「味の素、完全栄養食を主食に 食卓でも『タイパ』重視」に注目!
味の素、完全栄養食を主食に 食卓でも「タイパ」重視 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
効率的な栄養摂取をうたう「完全栄養食」が主食として広がっています。味の素やポーラ・オルビスホールディングス(HD)系が参入したほか、新興のベースフードなどもラインアップを拡充。補助的な食品として登場しましたが、タイムパフォーマンス(タイパ)と健康への意識の高まりで成長しています。
「ちょうどいい風味ですね」。6月中旬、味の素の食品研究所(川崎市)の調理室。机には調味料やビタミン剤の粉末などがのった皿が10枚ほど並びます。加工食品開発グループ員の佐々木梨紗さんは皿から粉末をすくって電子はかりで測定。0.2グラムをスープに入れてかきまぜ、スプーンで口に運んでうなずきます。
佐々木さんが開発しているのは、味の素が1月に発売した女性向け完全栄養食「One ALL(ワンオール)」の新製品です。チーズ味とバターチキンカレー味のスープパスタの2種類あり、ネットで5袋入り2990円(送料別)で発売しました。定期購入者が想定の2倍に達したといい、2024年度内に新味の投入を目指します。2025年度以降にはパスタ以外の主食タイプも開発する考えです。
同社は「温かく、メインの食事として食べられる栄養食がほしい」といった多忙な女性からの要望に着目し、開発を決めました。栄養素は既製品を混ぜ合わせれば必要量を簡単に満たせます。問題は味です。
100パターン以上のサンプルから最適なバランスを探し、ミネラルなどから生じるえぐみなどを抑えました。早川真輝プロダクトマネジャーは「タイパがよい形で栄養を摂取できる完全栄養『主』食をつくれた」と話します。
厚生労働省はたんぱく質や脂質など日本人に必要な33種類の栄養素を定めます。完全栄養食とはこの栄養素などを効率的に摂取できるとうたう商品です。2010年代前半に米国で登場し、当初は水などに入れて飲む粉末や仕事の合間に食べるバー状の製品など食事を補助する意味合いが強かったですが、潮目が変わってきています。
料理を作ったりメニューを考えたりする時間の削減といった「時短」を求めるビジネスパーソンを中心に、食事の代わりになるような食べ応えのある製品を求める声が高まりました。新型コロナウイルスの流行で栄養を摂取する意識が高まったことも市場拡大のきっかけとなりました。
日本で主食としての完全栄養食が知られる契機になったのは、東証グロースに上場する食品スタートアップのベースフードの登場とされています。2017年に自然食材を多く使用した完全栄養食のパスタ「べースパスタ」を発売し、2019年にはパンまで手を広げました。
2024年4月に焼きそばを発売するなど定期的に新製品を開発し、同年度中もさらにパンなどで新味を計画。ベースフードの橋本舜社長は「誰もが口にする主食を変えれば、一人ひとりが手間をかけずに健康になれる」と話します。
異業種からの参入もあります。ポーラ・オルビスHD子会社で化粧品を手がけるオルビス(東京・品川)は5月、市場で初めてとみられるおにぎりの完全栄養食「ココモグ」を専用サイトで発売しました。9食(おにぎり18個)の定期販売は6033円(送料別)。発売から約3週間で出荷が3000個以上といいます。
おにぎりを選んだのは、「日本人になじみが深く、手軽に食べられる普段の食事として定着を目指した」(同社新規事業開発グループの塩谷貴生グループマネジャー)ためです。今後は企業向け福利厚生サービスとしてオフィスでも購入できるようにするなど法人向け営業にも力を入れます。今後5年のうちに年20億〜30億円の売り上げを目指します。
完全栄養食は当初、ネット通販での限定販売というケースが多かったですが、コンビニエンスストアで目にする機会も増えました。2022年には日清食品が新ブランド「完全メシ」を立ち上げて商品の幅が広がりました。ローソンも2024年5月、33種類の栄養素を配合したとするパン「サポートブレッド」を大手パンメーカーと開発して全国で売り出した。製品の幅や販路が拡大しており、ベースフードの溝口究ブランドマネジャーは「外部機関の調査も踏まえ、完全栄養食の国内市場は30年には500億円を超えるとみる」と話します。
課題はあります。完全栄養食には公的な定義はなく、企業ごとに基準や表示が異なります。消費者は品質などを見極めるのが難しい。2016年には米国で完全栄養食と同じような意味合いの「完全代替食」をうたう食品「ソイレント」で体調不良の報告が相次ぎました。
消費者庁の栄養成分表示に関する検討会でも有識者から「完全栄養食という表現は(これだけ食べていれば健康になるなどの)誤解を消費者に与える」と指摘が出ました。
こうした指摘は企業側も把握しています。味の素など完全栄養食を手がける企業の多くは、ホームページで製品に含まれる栄養素の種類や厚労省の定める基準に対してどのくらい含まれているかなどを細かに表示しています。
日清食品などは2023年、一般社団法人「日本最適化栄養食協会」を立ち上げました。33種類の栄養成分が科学的根拠に基づいてバランス良く含まれる食品を「最適化栄養食」と定義し認証します。ただ、日清食品グループ以外にはほとんど広がっていないのが実情です。
ダイエット目的で購入している消費者も多いです。3食全てを置き換えたら1日に必要な摂取カロリーに足りない懸念もあります。完全栄養食の一層の普及には、消費者の理解促進に向けた取り組みもこれまで以上に重要になります。
味の素の「One ALL」は、手軽に栄養とカロリーセーブを両立したものとして女性のための「完全栄養食」として発売されています。<濃厚クアトロフォルマッジのスープパスタ><バターチキンカレー風味のスープパスタ>の2種類が発売されています。2022年の完全栄養食の国内市場規模は、食事に対する健康意識と簡便性の高い食品需要の高まりから、約144億円まで拡大しているそうです。
味の素が完全栄養食について女性を対象に実施した調査では、有職率の増加に伴い、食事にかける時間は短くなっているものの、健康のために食事の栄養バランスを意識しているという声が多く聞かれ、約半数が完全栄養食を食べてみたいという意向を示したとのことです。
一方で既存の完全栄養食は、男女の食事摂取基準の平均値に合わせて設計されていたり、女性の平均値に合わせていても一部の栄養素が必要量に対して不足していたりするため、女性のための完全栄養食としての条件を満たす製品は市場には存在していないのが現状であり、味の素は日本初となる女性のための完全栄養食を開発しました。
新しいニーズにも取り組む味の素に今後も期待しています。
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