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【グッズ】項目1.プロスポーツクラブがグッズを売る3つの目的

まず最初に書きたかったこの項目。少しずつ加筆しながら書いていきたいと思います。

Jリーグをはじめとしたプロスポーツクラブがグッズを売る目的は、すごく乱暴に言ってしまうと以下の3つに集約されます。

  1. 収益(利益)を上げる

  2. 売上を上げる

  3. ファンのエンゲージメントを高める。

その中で、例えば「売上が10分の1」になっても収益は「2倍」になることもあります。

ここがMD(この場合グッズビジネスかな?)の面白いところ。ここで書くと長くなってしまうので詳しくはあとで…。

1.収益(利益)を上げる

まずは当たり前ですが収益・利益を上げる。
何のために利益を上げるのかは、そのクラブの考えによって違うと思うのですが、私が一番大切だと思っているのは「チームの魅力を上げるために収益を稼ぐ」ことです。
勝敗に影響されない安定的なMD収益を目指さなければいけないのですが、チームの勝敗や魅力を無視してグッズだけ売っていれば良いということではありません。

お客さんであるファン・サポーターは何のためにグッズを買っているのか?
もし、タオルマフラーやTシャツが欲しいのであれば、より安価で品質の高い商品は世の中に溢れています。
同じことは漫画やアニメも同じで、例えばディズニーまで世の中に浸透してしまうと、もしかしたら普遍的な価値になっているのかもしれませんが、「なぜそのアニメファンが、そのアニメのグッズを買っているのか」と聞かれたら、その漫画が好き(=自分が好きになった魅力がある)からです。

もちろん好きになる理由は様々ですが、ファンのグッズに対する「深さ」や「広さ」を考えたときに、一番「深い」のは自分の子供が所属している町のサッカークラブのグッズです。
私も過去に、高校のサッカーチームからの依頼でタオルマフラーを作ったことがあります。親御さんが自分の子供のチームが全国大会に出場するのを応援するためのグッズです。その学校の関係者以外には価値のないグッズですが、その親御さんにとっては大切な思い出が詰まったグッズになったと思っています。

ただ、プロのスポーツクラブである以上、「深さ」だけではなく「広さ」が求められます。
プロスポーツクラブでその広さを最も広げる可能性があるのが「チームの魅力」です。そのチームが魅力的かどうかはいくつも理由があると思うのですが、思いつくところをあげると…
・チームが強くて毎年優勝争いを続けている
・地元のクラブが初めてJ1に昇格した
・所属している選手が日本代表に選ばれた
・世界的な有名な選手が入団した
・テレビで取り上げられていて興味を持った...
などでしょうか。

そして、ある日本のチームが好きになった人がチケットを買って試合を見に行ったときにタオルマフラーを買ったり、全く知らなかった海外チームをたまたまテレビで知って共感を持って、レプリカユニフォームを買ったりします。

余談ですが、私も過去に沖縄に旅行に行ったときにFC琉球のコンフィットシャツを買って、デザインも気に入ったので旅行中ずっと来ていました。これも私が過去のニュースなどでFC琉球というチームを知っていたからです。

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魅力は様々ですが、必ず言えることはチームの魅力を高めるためにはお金が必要です。

2.売上を上げる

次に売上を上げる。恐らくどのクラブでも求められていることだと思いますが、これを考えるときにグッズにおける売上確保方法から考えていきます。

・グッズを仕入れて販売する
・クラブのプロパティを外部の企業に貸与する
・商品の委託を受ける
・スポンサー企業のノベルティを製作する
…など

まずは一番オーソドックスな自社企画商品としてグッズを製作・仕入れて販売する方法です。これは多くのクラブにとってメインの売上確保の手段となっているため、今後のnoteでも詳しく書いていく内容になるので、ここでは割愛します。

2つ目がクラブのプロパティを外部の企業に貸与する方法です。
福岡ソフトバンクホークスや阪神タイガースが自社のHPでライセンシーを募集しているページも紹介します。

ライセンスとは、スポーツクラブの持っているプロパティ(エンブレムやロゴ、マスコットなどのマーク)を使用する権利を外部の会社であるライセンシーに期間限定で貸与して、その対価としてプロパティ使用料を得る方法です。
スポーツクラブの一番大きなメリットとして、在庫を抱えなくてよい(原価がかからない)ということがあります。ライセンシーにとっても、日本全国またはその地域で誰もが知っているチームのグッズを製作することができるので、ノンブランドで製作するよりも売り上げが見込める方法です。

日本で販売されている海外のグッズの多くはこのライセンス形式で、海外のクラブから日本国内のライセンシーにプロパティが貸与されて、日本国内限定で販売されているものです。

もちろん下の写真の商品のように海外から輸入されて日本で販売されているグッズもあります

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Jリーグ関連会社に勤めていた頃に、サッカー以外にもバスケ、ラグビー、バレーボール、プロ野球のグッズ担当の方と取引することもあり、実際にあるスポーツチームのグッズをよく製作していました。
ただ、よく聞いてみるとそのグッズ担当の方はチームの社員ではなく、そのチームからライセンスを受けた広告代理店の方で、広告代理店がそのチームのすべてのグッズの製作・販売を行っており、チームにはそのプロパティ使用料を支払っています。
このように単体のグッズをライセンシーに貸与するだけでなく、そのクラブのグッズ事業全体を外部の会社に委託する方法もあります。

これが一番最初に書いた「売上が10分の1」になっても収益は「2倍」になる理由です。

例として…いままで自社でグッズを製作していたので、年間で4,000万円の売上が上がっていたが、商品の仕入れや店舗の家賃などを支払うと収益は200万円だった。今年はクラブのグッズをすべてライセンシーとして受けてくれる会社と交渉して年間400万円のプロパティ使用料を得た。

前年は売上が4,000万円で収益が200万円。
今年は売上が400万円(前年比10分の1)で収益が400万円(2倍)
※ほんとざっくりです。実際は在庫も残るし管理費などあるので…。

グッズは本当に儲からない

経営者の立場で考えた場合、「すぐにでも委託したい」と思われる可能性もあるかと思います…。そうなってしまう理由は「グッズは本当に儲からない。燃費が悪い事業」だからです(収益性が悪い…とも言えます)

どれだけ収益性が悪いかは、この記事が本当に良く言いえてくれています。(私が好きなQolyの記事です)

ユニフォームの平均価格49.45ポンドの分配率
 小売店:18.13ポンド(37%)
 メーカー利益:12.76ポンド(26%)
 付加価値税:8.24ポンド(17%)
 製造、出荷コスト:4.79ポンド(10%)
 クラブに支払うライセンス料:2.97ポンド(6%)
 マーケティングコスト:1.39ポンド(3%)
 配達:1.17ポンド(2%)

ユニフォームが1枚売れて、そのクラブに残る収益は6%です。
(もしクラブ直営のグッズショップで買ってくれた場合、上のリストの「小売店」の37%もクラブの収益になるので合計で43%です。しかしクラブが直営のグッズショップを出店する場合、社員の人件費や管理費以外に賃料や光熱費、アルバイトスタッフ人件費などの固定費が掛かります。もし大量にユニフォームを仕入れて、もし売れ残ってしまうと非常に大きなリスクを負います)

これもあるスポーツチームを立ち上げた経営者の講演を聞きに行ったときの話なのですが、チームが出来上がってすぐの頃はどんなにファンや社内から要望があっても絶対にグッズは作らせなかったと言っていました。
グッズを製作するためにメーカーに支払うお金があるのであれば、練習環境や社員不足の改善や、それ以外のファンサービスに充てたいということでした。(もちろんそのスポーツチームは今ではグッズは販売しているようです)

3.ファンのエンゲージメントを高める

では、なぜそんなリスクを背負ってまでプロスポーツクラブがグッズを自社で企画して販売するのか。それはファンのエンゲージメントを高めるためです。

エンゲージメントをよく表した言葉が「絆」。グッズにはファンやサポーターとクラブの絆を繋ぐことができます。

もし、あなたがいま手元に持っているグッズがあれば、そのグッズに紐づいた記憶が必ずあるはずです。

スタジアムに応援に来ているサポーターは選手と一緒に戦うために、その選手の背番号の入ったレプリカを来て応援しています。
一つの例えとして、ある新人選手に入団したときから注目していて、入団一年目からレプリカユニフォームを買ったとします。毎試合そのユニフォームを着て行っても、試合に全く出ない試合もありましたが、そんな中、その選手が後半40分から出場してアディショナルタイムに勝ち越しゴールを決めた試合を目の前で観たら…まさに誇らしい気持ちになって一生忘れられない試合になると思います。

また、初めて試合を見に来た人の場合でも同じです。
スタジアムに来たものの、周りはシャツやタオルを付けているのに自分だけ何も着けていないのが浮いている気がして、タオルマフラーを買った人を想像してみてください。家に帰ってからも、そのタオルマフラーを浴室やジムに行くときに使ってくれていて、試合を見に行ってから少し月日が経った後に、そのタオルを見て「そういえばあの試合面白かったな…」という記憶からチームとの絆を思い出してくれる可能性があります。

少し変わったところではコラボグッズも絆を生んでいます。今までそのスポーツはテレビで見るぐらいで、スタジアムに行ったこともない人が、「自分の好きなキャラクターとコラボしているので、ちょっと買ってみよう」…とグッズを身に着けてくれたことが、そのスポーツを好きになるキッカケになるかもしれません。

コラボと言えばキティちゃんですが、ハローキティは本当に優れたキャラクターで、これだけ多くコラボされているのは、色が関係していると思っています。(これもどこかで書けたら良いな…。)

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もちろん自社企画のグッズやコラボグッズだけではなくて、ライセンスにも同じような役割があります。

外部の会社とライセンスを提携することで、自社だけのリソースでは実現出来ないような速さと品質とデザインでグッズを提供する「ホットマーケット」もその一つかもしれません。
単体のライセンスグッズを例にとっても、そのクラブのプロパティの入ったライセンスグッズが地元のスーパーで並ぶことで、今まで全く興味・関心の無かった地元の人たちにもチームを知ってもらうことができるという大きな役割があります。

また、クラブから地元に出ていくパターンもあります。

クラブがグッズショップを出店するということは本当に大きな投資とリスクを伴います。私がJリーグに入社する前の話になるのですが、グランパスは一度グッズショップを閉店した過去があったようで、名古屋グランパスは唯一グッズショップの無いクラブでした。
そんな中、新たに(しかも商店街の一等地に)グッズショップを出店するということは、「グッズを売りたい」という戦略だけではないと思っています。

ここからは勝手な想像になってしまうのですが、ホームタウンの人たちにグランパスをもっとよく知ってもらう、関心を持ってもらう、絆を作るためにはリスクをとってでもグッズショップが必要だと判断されたのだと思います。

このnoteを最も届けたいのは、新しくグッズ担当になった方です。その方がこの3つの目的の中から、どの目的を重視すれば良いのかは、クラブの状況によって異なります。次回はそれについて書きたいと思います。

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