こもれびより ~commoré-biyori~ vol.5「言葉の形」(2019/2/23) レポート
こんにちは。こもれびスタッフ見習いの根本です。
2月23日(土)、こもれびよりVol.5「言葉の形」を開催しました。今回はこれまでレポートの執筆を担当してきた塚本が登壇してお話しさせていただいたので、塚本に代わり、根本が当日の様子をお届けします。
【Part1】
①日本語の文字(by塚本)
まずは、塚本による「日本語の文字」に関するミニ講義。
「なぜ、日本語にはひらがな・カタカナ・漢字という、3種類もの文字があるのだろう?」という疑問から出発した塚本。一説には、かの宣教師フランシスコ・ザビエルをして「悪魔の言語」と言わしめたそうですが、かつての日本では「公式な書き物にはカタカナ、私的な書き物にはひらがな」というように、目的に応じて使い分けをしていたようです。
②日本語の漢字(by志村)
そんな日本語の表記の歴史に触れつつ、ここで志村にバトンタッチ。今度は「漢字」というものに焦点を当ててみます。
「漢字」と言えば中国。奇しくも(?)秋本氏が2月22日付のブログで書いていたように、紀元前221年に始皇帝が中国を統一したことに伴い漢字も統一され、その漢字が海を超えて日本に輸入されたのでした。もともと日本では、「地面がこんもりと盛り上がっているもの」を「ヤマ」と呼んでいたわけですが、中国から輸入した漢字では同じものを「山」と表すようであったので、それならば「『ヤマ』には『山』という漢字を当てよう」ということになったということです。
ここで問題になるのは、「中国語の漢字と日本語の漢字は同じものなのか」ということ。参加者の皆さんに志村がこう問いかけました。
「漢字圏で育ったのではない人が漢字を学習する際、中国語の漢字と日本語の漢字、どちらの方が難しく感じるでしょうか。」
これをお読みの皆さんはどうお考えになりますか。実は、日本語の方が圧倒的に難しいと感じるそうです。それはなぜかと言えば…ヒントは「読み方」にあります。両言語の漢字は形こそほぼ同じですが、読み方の数が異なると思いませんか。
分かりやすい例が「日曜日」。日本語話者であれば、何も意識せずともこれを「にちようび」と読むでしょう。でも、よ~く文字を見てみてください。始めの「日」と終わりの「日」、これらはまったく同じ漢字ですが、かたや「にち」と読み、かたや「び」と読みます。考えてみると、なんとも不思議です。このような例は、枚挙に暇がありません。
一方の中国語では、「日」という漢字は「ri」の第四声(上から下に下がる音)で読みます。そして、読み方は基本的にそれ1種類です。
つまり、中国語では1漢字に1音が対応しているのに対して、日本語では1漢字に音読み・訓読みの2音(場合によってはそれ以上)が割り当てられているのです。言ってみれば、覚えるのに必要な労力は倍以上。それゆえ、日本語の方が難しい、ということなのでした。
そのような「文字と音との対応関係」というテーマについて実例を通じて体感しながら、話はやがて「アルファベット」のことへ。
アルファベット、これまたよく聞く用語ですが、さて、「アルファベット」とはいったい何のことなのでしょうか。”ABC~”のこと??
ここでまた、志村からの問いかけです。
「皆さん、思いついた『世界の文字』を教えてください。」
参加していただいた皆さんからは、以下の文字が挙がりました。
①ギリシャ文字
②ハングル
③仮名文字
④アラビア文字
⑤ラテン文字
⑥キリル文字
もちろん、世界にはまだまだたくさんの文字があるのですが、ひとまずこのくらいで。
さて、志村は続けます。
「では、この中で『アルファベット』はいくつあるでしょう。」
うーん、改めて言われると難しいですね。「1つだと思う人?」「は~い!」、「2つだと思う人?」「は~い!」…挙手制で答えを募っていきます。皆さんは、いくつだと思われますか。
志村からの正解は、「ハングルはカッコ付きであるものの、仮名文字以外はすべてアルファベットです」。へぇ、そうなんですねぇ。
「アルファベット」とは、「1文字が1音に対応している」ものを表すとのこと。仮名文字は例えば、「こ」という文字に対して、[k]と[o]という2つの音を組み合わせる必要があるため、「1文字=1音」ではなく、つまりはアルファベットではないということなのだそうです。
③必ずしも文字が良いわけではない(by塚本)
さて、Part1のミニ講義もそろそろ終わりが近づいてきました。マイクは再び塚本に戻ってきます。
アラビア語を学んでいる塚本からは、最後にこんな話がありました。
4世紀頃に誕生したとされるアラビア語は、イスラム教の聖典であるクルアーン(コーラン)がアラビア語で書かれたことにより、イスラム教の拡大とともに普及した、という歴史があるそうです。宗教と文字が密接なつながりを持つ例と言えそうです。一方で、(バラモン教・ヒンドゥー教の聖典である)ヴェーダは、文字が誕生した後も文字には表さず、口伝えによる伝承が守られてきたというのです。つまり、「文字に表すことが必ずしも良いこととは限らない」ということ。
ここからは私見ですが、私たちはつい、「文字で書き表されたものがすべて」と思ってしまいがちです。けれども、文字に書かれないもの、文字では書き表せないものにもまた、人の心が宿っていることはヴェーダのことを考えてみても明らかです。いや、昨今のインターネット上のやりとりなどを眺めていると、書かれているのにも関わらず、残念ながらそこに宿った心を理解できていない例を見かけることもあります…。
話はやや逸れてしまいましたが、私たちは今一度、「文字を書く」ということについてじっくりと思いを巡らすべきなのかもしれませんね。
【Part2】
ミニ講義の後は、参加者の皆さんを交えてのフリートークタイム。今回のこもれびよりには、下は4歳から、上は60歳代の方まで、実に幅広い年齢の8名にお集まりいただきました。
ミニ講義を受けて、「世界にはなぜこんなにたくさんの文字があるのだろう」といった素朴な疑問からスタート。ああでもないこうでもないと皆で話し合っているうちに、いつの間にか話は、「どうすれば語学は上達するのか」という、シンプルにして深遠なる(?)テーマに。
世間的には、「外国語はネイティブに教わった方が身につく」という声が多く聞かれるところですがこの点、志村が実に興味深い喩え話をしていました。
「皆さんは、これから雪山を登ろうとしている登山者です。ガイドとして一緒に山を登ってほしいのは、雪山の山頂で生まれ、山頂の景色しか見たことがない精霊でしょうか。それとも、一度頂上まで登りきってから麓まで降りてきた人、つまりは途中の道で気をつけるべきポイントなどが分かっている存在でしょうか」
ここで「精霊」とされているのがネイティブ、もう一方が非ネイティブです。志村曰く、ネイティブはたしかに、頂上の景色を伝えることはできるけれど、登り方を知っているわけではない。時には、親切に麓まで降りてきてくれる精霊もいるかもしれないが、それはかなり稀。そう考えると、一度登頂した経験のある非ネイティブに習った方が、確実に頂上に辿り着けるというのです。
そう言われると皆さん、なんとなく腑に落ちるのではないでしょうか。胸に手を当てて考えてみると、日本語話者である私ですが、日本語教育の専門家ではありません。ですから、いきなり「助詞って何?『が』と『は』の違いは?」と聞かれたとしても、満足のいく答えを返せる自信がありません。残念ながら、語学教育において、専門家ではないネイティブは万能ではないのです(そんなこともあって、ここ語学塾こもれびは、「ネイティブのいない語学学校」を謳っているのでした)。
また、今回の参加者の中には継続して語学学習に取り組んでいらっしゃる方が複数名いらっしゃったことから、「どうやってモチベーションを維持するか」という点も話題になりました。これまた、皆さん共通の、永遠のテーマです。
個人的には、参加者のお一人の言葉が印象的でした。それは、「(先ほどの雪山の例を使うと)山道だと思わずに進んできたら、いつの間にか頂上にいた」というものです。きっと、目の前のことにコツコツと取り組んでこられたことの表れなのでしょう。
私自身、一人の語学学習者として常々思っているのですが、語学の道は、「楽しくも険しいもの」です。その意味で、先ほどの方のように「山道を山道とも思わず」という境地に辿り着くのはまだまだ先のことでしょう。単語一つとっても、「覚えては忘れ、覚えては忘れ」の繰り返しで、はて、自分は本当に前に進めているのだろうか、と不安になることもしばしばです。それでもなお学習を続けるのは、「外国語を学ぶのは、楽しい」という思いがあるからに他なりません。「同じ事象を言い表すのに、こんなに違う表現を使うんだ!」というやや観念的なことから、「この音、日本語にはない音で、なんだかすごく格好いい!」という単純なことまで、語学学習には様々な楽しみが溢れています。
冒頭にも申し述べましたが、私は語学塾こもれびのスタッフ見習いです。特に皆さまに何かをお教えしたりする予定は、今のところありません。ですが、通ってくださる皆さんと同じ「学習者」として、先ほどの雪山の例をまた持ち出すならば「登山チーム」の一員として、助け合い、励まし合いながら山を登っていければ、と思う次第です。
あぁ、また話が逸れてしまいました…。そんなこんなで、「こもれびより」の第5回目は、いつも以上に「語学」色が濃い時間となり、大いに盛り上がったのでした。
改めまして、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
次回の「こもれびより」は4月27日(土)14:00~16:00の予定です。テーマは決まり次第、WebサイトやTwitterなどでお知らせしますので、ご興味のある方はぜひ、足をお運びいただけますと幸いです。
【おまけ】
今回の「こもれびより」も、美味しいお菓子とともにありました。左手前のパイは生徒さんの手作り、奥のチョコクッキーは塚本の手作りです。次回もまた、お菓子と飲み物を味わいながら、のんびりお話ししましょう。