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初めてコロッケを作った話

食を誰かと共にすることは、とても幸せだ。

友人と「先週も食べたよね、太るね」と肩をすくめながら食べるおやつの時間も、
恋人とお気に入りのお店で「これどうやって作るんかな?」と味わう時間も、
久しぶりに集まった家族と「ちょっと、食べすぎ〜」と笑い合う時間も、ぜんぶ愛おしくて大切なひとときだ。

思い返している今もどんどん思い出が溢れてきて、それらを書いていると何の話か分からなくなりそうなのでやめておこう。

今日は、10日前のごはんの話をしたいから。

コロッケを自分で作るのも、揚げものをひとりで作るのも初めてだった。

玉ねぎをみじん切りにして、牛肉と一緒に炒める。

じゃがいもはレンジで温めたが中々やわらかくならず、結局3回ほど温め直した。時短のつもりだったのに。

ほこほこのじゃがいもと玉ねぎたちを一緒にまぜると、それだけでおかずになりそうな食欲をそそる香りが漂う。

小麦粉、卵、パン粉と順につけるのを繰り返していると、わたしの指もどんどん衣をまとって小さなコロッケみたいになった。

ジュワッと音をたてたあと、大人しくぷかぷか浮いているのを見ていたら、いつのまにかこんがりと色づいていた。

…こんなに手間がかかるとは。

実家で当たり前のように山積みになって出されるコロッケは、母がこんな手間をかけていたんだなあ。

しみじみと感じながら、コロッケをすくった。

ごはんは、「おいしい」までの道のりも楽しい。

「食費出すから、また作ってよ」

洗い物をしていたら、兄が言った。
遠慮しているつもりなのか、食費を出すと言うのが可笑しくて吹き出した。

次の日は兄の誕生日だったから、せっかくならと家に誘ってみたのだ。もともと作る予定にしていたコロッケは兄の好物だから。

実家にいるときのように、もうすぐご飯ができるというタイミングで兄はひょっこりやってきて、開口一番「ちゃんと作れるんかあ?」と油に怯えながら揚げている私をからかった。

わりと味にうるさい兄だけれど、出来上がったコロッケを頬張ると、もともと大きくはない目を見開いて「うん、おいしいな」と言った。

もぐもぐしている兄を見て、ホッとしながら私も食べてみる。

おお、おいしい。

見様見真似で作ったけれど、ちゃんと母のコロッケと同じ味。初めてにしては、上出来だ。

意外とおいしくできたね。もっと揚げたてが食べたいな。兄が買って来た缶チューハイを片手に、そんなことを言い合いながら食べていると、8個もあった大きなコロッケはあっと言う間になくなった。

洗い物しないと彼女に振られるぞ!と冗談を言って洗い物をしながら、私はなんだかほっこりした気持ちになっていた。

食で「心」を満たす大切さを、ひとり暮らしをして半年経った今ひしひしと感じる。

食材を選ぶ時間も、ごはんを作る時間も、上手に出来たごはんを食べる時間も、相手がいたらもっと楽しい。

「おいしい」は、ごはんをもっとおいしくする調味料だ。

その言葉を引き出せるように、今日もご飯をつくろう。

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