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【淫怪夢幻想郷物語】第一話 「新生活」

この小説は東方project二次創作及び、真夏の夜の淫夢要素が含まれています。東方や淫夢キャラの性格は私個人の解釈で作られていることには注意して下さい。

気が付くと俺は森の中で倒れていた。街灯等の光は一切ない闇の森。空の月だけが妖しく光っていた。俺はどうしてこんなところに居るんだろう。全く思い出せない。俺は森に居る前に何をしていたんだ?

「……。」
駄目だ、思い出そうとすると頭が痛くなる。仕方ない、兎に角歩いてみよう。もしかしたら何か分かるかもしれない。でも起き上がれない。立ち上がろうとすると全体に痛みが走った。手は少しだけ動かすことが出来た。試しに手を顔の前にかざして見る。
「…!」
俺の掌は真っ赤に染まっていた。その瞬間嫌な臭いを感じた。これは血だ。どうやら俺は出血しているようだった。…俺はこのままここで死ぬのか?嫌だ。それだけは嫌だ。死にたくない。頭が死への恐怖で一杯になった。死にたくない、でも体は動かせない。
お腹が空いてきた。最後にご飯を食べたのは何時だろう。思い出そうとしたが思い出せない。また頭が痛くなってきた。考えれば考える程脳のエネルギーは消費する。意識が薄くなってきた。俺は本当に死ぬのかな…。


声が聞こえてきた。女の声だ。誰だろう。確認しようと首を動かそうとしたけど力が入らない。
おや???…?誰かが倒れているな。人間か、こんなところにいたら他の妖怪に襲われて食べられてしまうわよ。」
この人は何を言っているんだ?妖怪?そんなものいるわけ無いだろう。俺は反論しようとしたが声が出ない。足音が更に近付いてきた。
こ、???これは…出血がかなり酷いな。妖怪…とは言えないような…。」
相変わらず妖怪等と言っているが正直どうでも良かった。俺はもしかしたら助かるかもしれない。希望が見えたのだ。俺はもう一度頑張って声を出そうとした。
「あ…たす……け…」

少しの間があった。
はぁ???…私そんなお人好しじゃ無いんだけどさぁ。」
そう彼女が言ったあと、俺の目の前に顔が現れた。ぼやけていてよく分からないが、赤い髪に青いリボンをしているように見えた。
仕方???ない、私の家まで運んであげるよ。」
そういった瞬間、肩と足に掴むような感覚がした。いや正確には服を掴まれているのかもしれない。もしかして複数人居たのか?しかし何だか掴み方に違和感がある。一体俺は今どんな状態で運ばれているんだ?…そんなことを考えてる内に、眠気を感じ始めた。多分安心したからかもしれない。目蓋が重くなってきた。そしてそこで意識はそこで途絶えた。

鶏の鳴き声で俺は目を覚ました。障子から眩しい光が差し込んでいる。俺が居る部屋はよくあるような和室で、白い布団の上で寝ていた。俺は体を起こした。まだ痛いが前よりはマシだ。頭や腕、腹や足にまで包帯が巻かれている。
「…相当傷が酷かったのか。」
俺がそう呟いた瞬間、襖が開いて中から女が現れた。髪はやっぱり昨日見たときと同じで赤く、青いリボン。そして服装は黒い服と赤く短いスカート、首は赤いマントで隠れていた。なんだか大分派手な外見だ。正直顔の表情も見辛くて怪しさがすごく高い。でも敵意なんかは一切感じなかった。
やあ???調子はどうだい。」
「まだ痛い所ありますけど気分は大丈夫っすよ。」
それ???は良かった。なんせ貴方血塗れで倒れていたから。」
「マジですか。俺そんなことになっていたんですね。」
よく生きていたなって、俺は思った。本当に感謝しかない。色々と質問しようと思ったが、先に女が話し始めた。

そう???だ、貴方名前はなんて言うのかしら。」
「えっと俺の名前は…」
名前を言おうとした。が、言葉に詰ってしまった。思い出せない。名前が分からない。
ん????どうしたの?」
「お、俺は…。」
必死に思い出そうとした。そしてふと脳裏に名前がよぎった。
「俺は田所浩治って言います。…多分。」
多分????」
はい田所浩治。実は俺、あの森で倒れてた以前の記憶が全く無いんですよ。」
覚え???てない…?貴方の家族や知人のことも?」
…は田所浩治い、なにもかも。だから自分の名前もあってるかどうか不安です。」
なる???程。それは困ったわね…。いくら私がよ…いや何でもないわ。思い出すまで暫くに居なさい。ちょっとご飯作ってくるから。」
あ、田所浩治ありがとうございます。」
そう言って彼女は部屋を後にした。そういえば名前を聞いていなかったな。帰ってきたら聞こう。
周りを確認する。そうだ、自分のスマホは何処にあるのだろう。もしかしたら何かが分かるかもしれない。そう思ってポケットを確認するも無い。彼女が何処かに置いているのだろうか。何にせよ、ここは何処ら辺とか聞くとは多い。

暫くして彼女がご飯を持って戻ってきた。米と味噌汁と漬け物、和食なんてあんまり食べてない気がする。記憶が無いから何とも言えないが。ご飯を食べながら俺は質問した。
そう田所浩治いえばまだ貴女の名前を聞いてませんでした。何て言いますか?」
あー???…私は…赤蛮奇って言う。赤いに蛮族の蛮、奇妙の奇と書いて赤蛮奇。蛮奇とでも呼んでもらって構わないわ。」
赤蛮奇。赤が名字か?あんまり聞かないような名字と名前だった。
あの田所浩治、蛮奇さん。俺のスマホとかありましたか?」
ん?赤蛮奇すまほ?……あぁあの四角い光るやつか。」
妙な間があった。もしかしてあんまりスマホを使わない人なのかな。でも現代なら当たり前の筈だと思うが…。
いや赤蛮奇、そんなものは無かったよ。」
そう田所浩治ですか…あれがあれば何か思い出せると思ったんですけど…。」
スマホが無い、ということは何処かで落としてしまったのか。なら仕方ない。
まあ赤蛮奇焦らずともいつか思い出せるはずよ。」
そう言って彼女は立ち上がりこう話した。
私は赤蛮奇これからちょっと用事があるんだ。悪いけど留守番よろしくね。」
分か田所浩治りました。俺は大丈夫っすよ。」

彼女が出掛けてから数分が経った気がする。とても暇だ。かと言って今無闇に動いたら傷が悪化してしまうかもしれない。俺は大人しく布団の上で過ごすことにした。しかし本当に静かだ。車の音や機械音なんか全く聞こえない。時折人の話し声が聞こえる位だ。相当田舎なのだろう。そんなことを俺は思った。
俺は再び自分が何者だったのかを思い出そうとした。でもやっぱり頭に痛みが走ってる。まるで脳が思い出すな、なんて言っているかのように。だとしたら俺は相当なトラウマを抱えていたのか。思いだしたほうが良いのだろうか。


正直思い出さずにこのまま新しい生活を始めた方がいい気がしてきた。思い出そうとすれば頭が痛くなるんだ。だったらやめればいい。多分その方が…良いんだろう。

ー赤蛮奇ー

私は人里を歩きながら、田所さんの"すまほ"というものについて考えていた。すまほ…思い出した。以前スマホ首という病気のせいで風評被害に遭うということがあった。その時初めてスマホという存在を知った。ただ私はそこまでスマホというものを知らない。確か香霖堂の店主がスマホについて言及していた気がしたので、香霖堂に向かうことにしよう。
別に妖怪の私がそこまで彼について詮索することは無いのだけど、別に気になることがあった。

香霖堂に着いた。何年も訪れてないもんだから変に道に迷ってしまった。そして相変わらず建物の外には沢山の物が置いてある。そういうスタンスは何年経っても変わらないんだな。扉を開ける。
あらい森近霖之助らっしゃい…おや、珍しいお客さんだね。」
どう赤蛮奇も。今日は何か買うとか探してるとかじゃなくて、貴方に聞きたいことがあってここに来たわ。」
僕にか森近霖之助い?」
うん赤蛮奇。実は昨日森の中で人間が居てね、倒れていたもんだから拾って今私の家に居るのよ。」
ほう?森近霖之助もしかして妖怪の君が人助けかい?」
別に赤蛮奇良いでしょ。血塗れの状態で助けを求めていたもんだから仕方なくよ。というよりも…。」
霖之助の顔はちゃんとこっちに向いてるか確認してから言う。
その赤蛮奇人間の男、彼から得体のしれない雰囲気を感じるの。」
霖之助の目が少し見開いた。

ほう。森近霖之助
そん赤蛮奇なに強いものじゃなかったけど、人間にとっても妖怪とっても悪影響を与えそうな気がするのよ。」
人妖共森近霖之助に悪影響を与える…か。」
人妖共に悪影響を与える。勿論気がしただけで確証は無いけど、私を暴走させたあの打ち出の小槌とも違う。そもそも幻想郷では感じたことのないような…言葉では説明出来ないものだった。
だがそ森近霖之助ういうのは霊夢とかに言ったほうが良いんじゃないのか。」
まあ赤蛮奇ね。ただそこまで強いものじゃないし、まだ言わなくても良いかなって。しかも私なんかは言えば下手すれば濡れ衣着せられそうだし。」
そうか森近霖之助。じゃあ僕に聞きたいってのはなんだ。」
それ赤蛮奇なんだけど、彼がスマホという単語を口にしたよ。私はスマホについてはあんまり知識無いから、貴方に聞きたくてね。」
スマホ森近霖之助について…か。」
霖之助はそう言うと、棚から箱を取り出した。箱の中から出てきたのは長方形で金属の物体だった。
えー赤蛮奇っとこれがそのスマホってやつ?」
そうさ森近霖之助。正式名称はスマートフォン。もう壊れているんだけど、こいつはなかなかの優れものなのさ。遠くの人とやり取りしたり、写真を撮ったり、テレビのような映像だって観られる。能力で見たらきりがなくてね、流石に視界にあると面倒だからこうやって箱に入れてるんだよ。」
なる赤蛮奇ほど。それでスマホは何処で…。」
無縁塚森近霖之助で拾った。…外の世界のものだね。」
…と赤蛮奇いうことはやっぱり、彼は外の世界から来たのかな。」
君の森近霖之助話を聞いた限りでも、僕もそう思うね。」
田所さんは外の世界から流れ着いた可能性が高い。発見時のあの様子から、外の世界で何かしら大きな出来事が起きたのだろうか。とても貧しい生活を送っていたとか、特別壮絶な人生を送っていた雰囲気とかは見受けられなかったが。…とは言えこの考えが真実かどうかはあのスキマ妖怪にでも確認しないと無理かもしれない。
あり赤蛮奇がとう。お陰で色々分かったわ。」
そりゃ森近霖之助どうも。」
私は香霖堂を後にした。



モヤモヤしていたことはこれで解決した。だがどうしようか。彼に何と言えば良いのだろうか。そしてこれから彼をどうするべきなのだろうか。


どうして私はこんなに悩んでいるんだ?私は妖怪だ。人間から怖れられる存在だ。人間の彼に何かをしてあげる必要なんかない。適当に話して他の人間の所でどうにかしてもらえば良いじゃないか。そしていつか出会ったときに脅かしてやろう。恐れる人間が増えるのは好都合じゃないか。


だけど私は……。



彼を怖れている。どうしてなんだ。妖怪が人間を怖れている変な話だ。
いや、違う。私が恐れているのは彼自身じゃない。彼の中にある"なにか"だ。

もしその何かを他の人に感づかれたら?人々が彼を恐れたら?彼の中にあるなにかがその恐れによって力を付けて、そのなにかが目覚め、人妖共に大きな被害を受けることになる…なんて可能性も否定出来ない。

どうすればいいんだ。

私は…私は…!

ば〜???んきちゃん!」
うわ赤蛮奇!?」
お、思わずビックリして頭が飛んでいきそうになったけどなんとか堪えた。多々良小傘だ。まさか小傘に驚かされるとは…。
あれれ多々良小傘?驚いちゃった?」
聞くまでもないでしょ。

あ、赤蛮奇あぁ…そうね。」
珍しい多々良小傘ね。蛮奇ちゃんが驚いちゃうなんて。私脅かせ方上手くなったかもね!」
小傘は呑気だな…。そう思いながら溜息を付いた。
でもこ多々良小傘んな道の真ん中でずっと立っていたけどどうしたの?顔色もちょっと悪いよ?」
た、赤蛮奇大したことは何も無いわよ。ちょっと最近人を脅かせてないだけ。」
へ〜そ多々良小傘うなんだね〜。」
適当な嘘を言った。脅かせてないどころか最近調子が良い位だ。
それよりも早く田所さんの所に帰って状況を説明しなければならない。こういうのは早めにやっておいて損は無い。
悪い赤蛮奇小傘、私はこれからやることがあるの。今日はもういいかな。」
あっ、多々良小傘そうなんだ。頑張ってね蛮奇ちゃん。」
意外と素直に受け入れてくれたな。なんて思いつつ私はその場を離れた。


ー田所浩治ー

多分一時間は経っただろうか。暇な時間が流れた。嗚呼、俺はこれからどうしたら良いのだろうか。過去を思い出すべきか?思い出す方法は何があるか。

思い出すきっかけが欲しい。外に出て歩いてみれば分かるか。でも傷があるな。

なんだか同じ事を繰り返し考えてしまう。

彼女が帰ってきたようだ。思ったよりは早く帰ってきた。日もまだ幾分しか傾いていない。
田所赤蛮奇さん。貴方には色々話さないといけないことがあるの。聞いてくれるかしら。」
…分田所浩治かりました。」
私達赤蛮奇が居るこの場所は幻想郷という場所なの。」
幻想田所浩治郷?」
聞いたことのない地名だった。
えっ田所浩治と何県に有るんですか?」
…県赤蛮奇なんてものは無いわ。」
どういうことだ?もしかして海外なのか?そう思い更に尋ねようとしたが蛮奇さんが先に話した。
ここ赤蛮奇は確かに日本だけれでも、違うの。貴方が恐らく居た場所とは違う、隔離された場所。」
ん????????よくわからない。
あの田所浩治日本だけど違うってどういうことですか?」
んー赤蛮奇…と厳密には違うけれどもここは違う世界なのよ。幻想郷では貴方が元々居た世界で忘れられた物や人、妖怪とか神が存在している所よ。」
頭の理解が追い付いてない。突然ゲームや漫画みたいな話をされてにわかには信じられなかった。だが…嘘を言っているようには見えなかった。恐らく本当に本当なのだろう。俺は記憶を失っている。自分自身を忘れてしまったから幻想郷に来てしまったのだろうか。いや、流石にそれが原因じゃないはずだ。俺は元居た世界で何があったのだろうか。しかし更に気になるのが妖怪と神についてだ。
あの田所浩治この幻想郷は妖怪や神が存在しているんですか?」
そう赤蛮奇よ。この幻想郷では当たり前。人魚とか狼女とかも居るわよ。」
本当にたまげた。ファンタジーすぎてまだ信じきれてない。

俺はその後更に幻想郷について話を聞いた。この幻想郷では度々異変というものが発生して、妖怪や神、幽霊とかが起こしているらしい。そんなに発生したらいつか幻想郷の人間が滅びそうに思えたが、異変は博麗の巫女という人間が解決するようだ。そもそも妖怪や神は人間が居なければ存在を保てないらしい。なんだかよく分から無いが異変は幻想郷を保つ為に必要なのだとか…。そして俺達みたいな戦う力の無い普通の人間は普通に人里という場所で過ごすらしい。現に今居る場所が人里だ。


あれから数日が経った。蛮奇さんに紹介された農業の仕事を今はやっていて、それで生活している。以前俺が何をしていたか分からないが、体力が人一倍あったので割と向いていた。残念ながらこの幻想郷は機械文明が発達していない、いや正確には有るらしいのだが普及はしてなかった。
「いや〜田所さんほんと助かるわ。あんたみたいな若者がいてくれると仕事が楽になるよ。」
そう田所浩治言ってくれるのはうれしいっすねぇ〜!どんどん行きますよいくいく。」
仕事は順調だ。今のこの生活も全然悪くない。過去の記憶は無いが思い出すには、元々俺がいた世界…"外の世界"にいかないと難しいはずだ。だから正直このままでいい。ここで充実した新生活を送れれば良いと。

きっと別に

思い出さなくて良いはずだ



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