【第298回】『東方三侠2』(ジョニー・トー/1993)
ワンダーガールズ東方三侠の続編。同じ93年製作で途中使っているセットも同じことから、おそらく2本撮りした作品だと考えられる。アニタ・ムイ、ミシェール・キング、マギー・チャンのワンダーガールズはそのままに、前回とは異なるテイストで描いた意欲作である。舞台は前作の現代からまったく時代を変えた近未来。核で荒廃し、放射能に汚染された香港は水源が滅び、人々は貧困に飢えていた。浄水施設から運ばれて来る僅かばかりの水は、山賊たちの奪い合いとなり、とて庶民には手が出ない。各地で水の奪い合いが起こる中、アニタ・ムイの夫が政府の復興計画の陣頭指揮を取っている。いきなり前作からの時差に戸惑うが 笑、ミシェール・キングは大統領の補佐官となり、マギー・チャンは水を強奪し、より高く売る盗賊として暮らしていた。唯一アニタ・ムイだけは自分がワンダーガールズであることを封印し、夫との約束である「娘に母親が必要だ」という契りを頑なに守って暮らしている。冒頭、3人の再会から突然お色気シーンが始まり、3人と娘が同じバスタブのショットに収まる。
ディストピア映画には裏切りと救世主と陰謀が付き物である。香港の民衆は徐々に大統領率いる政府の力を信じなくなり、そこに救世主が現れる。彼は人々を飢餓から救おうと、清き心で国の浄化に務めるのだが、その行動は志半ばで倒れることになる。この若き救世主を演じるのは、今作が映画デビュー作となった金城武である。ウォン・カーウァイの『恋する惑星』より1年早く出演した今作の金城武はさすがに演技が初々しい。彼は民衆の渦の中ではぐれたアニタ・ムイの娘を無事に母親の元へ返すのだが、大佐の指令を受けたアニタ・ムイの夫は内心それを快く思わない。多忙の中で2人の心はいつしかすれ違い、疑心暗鬼に陥るが、やがて2人の心に雪解けの瞬間はやって来る。しかし軍の陰謀が2人を引き裂いてしまう。
戦争やクーデターにより家族がバラバラになる例はそれこそ山のようにある。今作においてもその舞台となるのは駅構内なのだが、アニタ・ムイを待つ夫と娘の元に、すんでのところで家族3人感動の再会を果たすはずだった3人は悲劇の結末を迎える。前作では刑事である夫をワンダーガールズとして影ながらサポートして来た良き嫁だったはずだが、夫に対し救世主殺害の疑念を持ったまま、ワンダーガールズに変身することのないアニタ・ムイの姿にはさすがにフラストレーションが溜まった。要はあの仮面を被ったところで、特別な力を持つワンダーガールズに変身出来るのならば、もっと早く変身しろよと言わざるを得ない。だがどういうわけか主人公は一向に変身する様子もなく、ネズミの出る薄汚い牢獄に投獄されてまで、同じ部屋の囚人が餓死している現場に閉じ込められるのはさすがにやり過ぎだろう。
しかし肝心要の主人公のクライマックスまでの投獄があったからこそ、マギー・チャンとアニタ・ムイの娘には大きなチャンスが回ってきたのも事実である。彼女たちは水源を探しに南へと向かい、決死の潜水を試みる。ここでマギー・チャンの政府側のライバルとして現れた男性が、若き日のラウ・チンワンである。金城武が20歳のデビュー作なら、ラウ・チンワンも端役であるが29歳でマギー・チャンの行く手を遮る曲者の役を演じているのだが、今作がジョニー・トーとラウ・チンワンの出会いの記念すべき作品となった。いがみ合うマギー・チャンとラウ・チンワンの2人は、いつの間にか恋に落ち、決死の潜水の前に互いの気持ちを確かめ合う場面は、地味に泣ける名場面の一つである。この時のジョニー・トーとの出会いが、『ファイヤーライン』からの快進撃につながったのだと思うと感慨深い。
大統領の身辺を擁護するミシェール・キング、水源を掘り当てたマギー・チャン。この2人に遅れながらクライマックス手前、投獄された状態からようやく自由の身となったアニタ・ムイの遅きに失した復讐劇がようやく幕を開ける。後に香港ノワールの継承者として有名となったガン・アクションはまだ封印し、ひたすらチン・シウトンお得意のカンフーとワイヤー・アクションの合わせ技が実に魅力的である。黒幕を呆気なく倒した主人公だったが、その行く手を仮面の男が阻む。続編で結びとはいえ、主要人物がことごとく殺されていくのを観るのは相当忍びない。特に腕をもがれて呻くあの人の姿には、ジョニー・トーの残酷さの美学が滲んでいる。唐突に訪れる最期も、B級プログラム・ピクチュアにこだわっていたジョニー・トーならではと言える。
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