雨と、父と
「ゆっくり濡れて帰ろう」
父の口癖。好きな言葉。忘れられないあの日。
ない。目をこすり、深呼吸しても見つからない。
不合格だった。私は第二志望の高校へ進学した。全身に電流が走った。そして、一瞬にして全身の力が抜けた。魂も抜けていくような気がした。
入学後、1ヶ月はショックから立ち直れず悶々とした日々を送っていた。手元に届いた不合格通知を眺め、ため息を吐き、それを机の奥へしまう。そんなことを繰り返していた。
見かねた父が私を散歩に誘ってくれた。近所の里山を歩いた。何も話さず、下を向いて歩いた。
しばらくして、ぽつ、ぽつ、ぽつと音がし始め次第に強くなった。空模様につられるかのように私の心も暗くなっていた。足取りも重い。
父は空を見上げ
「ゆっくり濡れて帰ろう」
そう言った。たった一言。それだけ言った。
肩の荷が降り気持ちが軽くなったような気がした。普段は時間に厳しい父なのに。落ち込み、塞ぎ込む私にかけてくれた言葉。
私は今でも、たまにそのときのことを思い出す。忘れられない雨の日。
text/ゆうじん
-----------------------------------------------
こもれび文庫では皆さんからの投稿もお待ちしております。掲載する際にはこちらからご連絡いたします。
*投稿先
こもリズム研究会
メール comolism@gmail.com