整理|報道記事から整理する、滋賀医大生事件控訴審の判旨
注意及び免責
■本記事の目的
いわゆる滋賀医大生事件の被告に対して大阪高等裁判所が下した無罪判決の要旨につき、各社報道から内容を整理する。
■各社の報道内容
共同通信
※ 記事内容は共同が書いている
産経新聞
日本テレビ
読売新聞
NHK
FNN
弁護士.com
※ 本件については弁護士.comニュースに詳細な解説が掲載された
■考察
1.「女性は処罰を求めるよりも、動画の拡散を防止するため警察に捜査してもらう必要があった」(共同)について
一審では、被告人の弁護人が、①被害者が申告時に「性行為自体は(中略)自分で断れなかったのでもう(中略)いいんですけど、その動画が」等と述べていたこと、②被害者が一部行為(後記「第一審の事実認定」に記載した「口腔性交①」)について当初申告しなかったこと、③事実に反する内容(口腔性交してきた人数は3人である旨)を申告していたこと、を根拠に、被害申告の目的は動画拡散を阻止することにあり、そのため話を誇張する動機や必要性があったと主張していたことが一審判決文から伺える。よって、上記部分はこのことについて指摘している部分だと考えられる。
2.「衝撃が大きい最初の行為を覚えていないのは不自然」(読売)について
一審判決では、被害者が最初の行為について記憶がないことが認定されているが、大津地裁は、相当量の飲酒をしていたことを考えれば自然であると指摘している。よって、上記部分はこのことについて指摘している部分だと考えられる。
3.「事件当日に撮影されていた動画から、女子学生はためらう様子もなく男子学生Cの自宅に入り」(日テレ)について
二審は、これを一つの理由として、①被告人の発言が脅迫に当たるとは認めがたく、②被害者の同意があった可能性を払拭できないとの文脈で述べていると解されるところ、一審判決でも、被害者がA宅に入室するまでにした被告人の行為が、強制性交罪における「脅迫」に当たるとは認定できないとしている。
4.「買い出しを終えてA男方に合流したY女に、X女がA男と口腔性交したことに関して伝えようとした様子が全くないことなどを挙げ、それぞれの性的行為について『X女が同意の上でした疑いを払拭できない』と認定」(弁.com)について
一審では、被告人の弁護士が、口腔性交①(後記「第一審の事実認定」に記載)のあとに友人Cに対して助けを求めたりA宅から出なかったことを理由に、被害者が口腔性交①について同意していたと主張していたことが一審判決から伺える。よって、上記部分はこのことについて指摘したのだと思われる。
■まとめ
女性の被害申告(供述の信用性)について…「目的達成のため」「状況を誇張するなど虚偽供述をする動機があった」(読売・産経)。
→ 考察1.と2.を参照
理由(根拠)
「女性は処罰を求めるよりも、動画の拡散を防止するため警察に捜査してもらう必要があった」(共同)
「女子学生は自身に不利な行動を隠す供述をしていた」(FNN)
「衝撃が大きい最初の行為を覚えていないのは不自然だ」(読売)
「女子学生は当初、無理やりの性行為だと信じてもらうため警察にあえて話さなかった行為があり、ウソの供述をしている可能性が否定できない」(日テレ)
「実際に口腔性交【1】の事実等を隠す内容の虚偽供述をした事実もある」(弁.com)
被告人の行為の暴行・脅迫該当性について…「動画の様子から暴行や脅迫があったとは認められず」(NHK)。
→ 考察3.を参照
理由(根拠)
「事件当日に撮影されていた動画から、女子学生はためらう様子もなく男子学生Cの自宅に入り、当初自らの判断で性的な行為に応じた可能性を否定できない。その後、女子学生が男子学生Cの求めに応じて男子学生Aと行為に及んでいて、脅迫とされた発言も性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のものと評価可能であり、明確に脅迫や暴行とあたる行為は認められない。」(日テレ)
「動画の様子から暴行や脅迫があったとは認められず」(NHK)
「原判決は、口腔性交【1】が、暴行・脅迫がなく始まった口腔性交に引き続き行われたものであること、その結果、脅迫等【2】(引用者注:後記「第一審の事実認定」に記載した「口腔性交①」におけるA及び被告人2の発言)が口腔性交に通常伴う有形力の行使や卑猥な言動と評価できる余地が多分にあるのに、その可能性に目を向けず、これを強制性交等罪にいう暴行・脅迫に当たるものとしたもので、その判断は不合理」「A男とB男、X女との間で、かわるがわる口腔性交が行われていた中での発言であり、いわゆる性行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のものと評価可能である」(弁.com)
女性の同意有無について…「いずれの行為についても女子学生の同意の上であった疑いが払拭できない」(各社)。「X女がA男から口腔性交を求められ、任意に応じたものであった可能性が高い」(弁.com)
→ 考察3.と4.を参照
理由(根拠)
「事件当日に撮影されていた動画から、女子学生はためらう様子もなく男子学生Cの自宅に入り、当初自らの判断で性的な行為に応じた可能性を否定できない。その後、女子学生が男子学生Cの求めに応じて男子学生Aと行為に及んでいて、脅迫とされた発言も性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のものと評価可能であり、明確に脅迫や暴行とあたる行為は認められない。」(日テレ)
「動画の様子から暴行や脅迫があったとは認められず」(NHK)
口腔性交①について、「数分後にA男とリビングで口腔性交を始めたことや、C男がリビングに入ろうとドアを開けた際にX女が自らドアを閉めた」「買い出しを終えてA男方に合流したY女に、X女がA男と口腔性交したことに関して伝えようとした様子が全くない」(弁.comによる要約)
■第一審の認定事実
大津地判令和6年1月25日・令和4年(わ)第214号(各強制性交等被告事件)
※ 全文の記載あり→控訴審無罪の大津地裁令和6年1月判決 強制性交罪 : 岡本法律事務所のブログ
第一審の結論
被告人1は懲役5年、被告人2は懲役6月
第一審の事実認定
判決文によれば、第一審が認定した事実は、おおむね次の通りである。
※口腔性交①~②は令和4年3月15日午後11:51以降、口腔性交③&性交(本件性交等)は16日午前1:14以降。
口腔性交①…Aが被害者の頭部をつかんで行為に及ぶとともに、被害者は「苦しい」と言うのに対して、Aが「苦しいのがいいんちゃう」と発言、被告人2は「苦しいって言われた方が男興奮するからな」と発言。被告人2はその様子を撮影(※判決文中にある詳細な描写は省略する)
口腔性交②…被害者が「苦しい」と言うのに対し、Aはその様子を形態で撮影しながら(苦しい)「が、いってなるまでしろよお前」と発言、その後A及び被告人1はかわるがわる行為に及ぶ
口腔性交③&性交…Cと腕を組んで立ち去ろうとしていた被害者に対して、Aがその後方から被害者の身体に両腕を回し、さらに被告人1がCを引っ張って被害者から引き離した後、A及び被告人1がかわるがわる被害者と口腔性交(口腔性交③)し、Aが撮影するなか被告人1が被害者と性交(以上、本件性交等)。
・被害者と被告人の面識…Aと被害者は同じアルバイト先に勤務、Aが先輩だが、連絡先は互いに知らなかった。被害者と被告人1・被告人2は事件当日まで面識なし。
・事件に至る過程①(A宅に向かうまで)…AがCを誘い、CがBを誘う形で飲み会が実施される(当日午後7:15以降)。一次会の最中、Aは「ええやろCちゃん」、被告人2及びAが「今日確実に(被害者の名)いけるぞ」と投稿。「(被告人1の名)さん」「いっちゃって」とY2が反応。その後、A宅に向かう(午後11:10以降)。
・事件に至る過程②(エレベーター内から)…午後11:44ごろエレベーター乗り込む。Aが「2人じゃないとしたことないの?」と発言、被告人2は「え、でも。それやったらもういいじゃん」等と発言、被害者は「やだー。」「ダメダメ。」等と発言。さらに、Aが「3人でしたことないんでしょ?」と発言、被害者は「はい、今度今度今度。」と応答、Aがそれに対して「今度する?じゃ。」と発言、被害者は「今度。いや。」と応答。また同人は「ダメダメダメ。」「やだやだやだ。」と発言。エレベーターを降りた後も、「今日はダメ、ほんとに。」等発言。その後、順次A宅に入室。
・事件の過程①(口腔性交①)…Aは自宅リビングのベッドに腰かけたうえで下半身を露出して被害者と向かい合い、「(※口腔性交の俗称)だけ見して」と言ったが、被害者は「やだー。」と応じた。その後、Aは口腔性交を開始したが、Bは「苦しい。」と言ったので、Aは「苦しいのがいいんちゃう。」と応じ、被告人2も「苦しいって言われた方が男興奮するからなぁ。」等と発言した。被告人2は行為の一部を撮影していた。
・事件の過程②(口腔性交②)…A及び被告人1は被害者と口腔性交を行い、Aはその様子を携帯で撮影していた。その様子に気づいた被害者は「絶対だめ。」と言うなどして撮影をやめるよう求めた(撮影は継続)。その後被害者の求めによりAが消灯し、A及び被告人1は、被害者に対し、「ちゃんと舐めてほしい。」等と述べた。また、被害者が「苦しい。」と言うと、Aは(苦しい)「が、いいってなるまでしろよ。お前。」と言い、被害者は「嫌。嫌だ。やめてください。」と返答したところ、被告人1は「やってやって。はい。」等と言った。また、被害者が「痛い。」と言うと、Aと被害者1はそれぞれ「痛い?」等と尋ね、Aは「でも(※口腔性交の俗称)はしてくれるん?はい、(※口腔性交の俗称)。お願いします。」等と言った。また、Aは「お前さ。どういう調教されてんの?」等と発言したので、被害者1は「謎やな。」と発言し、Aは「フェラすればいいと思っているところがちょっとかわいそうなんやけど。」等と述べた。その後、被告人1は「オレ攻め派やから。」「こっち脱いでって。」等と述べたが、被害者は「今日は無理です。」と応答した。
・事件の過程③(口腔性交②の後)…被告人2(買出しを終え口腔性交②の前に合流)、A、被害者の3名になった際、被害者は「舐めます。舐めます。」と述べたので、被告人2は「舐めます?ずるくない?」「エッチしたらよくない?ここで。」等と応じた。被害者が「Cちゃんがいない日に頑張ります。」等述べると、Aが「Cちゃんともエッチしたら…。」等述べたので、被害者は「ヤバい。ほんとに嫌だ。」と発言した。その後、被告人2から「ここでよくない?」と言われると、被害者は「舐めます。舐めますから。」と述べた(なお、被告人2は口腔性交をすすめられるも、「今日は嫌や」等と拒絶した)。また、被害者は「いいんですけど。Cちゃんだけは。」「いる。いるので。」等と述べた。
・事件の過程③(口腔性交③&性交)…被害者及びCは「帰りたい。」「また今度。」と述べ鞄を持つなどの所作をした(このとき、B及びCは腕を組むなどしたが、AがBを引き離し、Y1がCを引き離した事実が認定されている)。Aは「えーあかんか。もう帰っちゃうの。」等と述べるとともに、被告人1とC宅に交際相手がいる旨伺うなどし、被告人1がCを送って帰ることを承諾した(しかしCはA宅をその後1人で出た)。A及び被告人1はCがA宅を出た後、被害者と、順次、口腔性交③及び性交を行った。
・事件の申告に至る過程…翌日、被害者は友人のDから「警察に言うねんレイプされましたって」等と警察に申告するよう勧められ、「強引めに性行為をされて」と申告した(その際、「性行為自体は(中略)自分で断れなかったのでもう(中略)いいんですけど、その動画が」等とも述べた)。警察の聴取が行われたが、被害者は当初、口腔性交①について申告しなかった。また当初、口腔性交を強制してきたのは「3名」と申告した。
※ なお、さらなる詳細は弁護士.comニュースによる解説を参照
■補足整理
被害者女性が「やめてください」と述べたのはデマという一部ネット上の記述について
一部ネット上の記述は、被害者が「絶対だめ」「嫌だ」「やめてください」と述べたというネット上の記述が、事実無根か根拠不十分であると指摘する(元滋賀医大生らの「無罪判決炎上」は、たったひとりの弁護士によるデマツイートからはじまった|小山(狂)など)。上のような記述は、弁護士がしたツイートに対するものと思われる(例えば、https://x.com/takeshibengo/status/1869597601496273130 など)。
そこで検討するに、動画撮影の際の被害者の言動について整理しておくと、第一審は、被害者は「絶対だめ。」と言うなどして撮影をやめるよう求めた事実を認定しており、また、被害者が口腔性交②について「苦しい。」と言うと、Aは(苦しい)「が、いいってなるまでしろよ。お前。」と言い、被害者は「嫌。嫌だ。やめてください。」と返答した事実を認定している。よって、弁護士のした上ツイートは必ずしも誤りでないと考えられる。
被害者女性が「やめてください」「絶対だめ」「嫌だ」と述べたことを「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のもの」と解釈したとの一部ネット上の記述について
また、一部ネット上の記述は、「被害者女性が「やめてください」「絶対だめ」「嫌だ」と述べたことを控訴審が「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のもの」と解釈したと指摘している(https://x.com/kazukof12/status/1870305588275753002など)。
そこで検討するに、弁護士.comニュースの引用する第二審の判決文は、「脅迫とされた発言も性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のものと評価可能」と述べているから、控訴審判決は、被告人の脅迫と疑われる言動についてそう指摘したものと考えられる。よって、このような一部ネット上の記述は誤りであると考えられる。
※ なお、検察は控訴審判決を不服として上告した