The Commoner's Kitchen(コモナーズキッチン)

コモナーとしてコモナーとともに料理を作り、テーブルを囲む、農民とパン屋と物書きから成る…

The Commoner's Kitchen(コモナーズキッチン)

コモナーとしてコモナーとともに料理を作り、テーブルを囲む、農民とパン屋と物書きから成るコレクティブ。2024年10月、『舌の上の階級闘争―「イギリス」を料理する』(リトルモア)を刊行。

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連載"Bake-up Britain"が本になります。

久々の投稿になります。 みなさまいかがお過ごしでしょうか? 2022年12月から2023年11月まで連載しておりました"Bake-up Britain"シリーズが、このたび書籍化され、『舌の上の階級闘争―「イギリス」を料理する』として、リトルモアから発売されることになりました。 「今年にはいってから更新されてないけど、どうなってるの?」といった声を多数いただいておりましたが、じつはこの間、書籍化に向けて、いろいろと準備を進めていたのです。 本書刊行にあわせ、これまでの連

    • 『舌の上の階級闘争―「イギリス」を料理する』刊行記念イベントのおしらせ

      コモナーズ・キッチン著『舌の上の階級闘争―「イギリス」を料理する』(リトルモア)の発売(10月3日)に先立ちまして、9月23日に神戸市灘区にある西灘文化会館にて、刊行記念トークイベント+試食会を開催いたします。 本の紹介や「イギリス」の料理について話はもちろんのこと、本ができるまでの経緯や、キッチンや農場での作業の様子といった「裏話」、本には収録できなかった写真や動画と、盛りだくさんな内容を準備しています。 そしてなにより、本書で扱った料理を参加者のみなさまにも味わってい

      • 【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #42】ロースト・ビーフ(1/4)

        古きイングランドのロースト・ビーフいつか食べるといい、ロースト・ビーフを。できるなら寒い季節の昼下がりがいい。窓から柔らかく光が差し込む古いパブの木のテーブルで、ワインではなくエールを、いや、むしろスタウト(黒ビール)を、「柄がついていないグラスで出すような愚」(*1)を犯さずに、ジョッキか陶製のマグで添えて食するのがいい。ヨークシャー・プディングは必ずあったほうがいい。たっぷりとかけられたグレービー・ソースを余すことなく掬うことができるから。付け合せは人参とジャガイモ。ホー

        • 【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #38】イングリッシュ・ブレックファスト(1/4)

          朝以外もブレックファストブレックファストとは、ファスト(絶食/断食)をブレイクする(破る)という意味で、前夜の夕食からしばらく時間を経て初めて食べる食事だからそう呼ぶのだという。もともとはカトリックやイギリス国教会のしきたりで、イースター(復活祭)前の40日間に及ぶ断食が明けた後の食事に由来するという話もあるのだが、そういう細かいことはこの際どうでもいい。問題は、かのサマセット・モームに「イングランドでちゃんとしたものを食べたければ、1日3回ブレックファストを食べればいい」と

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        連載"Bake-up Britain"が本になります。

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #34】グリーンピースのスープとシェパーズ・パイ(1/4)

          「普通」の味ちゃんと食べてみると美味いし、落ち着いてよく考えて味を思い出してみると美味いのだが、その印象が美味さに即座に結びつかない食べ物というものがある。たとえば、グリーンピースのスープ(Pea SoupもしくはGreen Peas Soup)のようなもの。スープ・ストックを骨付きハムでとったり、ミントと一緒にミキサーにかけたり、クリームを入れたりとレシピは複数あるが、春から初夏にかけて、グリーンピースの美味しい季節に生のグリーンピースで作ると本当に美味しい。むろん、秋や冬

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #34】グリーンピースのスープとシェパーズ・パイ(1/4)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #31】サマー・プディング(1/3)

          晩夏の思い出サマー・プディング、サマー・プディング。ラズベリー、イチゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、マルベリー(桑の実)、黒スグリに赤スグリ。イギリスの夏を彩るベリー類を砂糖で煮て、軽めのコンポートを作る。ジュースをたっぷり染み出させて、買ってから少し時間が経ち、乾いて水分を吸いたくて仕方なくなっている食パンをボールの底に並べて貼り付け、その中にベリーのコンポートをジュースごと注ぎ入れる。食パンで蓋をして冷蔵庫で一昼夜。 ジュースを吸ったパンに染み込んだ甘酸っぱいベリーの

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #31】サマー・プディング(1/3)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #27】 キュウリのサンドウィッチとポークパイ(1/4)

          「ザ」・サンドウィッチ夏はピクニックの季節だ。梅雨の日本のように雨と湿気にさいなまれることもなく、好天に恵まれ爽やかな風が吹き、盛夏にまでは少し間がある6月から7月にかけてのイギリスは、ピクニックに最適である。緑豊かな芝や牧草の続く緩やかな丘がいい。できるだけ高いところまで登って、籐編のバスケットからでなくともいいが、食べ物や飲み物を取り出して、敷いたテーブルクロスに並べる。上流でも中流でも労働者階級でも、ピクニックはするものだ。上流階級は社交やちょっとした気晴らしとして。労

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #27】 キュウリのサンドウィッチとポークパイ(1/4)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #23】 バンガーズ&マッシュ(1/4)

          ソーセージと自由メル・ギブソン主演『ブレーブハート』(1995年)の有名なセリフだ。スコットランドの英雄ウィリアム・ウォレスを描いたこの大河映画。イングランドとの決戦に臨む前に味方を鼓舞するために吐かれたセリフだが、スコットランド軍がイングランド軍を破ったこのスターリング・ブリッジの戦いが1297年なので、遅くとも13世紀の終わりまでにはソーセージが食べられていたことになる。 いや、これはあくまでも創作であり、そもそも13世紀末のスコットランド人が「自由(freedom)」

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #23】 バンガーズ&マッシュ(1/4)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #19】 ロールモップとキッパー(1/4)

          「銀のダーリン」、ニシン2ヶ月続けて魚料理である。理由は単純で、イギリスでも魚をよく食べるからである。黒潮の恵みに与れない北国ゆえ食べられる種類は少ないが、それでも、魚はよく食べられる。フィッシュ&チップスの国だと言われているのだから、当たり前なのだが、この当たり前がなかなかイメージされにくいようである。 まずはロールモップ。ただの酢漬けニシンではない。胡椒、コリアンダーの種やフェンネルの種などのスパイスや、ディルやローリエの葉などのハーブの香りを移した酢に付けたニシンで、

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #19】 ロールモップとキッパー(1/4)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #15】 ジェリード・イールとミート・パイ(1/4)

          ゼラチンが固め、パイが包むものウナギをぶつ切りにして塩味のスープで煮込んでから冷まし、ウナギの身自体から出るゼラチン質でかためて「煮こごり」のようにした食べ物と、牛肉のミンチをブイヨンで煮込んだものをパイで包んだ食べ物をなぜ2つセットで語るのかといえば、もともとパイの中身はウナギだったのだが、乱獲や水質汚濁でウナギの漁獲高が激減し値段が高騰したため、それを安い挽き肉で代用するようになったという経緯があるからである。そのため、ジェリード・イール(ウナギのゼリー寄せ)とミート・パ

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #15】 ジェリード・イールとミート・パイ(1/4)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #11】マーマレード(1/4)

          マーマレードと階級数年前の、ほんの数年前の『デイリー・メイル』紙の記事にこうある。自分がどんな階級に属しているか、誰がどんな階級に属しているか、もはや自覚することすら困難なこの階級意識を、丁寧にも明らかにしてくれる食材としてマーマレードが選ばれているのだ。 ここで言われているマーマレードとは、「セヴィル・オレンジ」(ビター・オレンジとも呼ばれる)を使ったマーマレードである。1874年にオクスフォードに住んでいたサラ・ジェーン・クーパーなるご婦人が、果肉は苦いが皮の香りがよい

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #11】マーマレード(1/4)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #7】フィッシュ&チップス(1/4)

          イギリス料理の定番?マダラやコダラ、オヒョウ、カレイ、シタビラメといった北の海で採れる白身の魚に衣を付けて油で揚げ、太めの拍子切りにしたジャガイモをこれまたラードで揚げ、塩とモルトヴィネガーをたっぷりかけて、できれば手で食す。少しいい店で注文すれば、潰したグリーンピース(マッシ―ピー)やタルタルソースが横に添えられていることも多い。 「フィッシュ」の衣には、薄力粉にベーキングパウダーやコーンスターチが加えたものが使われる。日本ではしばしば「魚フライ」と訳されるが、英語の"f

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #7】フィッシュ&チップス(1/4)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #4】 ベイクド・ビーンズ(1/3)

          ベイクド・ビーンズが象徴するもの目玉焼き、ベーコン、ソーセージ、炒めたマッシュルームやトマトなどからなるいわゆるイングリッシュ・ブレックファーストには必ず添えてあるし、イギリスを旅してベッド&ブレックファーストや朝食付きの大学寮やユースホステルに泊まると、必ずそれはそこにある。白インゲンをトマトソース・ベースで甘しょっぱくオーヴンで煮込んだベイクド・ビーンズ。それをトーストした薄い食パンに乗せたビーンズ・オン・トースト。 「イギリスの飯は不味い」と判で押したように疑わず、ま

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #4】 ベイクド・ビーンズ(1/3)

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #1】 クリスマス・プディング (1/3)

          クリスマスにはプディングを 1850年の「イラストレイティッド・ロンドン・ニュース」紙がこう書いているプラム・プディングこそ、いま私たちがクリスマス・プディングと呼ぶ、イギリスのクリスマスの食事には欠かせない食べ物のことだ。 「プラム」と言うからといって、プラム(スモモ)が入っているということではない。ここでの「プラム」とは、すぐ手に入る干した果物の総称、ぐらいの意味なのだ。干しぶどう、オレンジやレモンのピール、くるみなどのナッツ類、卵、砂糖、小麦粉に、シナモン、メースやク

          【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #1】 クリスマス・プディング (1/3)

          この連載について

          「何を食べているか言ってごらん。どちらの階級の人間なのか、当ててやろう」。 ブリア・サヴァランがイギリス人だったらこう言ったかもしれない。 どうやらイギリスという国の社会には、どんな料理を誰が作るのか、誰が好むのか、誰が嫌うのかという分断によって色付けされてきた歴史があるらしい。特に階級によって、財産を持つか持たないかの違いによって、身体と時間を貨幣に換算しなくても生きてゆかれるか、そうでもしないと喰うに困るか、の違いによって、作って食べる料理が大きく異る、らしい。 そ