2次避難は「ミステリーツアー」 駐車場代金や食費の発生も 能登半島地震
能登半島地震で被災した50代の会社員男性は1月1日の発災から1ヶ月近くたった今も、輪島市内の避難所にいる。石川県や輪島市が2次避難所として登録するホテルや旅館に移動しようと計3回、2次避難の申し込みに応募したが、いずれも条件が折り合わなかったという。いったい何が起きているのか。避難所ボランティアの仲介で体験を聞いた。
見知らぬ人とツインルームをシェア
1月10日、避難所で輪島市からの2次避難のチラシを受け取った。そのころは体育館に100人ぐらいいて、段ボールでやっとついたてを作って、プライバシーが保護されるかどうかといった体だった。会社からはしばらくオンライン会議で出社扱いとするといわれたので、会議の時は、家財を積んだ車の中にこもってパソコンを携帯のテザリングでつないで出席していた。2次避難先のホテルだったら、オンライン会議の出席が多少楽になるかな、と思ってQRコードから申し込んだ。
入力フォームは代表者氏名、電話番号、メールアドレスのみ。あとは避難する人の情報として、生年月日、性別、住所、連絡先。特記事項は高齢者(65歳以上)、障害児・者、妊婦、乳幼児がいるかどうか。食事の形態やアレルギーに配慮が必要か、要介護や障害種別、ペットを飼っているかどうかも書く欄はあったが、1人暮らしだったので、特には記さなかった。
2〜3日後、市役所から「明日の12時30分に、旧輪島駅に集合してください」と連絡が来た。どこに行くのか、その時点では一切説明がなかった。まるで「ミステリーツアー」です。
集合時間の少し前に行ったら、その場で施設の案内と部屋割を渡された。ホテルのツインルームを、顔も名前も年齢も知らない男性とシェアすることになっていた。それでは部屋でオンライン会議に出ることはできない。まして、見知らぬ人と、終わりの見えない避難生活をずっと共にするなんて、トラブルが起きたらどうするのか?プライバシー空間やストレスについてまるで理解がないと思った。
2次避難所の方が、1次避難所よりプライバシー保護が後退することがあるんだな、それでは意味がないな。そう思って、その場で2次避難所行きを断った。
駐車場代別途1日700円、食事も必要なら別料金で
数日後に石川県の2次避難所/1.5次避難所運営事務局コールセンターに連絡した。明らかに県の職員ではない委託業者の人が、不動産の空き物件をあっせんするみたいに、「マッチング」してくれた。
「金沢市のホテルなら空きありますよ。食事は付きません、駐車場料金が別途1日700円かかります」
駐車場に月2万円は払えない。食事が付かないということは、3食外食。コンビニ弁当だとしても、高くつく。
「それは無理です、払えません。このマッチングをお断りしたらどうなるんですか?」ときくと、「いったん登録抹消となります。この登録のまま次のあっせんはしません」と言われた。
仕方がないので、もう一度登録し直した。次のホテルも金沢市内で、食事なし。「食事をつけるとなると、朝、昼、晩の合計で1日5680円の追加料金が発生します」と言われた。断って2度目の登録抹消となった。
いま、もう一度、輪島市に問い合わせをしているところだが、「ちょっとすぐにご案内できる施設はないですね」という返事だった。
県も市も1人1万円という限られた予算内に収めようとして、1人1部屋は無理とか、食事は追加料金とか、そういう事態になっているのだろうと思う。
担当者を責められない。でも、期間の終わりが決まっていない中で、こんな条件で2次避難できるわけがない。
被災者によっては、食事付きですべて無料の2次避難所に「当たった」人もいる。運不運なのか、と思います。
食事なしの施設でマッチング、食費の自己負担は「仕方ない」
石川県災害対策本部に確認した。1月25日現在、2次避難先として1078施設、3万657人分の宿所を確保している。利用されているのは145施設3330人。
1次避難所には最盛期の3分の1になったとはいえ、まだ約1万人が避難している。1次避難や自主避難を継続したり、親戚宅などに身を寄せたりすることを希望する人もいるので一概には言えないが、2次避難所のマッチングが進んでいるとは言いがたい状況だ。
費用負担はどうか。県のホームページには、「滞在費用は無料です(食事の提供については、施設によって取り扱いが異なります)」と書かれている。また、自己負担となるものとして「売店での買い物、洗濯機の利用代、ご提供する食事以外の食事、お酒類、電話代、 駐車場代(有料の場合)など」を挙げている。
2次避難所を担当する県観光戦略推進部は「基本的には、1人1日1万円の範囲内で3食つけて宿泊を提供してください、とお願いしている。食事付きを申し込めばマッチングされるはずだ」と話す。食事付きに空きがなく、食事なしの施設を案内された場合の食費が自己負担となるのは「仕方がない」という。駐車場代に関しては「災害救助法の対象外なので」と説明した。コミュニティーや家族を分断させない2次避難が求められている点については、「孤立集落は集落ごとに大きな避難施設に移っていただくなどしている」とした。一方で、「一部の2次避難所で、ざっくり男女で区分けして部屋割を決めたところもあり、苦情を受け翌日にやり直した」などの実情も明かした。
「被災者の生存権を無視した考え方」
災害時の法律に詳しい兵庫県弁護士会の津久井進弁護士は「災害救助法の基準に拘束力はない。避難生活に必要ならば自治体が実費を負担できる。1日1万円を超えたら、被災者が負担するのは当然、というのは生存権を無視した考え方だ」と指摘する。政府は能登半島地震で2次避難の利用額の基準を1日7000円から1万円に特例的に引き上げた。だが、これは1万円以内に収めなければならないことを意味するものではない。自治体によっては食費に自己負担が生じないように差額を負担しているところもある。駐車場代についても、家が全壊し、家財を車に積んで移動している被災者も多い中、機械的に被災者に自己負担させるのではなく、災害救助法に基づく「土地の借り上げ」「器物(立体パーキング)の借り上げ」を利用して、自治体が駐車場を確保することも考えるべきだという。
今回の能登半島地震でも、富山県黒部市は宇名月温泉旅館協同組合と調整の上、3食付きで2次避難を引き受けた。さらに、2次避難中に市が家財を用意して、市営住宅への入居準備を進め、市営住宅の水光熱費も入居後1年間は「避難中」とみなして無料にする、という手厚い支援パッケージを発表している。
被災者に必要な支援を適切に見積もり、避難中の自己負担ができるだけ生じないように調整するのが、自治体の役割といえるだろう。
(阿久沢悦子)