「共同親権」は本当に子どものため? 慎重審議を求め、当事者らが発言
離婚後の「共同親権」の導入に向け、法制審議会で議論が進んでいる。審議会が10月から月2回のハイペースになり、次の国会にも法案が提出されるのではとの見通しもある中、拙速な共同親権の導入に危機感を覚える当事者、支援者らのグループが11月22日夜、衆議院第1議員会館で集会を開いた。
主催したのは「『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会」。当事者や支援者に加え、弁護士や学識者ら150人・団体が参加している。
日本は現在、離婚後はどちらか一方の親が親権を持つ「単独親権」だ。多くの場合、子どもと同居する親が親権と監護権を持ち、子どもの医療・教育などに関する意思決定を行ってきた。これに対し、離婚後、子どもと面会できないと訴える別居親らが、欧米と同様の「共同親権」を求めている。
法務省が今年4月に法制審議会に提出した案は「夫婦間に真摯な合意がある場合」に「共同親権」を認めるとした。その後、「合意がない場合でも裁判所が共同親権を決定できる」と要件が大幅に拡大された。同意を必要とする対象も、重要事項から日常の生活行為に広がっている。このため、共同親権や別居親の介入を望まない当事者、特にDVや虐待の被害者らが危機感を募らせている。
「親権がないから会えない」は間違い
集会では2人の当事者が匿名で体験を述べた。
【Aさん】
現在、子どもと2人で暮らしています。子どもの親権は元夫が持ち、監護権は私が持っています。養育費は支払われていません。面会交流は子どもの意思で行っていません。離婚当初、子どもは私と生活していましたが、私が救急搬送され、緊急入院したのがきっかけで、元夫の下で元夫の両親と生活することになりました。元夫は働かずアルコール依存症気味で、子の面倒を見てくれていた両親も年を取って持て余すようになりました。そこで子どもが中学に入学する前に、調停審判を経て監護権の変更をしました。以来、私が一緒に生活をしています。元夫はずっと無職でアルコール依存症もひどくなり、引きこもって飲酒し、生活は親の年金で賄われています。私に監護権が認められ、子どもが納得の上で私の方に来たのですが、元夫は「連れ去り」だといい、電話の着信が延々と続いたり、何十通もメールが来たり、インターフォンを鳴らして玄関先に居座ったり、子どもの学校に乗り込んだり。何度も警察に連絡をしてきました。
今は引っ越しをして住所を伏せ、学校を知らせていないので、やっと安心できる生活にはなりましたが、元夫からは監護権を取り戻す調停を申し立てられています。調停は不成立で現在は審判に移っています。
共同親権の導入について、当事者として思うのは誤った情報が広め過ぎられているということです。「親権がないから(子どもと)会えない」「共同親権になれば会える」というのは間違いです。私には親権がありませんが、別居中に会わせないという元夫に対し、面会交流の調停を申し立てて、その結果、会えるようになっていました。逆に、親権のある元夫は別居以降、子どもと会えていません。養育費の支払いが2割しか履行されていないのに、面会交流の実施が3割というのは、養育費の大切さが軽んじられていると思えてなりません。私の子どもが面会交流を拒むのは、少ない養育費が支払われないことで、父親に対して怒っているからです。
ひとり親はとても大変な部分があるのに、共同親権が導入されることでさらに負担が増えて、もっと追い詰められるのではないかと思います。元夫に子どもの住所や学校が知られたら困ります。いつ嫌がらせが来るかわからない生活にはもう戻りたくありません。
話し合いは不可能です。離婚後はもっとこじれて、今では私への嫌がらせで子どもに被害が及ぶことに思いが至らないようです。
監護権を申し立てていても、元夫が子どもの様子を気にすることはありません。誕生日にプレゼントどころかメール1通届きません。私の思うようにことが進んでいるのが気に入らないだけだと思います。
共同親権の導入をこのまま推し進めることはやめていただきたいです。
モラハラ夫との共同親権は恐怖
【Bさん】
小学生の子どもがいます。夫のモラハラに耐えられず、離婚しました。元夫とこどもの面会交流は毎月実施しています。最初、養育費は要らないから面会交流はしたくないと言ったのですが、弁護士に「それはできない」と言われました。今では、「子どもがお父さんに会って楽しいなら、いくらでも会えばいい」と思っていますが、子どもは面会交流の日になかなか起きられず、「行かない」ということもあります。とても駅までは歩けず、待ち合わせの時間もあるのでタクシーを呼んで無理矢理連れて行くこともあります。誰のための面会なんだろうかと思う日々です。
元夫は暴力はありませんでしたが、ひどいモラハラでした。会話ができず、私が何を言ってもバカにされるか、否定されるか、怒られるか、無視されるか。
毎日必ず家事について、本当に些細なことで怒られていました。髪の毛が落ちているとか、冷蔵庫の食品がキレイに並んでいないとか、排水口を掃除しろ、とか。
ドアを大きな音で閉められるのが特に怖かったです。いつどんなことで怒られるか分からなかったのでずっと緊張し、体がこわばり、ひどい腰痛になりました。でも、別居したらすっかりよくなりました。
8年ぐらい我慢しました。毎日怒られ、自分は家事ができないと思っていたので、離婚など考えたこともありませんでした。あるとき、夫が出張で一週間不在にした時、私一人で家事も育児も全部できるし、とても平和だと気づきました。
子どもはかんしゃくがひどかったのですが、元夫が急にルールをつくるので、子どもは余計にパニックになりました。小学校で発達検査を受けて通級に申し込むつもりだったのですが、元夫から「変な目で見られる」「子どものことをよく考えろ」と怒られ、とても子育てを任せられないと思いました。子どものことを理解せず、「中学を受験させる」「偏差値の高い学区に引っ越す」などと言い出すこともありました。進学先を一緒に決めることはできないと思っています。
もし共同親権が成立し、離婚した夫婦にも遡って適用されることになれば、元夫は他人が持っているものは欲しがるので、親権を求めて申し立てをするに違いありません。しかし私は暴力を受けたわけではなく、精神的DVの証拠が出せるわけでもありません。共同親権が適用されたら、また子どもはパニックになり、私は恐怖で笑うことができない日々に逆戻りします。親権とは一体何なんでしょうか。子どものためになるというのはどういうケースなのでしょうか?
子どもの日常の様子や興味関心を理解している同居親が、子どもの意思に同意して進学先を決める時に、なぜ別居親の同意が必要になるのでしょうか。(同意を)拒否されたらどうしたらいいのかわかりません。
子どもの頃に尊重されずに育ち、大人になって自分の配偶者や子どもの自由を奪うようなやり方しかできないような人もいると感じています。その人に必要なのは共同親権ではなく、専門家による適切なケアです。家族においても個人を尊重することの大切さを是非理解していただきたいです。
大人だけの議論 リスクある子どもはかやの外
フリーライターで編集者の今一生さんは「子どもの立場からみた親権」について、これまで関わってきた子どもたちの声を代弁した。
離婚後の共同親権については大反対です。そもそも離婚する前に両親が揉め、子どもはずっとそれを見ています。離婚時に「どっちに付いてくる?」といわれても、どっちも嫌だという子どもがいる。これを無視して両親が子どもの腕を引っ張り合うのには、うんざりです。
子どもは「なんで親を選べないんだろう」と悩んでいます。
子どもには親と会いたくない、会わないでいられる権利があってもいいのに、日本の法律はそれを保障していない。
学校では付き合う友達を選べる。でも、親は選べない。親と付き合いたくないといっても、親権停止や親権喪失には家裁の手続きがいる。婚姻関係は契約ですが、子どもは親と契約して、その親の下に生まれてきたわけではないんです。
自分のことを分かってくれる大人の下で育ちたいと願っても、里親になる手続きは煩雑で、親権喪失を求める手続きは、学校では教えてくれない。
15歳以上はどちらの親に付いていくかについて家裁で意見をいう権利はある。
でも、虐待する親は子どもにとって恐怖の対象なのに、なぜ、15歳を過ぎないと意見表明すらできないのでしょうか?
日本の民法では成年に達しない者は「父母の親権に服する」としています。「服する」とは、一方的に従うということです。
子どもは拒否する権利も交渉する権利も、避難する権利もない。
子どもが児童虐待防止法で定義されている4つの虐待以外の虐待をされていても、親から逃げると家出とみなされ、非行少年扱いされます。
宗教2世、ヤングケアラー、家の継承の押しつけなど、法律に規定されていない虐待はいくらでもある。
親に虐待される痛みを知らない有識者による議論だけで、児童虐待防止法は作られてきました。今回の共同親権についても、同じで、大人だけで議論しています。なぜ、リスクやデメリットを負う子どもをかやの外に置いて、議論を先走りするのでしょうか。親の権利ばかり主張して、子どもの権利をないがしろにする親は少なくない。親権の濫用があったかどうかが虐待の判断基準ですが、親権とは何かを説明できる親はほとんどいない。親権は、子どもにとっては恐怖の「奴隷制度」です。家を出るために働いてお金を貯めようとしても、アルバイトには親権者の許可なしには働けない。親権者には財産管理権もあります。
子どもの権利や親の責任について知らないまま、議論を進めている。
共同親権になってしまえば、子どもは親権者に二重に支配されてしまいます。
「子どもが可愛いさかりに会いたい」というのは、子どもの会いたくない権利を守ろうとしない親のエゴに過ぎません。
子どもが成人したら、会いたいと思えば会えます。親が、子どもに会いたいと思われるような人間に成長すればいいだけのことです。子どもに会いたいなら、会いたくなるような魅力的な人間に変わろうとしましょうよ。それすらやらずに「俺を信頼しろ。俺にはお前に会う権利がある」なんて言っている別居親は、子どもから見れば軽蔑の対象です。
もしこのまま議論が進むようなら、せめて面会交流の際は、未成年後見人を必ず同席させ、子どもに危害が及ばないようにするという担保が欲しいです。
離婚後の虐待・嫌がらせの調査を
弁護士の岡村晴美さんは「なんのための家族法改正なのでしょう?」と問いかけた。
現在、DV被害者は、受難の時をむかえています。
ワンオペ育児で、DV・モラハラを受けても、子どもを連れて逃げれば、「連れ去り」「実子誘拐」などと非難され、刑事告訴や、民事裁判、受任弁護士への懲戒請求など、ポストセパレーション・アビューズ(離婚後の虐待・嫌がらせ)を受けています。とりわけ、司法手続きを利用したリーガル・アビューズは、深刻な被害を生み出しているが、それについての調査がされていません。必要性と弊害のバランスをみていただきたい。子ども達に対して、責任を持って子育てしてきた人たちを危険にさらすようなことがあってはならない。DVや虐待事件を取り扱ってきた弁護士の現場の意見として、切実に申し上げたいと思います。
家父長制の父権の介入となりかねない
集会には、自民、維新、立憲、共産、社民、れいわの各党から国会議員や秘書の参加があった。出席議員からは「親権は権利と誤解されがちだが、子どものことに関する判断はひとりの親が行った方がスムーズに行く」「拙速な議論はあってはならない」「命が危険にさらされる問題だと認識している」「ジェンダー平等でない日本では、家父長制の父権の介入になりかねない」などの意見があった。
SNS上では集会への攻撃的な書き込みなどがあり、当事者は衝立で姿を隠さざるを得なかった。主催者は「被害者が声を上げようとすると加害者が執拗に攻撃をして声を封じようとします。こういうことが起きていることを参加している国会議員にも知ってほしい」と訴えた。
(生活ニュースコモンズ編集部)