒルズの森を訪れた一行はこの森が持つ強烈な磁場の洗礼を浴びることになる。酒やマリファナをやりながらも、突然姿を消した姉の喪失感を埋めようと考える弟ジェームズの崇高な野心は、多少の恐怖には怯むことはない。だが疑心暗鬼に駆られたメンバーが1人また1人と次々にいなくなる様子は、アダム・ウィンガードの旧作である『サプライズ』や『ザ・ゲスト』と同工異曲の様相を呈す。オリジナルでは16mmのモノクロ・カメラの粒子の粗い映像が臨場感を醸し出していたが、今作では現代に対応したヘッドセットカメラ、HDSLR、GPS、黒沢清の『クリーピー 偽りの隣人』でも使用されたドローン・カメラがブレア・ウィッチの真相を捉えようと躍起になる。だが彼らの涙ぐましい努力を持ってしても、生きている森の前では人間たちは無力である。暗闇に響く怪しい物音、真っ暗な中で動き続けるカメラの映像は、オリジナル同様に恐怖の根源を揺さぶる。極限の恐怖でもハンディ・カメラを握っているという映画的矛盾は今作のヘッドセットカメラで解消され、登場人物たちが足元を気にすれば気にするほど、我々観客から見える視界は地面に遮られる。それに加えて今回のブラックヒルズの森の設定にはオリジナル版を超えた設定があり、原始的な怖さを強調する。途中5.1chのすごい物音で闇雲に怖がらせるのはどうかと思ったが 笑、ラスト30分の恐怖は想像を絶する。ようやく『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の正当な続編の誕生である。

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