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アポローンと月桂樹の、少し怖い話
神話だからこそ恭しく、清い気持ちで物語を受け取ろうと思ったけれど、醒めた目で見れば、けっこうギリシアの神様にはろくでもないのが多い。こんなことを言えば罰が当たるだろうか、けれども、空の輝きゼウスは浮気性だし、息子アポローンはダプネー(河川の精霊)をまるでストーカーのように追いかける。
「ニンフよ、ペーネオイスの河の娘よ。お前を追う私は、けしてお前の敵ではないんだよ。まるで狼に追われる子羊みたいに、お前は逃げていくのだね、獅子に追われる小鹿のように。お待ちったら。・・・しかし、僕が追うのは、お前がただ可愛いからだよ。お待ちったら。蹴つまずいて、ころぶと危ないよ、怪我したら大変じゃないか・・・立ち止まって、お前を追うのが誰か聞いておくれ。僕は山男でも、羊飼いでもないんだよ。・・・僕はあのデルポイの郷の主なんだ、クラロスもテネドスも、僕の領地だ。あのゼウスが、僕の父親なんだよ。予言の術も僕によって、あの竪琴も僕によって、歌に答えるのだ・・・」
うん、怖いね。もちろん、アポローンがこうなったのも理由があって、恋神エロースの弓の技術を茶化したせいで彼から黄金の鏃(やじり)の、「当たったものを、いとしい思いに燃えたたせる」矢を射られてのことだった(ちなみにダプネーには鉛の鏃の、「これに当たれば、ただ人がうとましく、厭らしく思われてくる」矢が放たれた)。
しかしそれにせよ、モテない男からこれをされたらゾッとするだろう。神様のご乱心だからこそ、お話になるのではないだろうか。
とうとうダプネーは力尽きてしまう。鉛の鏃の矢に射止められた彼女は、アポローンに恐怖する。
「お父さま、助けて。私をこの男の人から護って。もしお父さまが神様なら、私の美しさを、この人のものにさせないで下さいまし」
少女の祈りが、まだ口もとを去るか去らないかに、はげしい痺れが彼女の足をとらえた。そしてその脇腹は、見るまに、固い樹皮で覆われていった。ふさふさと、初夏の太陽に輝いて波を打っていた金髪は、みどりの葉に変り、両腕はおなじようにすんなりとした枝となった・・・
こうしてダプネーは月桂樹に変身する。月桂樹のギリシア名はまさにこのダプネーである。
しかし、アポローンはただで引き返さない。
「ダプネーよ、お前はもう私の花嫁にはなれなくなったが、それでも、少なくとも私の樹にはなってくれよう。これからのち、私の髪も、私の竪琴も、私の箙も、みなお前の枝で飾られよう、月桂樹(ダプネー)よ。そしてあるいは華やかな競技の場に勝ちを得た若者も、また輝かしい勲功を立てて祖国に凱旋する将軍も、その頭をお前の葉で取り巻くだろう」
さて、ダプネーは結局救われたのだろうか、私にはそう思えないのだが・・・
「強引に迫られたい、しかしイケメンに限る」
みたいなことなのかなと、モテない筆者は悲しい想像をしてみる。アポローンは小アジアに由来する、植物の精の権化として、ギリシア国内で男神として圧倒的な人気を誇ったという。そんな誉高い神様からの熱っぽい求婚であれば、嬉しいものなのだろうか。
女性読者がいれば、ぜひコメントを寄せていただきたい。
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