【淫怪夢幻想郷物語】第二話 「幻想郷の常識」
―田所浩治―
「いらっしゃい!いらっしゃい!お兄さんどうですか!」
今日の晩御飯は何にしようかと考えながら食材を眺める。料理なんてまだ蛮奇さんに任せっきりだが、何時までも親切にして貰うのは申し訳ない。料理は一度やってみたのだが、料理に関する知識が無いことに気付いた。今は教えて貰いながらやっている状況だ。本当に蛮奇さんは親切過ぎる気がする。何か裏があるのではと思う位。前は恐らくインスタント系をよく食べていた…気がする。それが事実か否かは分からない。何せ記憶が無いのだから。でも言葉とか外の世界での一部の知名、物の名前は普通に覚えている。これが自分でも疑問で、都合良く"何か"や"誰か"を忘れている気がするのだ。だがこの幻想郷に来てしまった以上、それらを確かめる術は無いだろう。
取り敢えず適当な野菜を幾つか買った。人里にある店の品揃えは悪くない。
ふと子供の声が聞こえた。数人分は聞こえる。少し気になったので聞こえた方向を見ると、部屋の障子が開放されていて、そこから見えたのは小学生位の子供達が何人も同じ方向に座っている光景だった。そして大人の女性が子供達に向かって何かを話していた。この光景は…恐らく学校か。いや名前が書かれていた。此処は寺子屋らしい。学校と同じで勉強する場のようだ。教師と思われるその女性はかなり若く見える。そして髪がとても長く白銀に染まった美しい色をしている。少し不思議に思ったが、この幻想郷では髪とか目とか結構様々な色の人が普通に存在している。”此処では常識に囚われてはいけない、そういう場所なのだ”と考えた。
…しかし今の俺は傍から見れば不審者ではないだろうか。色々と面倒ごとを起こす前に離れた方がいいな。
帰宅して早速買った食材を使って料理する。まだまだ慣れてないがなんとか最低限できるようにはなってきた。しかしずっとこんな生活をして良いのだろうか。助けてもらった身とは言え、俺の様な男がこの若い女性と同居するのは如何なものだろうか。まあ本人は気にしていなさそうだからきっと大丈夫だとは思うが、やっぱ引っ掛かってしまうな。
…
俺いっつも変なことに気になってんな。
―博麗霊夢―
博麗神社の巫女、博麗霊夢。妖怪退治や異変の解決等の仕事を任されている。
今日も相変わらず境内の落ち葉掃除をしていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「霊夢ー!」
魔理沙だ。毎日とまでは行かないが、よくここへ訪れるもんだなと思った。
「あんたもよく来るわねぇ。魔法の研究で忙しいんじゃなかったの?」
「そりゃぁ色々忙しいし大変さ。でもやっぱ気分転換は必要なんだよ。」
「そうなのね。」
魔理沙はそう言い、縁側に座る。
「どうだ?霊夢、調子は。」
「変わり無いわよ。此の頃異変もなくて平和だし。それに最近は紫の変な絡みもなく静かで、暇な位よ。」
紫はここ二週間位全く顔を見せない。三日に一回位は顔は見せてくるというのに。冬眠かとも思ったけれど、まだ時期が早過ぎる…忙しいのだろうか。
「へぇそうなのか。暇ならさ、将棋とかなんか暇潰せるものやってみたらどうだ?」
「別にいいのよ。どうせやる相手居ないんだし。」
「おいおい、相手なら私が居るだろ?私じゃなくてもほら…あうんとかも居るじゃないか。」
そう言い魔理沙は空を見上げる。
「あー…そうねぇ。」
私も魔理沙につられて空を見上げる。青い空だ。
青い
…
あれ空が紅く…赤い…
ように
一瞬見えた
気の所為か
紅霧異変じゃあるまいし
妖気とかも感じなかったし
…
青い空だ
「なあ霊夢。」
ふと魔理沙が話しかけてきた。
「人間と妖怪がお互いに平和に過ごすことって出来るのかな。」
「ちょ、急にどうしたのよ。」
突然声のトーンが下がって話すものだから驚いた。
「昨日の夕方頃、里で人喰い妖怪と小さな子供が一緒にいるところを見たんだ。それも人気の少ない場所でだ。だから襲われると思って私は咄嗟に助けようとしたんだが…。」
「やめて!傷付けないで!」
「なっ!」
「私の友達をいじめないで!」
私はその子供の迫力で暫く足が動かなくなった。その妖怪はそれほど珍しくない人喰い妖怪だったのだが、凄く悲しそうな顔をしてた。そしてその妖怪が小さな声で話した。
「…どうして私は…妖怪は…人間と仲良くなってはいけないの?」
「…え?」
そいつはその系統の妖怪にしては珍しい考えを持っていた
「皆私を冷たい目で見てくる…非難してくる…でもこの子だけは…私を信じてくれた…私はようやく人間の友達が出来て嬉しいのに…。」
嘘を言っているようにが思えなかった。子供の顔も真剣だった。とても気が強い子だった。
私はなんだか気まずくなって
逃げ出すようにその場から
走って離れた。
「…まあそんなことがあってさ、どうなんだろうなーって思ったんだ。」
「…ちょ、何変なこと言ってるのよ魔理沙。あんたいつも妖怪とかと普通に話したり遊んだりしてるでしょ。」
「いやまあそれはそうなんだ!あいつらと弾幕ごっこするのは楽しいぜ。ただな…やっぱり人里の多くの人達にとっては妖怪は怖れる存在だし、私達も一応は力のある人間側の味方として行動するべきだから、なんか難しく考えちゃうのさ。」
一体魔理沙はどうしたんだろうか。こんなことで考え込むなんて。魔法以外のことで深く考えるような人じゃないとも思っていたけれど。
「別に仲良くなっても良いんじゃないの?平和になるじゃない。それで妖怪に何か不利益な事が生じたとしても、正直私にとってはどうでも良いわ。」
「おいおい…妙に辛辣だなぁ霊夢は。」
「そうかしら。」
そうして縁側から立ち上がる。
「まあ別に魔理沙が色々と深く考えるような話題じゃないと思うわ。」
「それもそうか。」
「それよりも魔理沙、此処で話すなら普通に部屋で話しましょ…。」
「おっ、確かにそうだな。あがらせて貰うぜ!」
魔理沙はいつものようなテンションに戻ると、私よりもはやく部屋に入っていった。
―赤蛮奇―
今日は久しぶりに彼女等…今泉影狼とわかさぎ姫に会いに行くことにした。定期的に会おうと約束した…いやされているような気がするが…兎に角、ここのところ田所さん関係ですっかり忘れてたなんて言えない。というか何で私は勝手に、草の根ネットワークのメンバーの一員のように扱われているのだ。入ろうとも思ったことも言ったことも無いというのに。まあ彼女等と話すのは楽しいので、とやかく言うつもりはない。
暫く歩くと霧の湖が見えてきた。さて影狼やわかさぎ姫は居るだろうか。
…
普通にいた。二人共。
「あっ、蛮奇じゃん!久し振りね。」
「久しぶり〜。」
二人がそう言ったように私も挨拶する。
「蛮奇、なんで暫く顔を見せなかったのよ。」
「いや実はさ…色々あってさ。」
私は此れまでのことを話した。
「へぇ…人間の男ねぇ。蛮奇が人間を助けて、しかも家で一緒に過ごすなんて面白い話だわ。」
「面白いのか…?まあ確かにおかしくはあるけれども…。」
「でもそこまでするなんて蛮奇ったら、一体どうしたのよ。あの人間が気に入ったの?」
「あらぁもしかしてそのまま恋人にしちゃうつもり?」
「ちょ、何を言ってるのよわかさぎ姫。私はそんなこと思わないわ。」
「だったら何だって言うのよ。」
「私は…気になっているのよ。彼の中にある恐ろしい何かが。」
何か。霖之助にも話したがそれが非常に気になっている。危険なものであるかもしれない、それは私達妖怪ですら脅かす存在なのか。
「そうなのね。まあ頑張ってね。」
「ああどうも。でも別に面倒を見るのは大変じゃないわね。数年振りにこうやって人間とまともに話すのは久し振りだったからなんだか新鮮だわ。意外と悪くないね。」
「意外だわー。蛮奇ってそういうのあんまりやりたがらなさそうだから。」
「ほんとねぇ。」
わかさぎ姫はそう言う。…そして今気が付いたが、何やらわかさぎ姫の側に本が置いてあった。
「ん?ねぇわかさぎ姫、その本は何かしら。」
「これ?あぁ実はこの本、妖怪達の中で少しだけ流行ってるみたいなのよ。」
「なんでも各々個人の日記みたいなのを面白可笑しく書いて、それを売るみたいだわ。」
「はぁ。」
少し気になってその本を見てみる。
充実した水没プレイ!
投稿者:キャプテン村紗
投稿日:202X/10/20
…私は目を疑った。なんというか…下品な言葉が度々使われている。これがその流行りのスタイルというのか、はたまたこの投稿者?の頭がおかしいのか。文字を追えば追うほど文書が怪奇的で、頭がおかしくなる。
「……何…?こんなのがブームなってるの…か?」
「そうよー蛮奇も試しに一つ買ってみたらどうかしら。」
わかさぎ姫は目をキラキラさせている。純粋と言うべきなのか…。
「いや、私は遠慮しとくわ…。」
この流行りからは別の意味での危険な匂いがしたので、乗っかることはやめた。
気付けばそれなりの時間だった。私は彼女等とお別れをし、里へ戻る。しかしあの流行りとやらは変なものだな。余りにも異質過ぎて、誰が広めたのか…いや始めたのか…気になってしまうな。と、思ったが直ぐに興味は薄れた。ある意味閉鎖的な幻想郷だからこそ変なものが流行ることは珍しくない。娯楽を求める妖怪が意外に多いんだ、そこまでおかしくはない。いや内容は凄く可怪しかったが。
………
………
木の葉が静かに揺れる
そして──ポタポタ
滴る
ゆっくりと──
それは…堕ちる
何処へ行こうにも希望など無かった。そして遂にはその征く先の道標は途絶えた。
「…もう…こ…おわ……すね。」
「ああ…。」
下から強い風が吹き付ける
それはまるで誘っているかのよう
二人は顔を見合わせる。お互いの目に光はない。漆黒に染まり、その体も闇に包まれようとしていた。
「…さ…うなら……。」
其処は静かになった。
誰も覚えてなど居らず。
故──
その記憶は剥がれ落ちる。
―田所浩治―
…何か変な夢を見ていた気がする。内容はどんなのだろうか。思い出そうとした…だが鶏の鳴き声でもう何もかも忘れてしまった。夢というものは本当に一瞬で記憶が消えてしまう。自分が生み出したものだというのに何故もこう覚えていられないのだろうか。
今日の仕事は無い。適当に人里で散策でもするか。まだまだ全容を把握していないので良い機会だ。…今はまだ蛮奇さんは居ない。どうやら夜から朝まで時間で仕事を行うらしく、朝か、場合によれば昼前に帰ってくるのだ。夜中に働くとは…夜は人里でも妖怪は現れると聞くし、大変そうだ。
他にも妖精やら神様やらいるこの幻想郷だが、実は実物を見たことがない。いや、もしかしたら神様とかなら人に化けれるかもしれない。認識していなくても見ている可能性はあるか…?この人里にそういうのがお忍びで来てるとかあるかもしれないな。
…
ちょっと人里の外が気になるな。実際に妖精とか見られるのだろうか。あっそうだ(唐突)、人里の外にはどんなのがあるのかと、里の人達に話を聞いたのを思い出した。行く場所としては命蓮寺とか守矢神社とかがあるらしい。守矢神社に関してはロープウェイで繋がれてるとか。…意外とそういうのはあるんだな思った。場所は確か"妖怪の山"だったか。文字通り妖怪が多く住んでいるようで、天狗が治めているようだ。
なんて色々思いに老けながら歩いていたら、何やら騒がしくなってきた。その音に向かって更に歩き続けると、人集りがあった。少し広間になっているところで、円を描くように人が居る。そして真ん中には二人の…少女が居た。これは…そうだ。噂で聞いたが、いわゆる…弾幕ごっこが行われるのではないのだろうか。
「弾幕ごっこ」
この幻想郷で行われる遊戯のことだ。お互いがキラキラ光る玉やレーザー等を放ち、その弾幕の美しさで競う遊びらしい。また弾幕をどれだけ避けられるかとかで勝敗が決まるとか。必殺技?のような物がありそれが尽きたとかで色々決まるみたいだが…ルールはあんまり理解してない。
そしてこの様に人里で勝負が始まる場合、何方が勝つか観戦者が予想し賭けるということも。一種のお祭りのようなものだ。
「なあちょっとよく見えないんだが、誰と誰が勝負するんだ?」
「あぁ魔理沙ちゃんと早苗ちゃんだよ。金髪のが魔理沙ちゃんで緑髪の方が早苗ちゃんさ。」
そのおじさんは丁寧に教えてくれた。成る程、"まりさ"と"さなえ"という名前なのか。"さなえ"はそのまま早苗だろう。"まりさ"は…あの箒を持った姿から魔法使いだと推測する。だから"ま"は魔法の魔かな?りさは理沙とか梨沙とかそこら辺か(適当)。…なんて普通に人に聞けばいいことを無駄に考えていたら、勝負が始まった。
「さあ前回はちょっとしくじっちまったが、今回は勝たせて貰う!覚悟しとけよ。」
「フフフ…。そうは行きませんよ魔理沙さん!今回も勝ちは譲りません!」
二人はそう言い早速弾幕の放ち合いが始まった。弾幕には大した破壊性能が無いらしいのだが、それでも怪我する程度はあるらしいので、割と高い位置で勝負が行われる。しかし本当に綺麗だ。夜だとイルミネーションみたいに素晴らしい光景になるに違いない。
勝負が数十分に渡り続く。片方が派手な弾幕を放ち片方はそれを華麗に避ける。なかなかレベルの高い勝負だ。弾幕の派手さも一層増してきている。
「本当によくやるわよねぇ。人が一杯だわ。」
「ああそうっすね…って」
聞き覚えのある声だなと思い後ろをフリムクと、そこには蛮奇さんが居た。
「うおっ!ビックリした。蛮奇さん居たんすか。」
「来たばっかりよ。それにあんまり驚かせる気は無かったんだけどな…まあ面白かったから良いわ。」
「何が良いんですか…。」
そう言うと、蛮奇さんは悪い笑みを見せた。
「しっかしよくやるわよねぇ…皆、賭けなんてさ。」
そう言って蛮奇さんは彼女等の弾幕勝負に目を向けた。
「一定数はそういうもの好きは居ますからね。俺は見るだけでも新鮮で面白いっすけど。」
「そうなのね。」
長い時間が経った、いや実際には数分かもしれない。
空一面に拡がる弾幕。
飽きない。
魔理沙が遂に大技を繰り出した。虹色の大きいレーザー。これまで繰り出してきたものと違い、力強くまた美しく。
「ここまで来て負けるわけにはいきませんからね!」
早苗の方の弾幕が更に濃くなった。何処から見ても星に見える赤と青の綺麗な弾幕。
双方の勢いは収まらない。
───
───勝者は魔理沙。
早苗は悔しそうだが、それでも次は負けまいと笑顔で話している。双方笑顔だ。これだけ派手でも"ごっこ"でも、やっぱり遊びなのだろう。寧ろガチになっているのは賭けを行っている人達なのではないのだろうか。魔理沙が皆と楽しく話している。そしてこっちへ…来た。魔法使いが、目の前に、居る。
「よっ!蛮奇じゃないか。お前も観てたんだな私の華麗な弾幕を!」
「いやあんまり観てない。」
「えー…目の前に居てそれは無いだろ〜。」
「私はそういう性分じゃ無いのよ。」
「ふーん…ん?」
魔理沙が此方を向いた。
「お前さんは…初めて見る顔だな。」
話しかけられた。こういう時どう返せばいいかたまに迷う。まあ適当にやればいいだろう…。
「あっ、どうも初めまして。俺は田所浩治って言います…魔理沙さん…すか?」
「おう!私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ!適当に呼びやすい名前で呼んで良いぜ。」
霧雨魔理沙。彼女は物凄く明るい性格のように思えた。
「うん、おかのした。それにしても魔理沙さん凄い弾幕っすね!」
「そうだろ?やっぱり派手さは必要だからな。練習した甲斐があったよ。前よりも良かっただろ?」
「あー魔理沙さん。実は今回が初めてなんすよ、弾幕ごっこ観るのは。」
「ん?そうなのか。」
魔理沙さんが不思議そうな顔をして、更に話す。
「じゃあお前さんはやっぱ元々人里に居なかったのか?見掛けない顔だったし。」
「あぁえーと…そうですね…。」
そう聞かれので説明しようとしたが、どう言えば良いのだろうか。だがひっそりと蛮奇さんが俺に向かってこう言った。
「(この人なら言っても問題無いわよ。)」
そして蛮奇さんは俺の代わりに、魔理沙さんに説明を始めた。
「ああ実は彼はね、外の世界からやってきたみたいなのよ。そして偶然見つけたもんだから、私のところで居候することになったの。」
「へぇ、外の世界から来たのか。まあ何があったかは知らんがこの幻想郷での生活を楽しんでくれ!少なくとも人里は安全だし、そいつが居るなら大丈夫だろ。」
そう言いながら蛮奇さんを指さした。蛮奇さんが「えっ?」と驚いたような顔をした。
「じゃあまたな!」
そう言い他の人のところへ行った。
「蛮奇さんって…強いんですか?」
「…そんなことないわよ。魔理沙がからかっただけ。」
「そ、そうっすか。」
「蛮奇さんなんか腹減んないすか?」
そう歩きながら俺は言う。さっきから思っていたのだが、自然と変な喋り方をすることに気付いた。口が覚えていたのか知らんが、記憶の失う前の喋り方はこうも独特なものだったのかもしれないと思うと、本当の性格が気になってしまう。
「お腹減ったわね。」
「この辺に最近新作が出た美味い団子屋がある…。」
団子屋があるんすよ、と言いかけた時、妙な気を感じるものを見つけた。橋の上。白い、いや透明の立方体。それは影すらも無く、ただ光を帯びて、そこにある。地面に付いているように見えるが、空間に固定されている様にも見える。
「どうしたの?」
「……なんすかねあれ。」
蛮奇さんも"それ"の存在に気付いたようだ。
…
何か嫌な気がする。
俺の中にある"何か"が反応している。
命の危険を感じる。
「な、なによあれは…。」
蛮奇さんがそう言う。
「なんなんのよこの感じは…。」
蛮奇さんは更に言う。
その時俺の中で"何か"が出、出、で───
…
…
「───っんがはっ!ゲホッ!」
一瞬吐気がした。それは直ぐに治まった。
"それ"は一層光を強めた。
"何か"は移された。
少しだけを落ち着いて顔を上げる。蛮奇さんはまだそれを見ている。
「何よこれは…。」
蛮奇さんはそう言う。
「これは…一体何よ。」
…さっきから蛮奇さんの様子がおかしい。物凄く動揺しているようだ。
───…!
すると蛮奇さんが歩み始めた。それ…その物体に向かって。
危ない──
「おい?ば、蛮奇さん?何をやってるんですか…。近付かない方が良いっすよ!」
蛮奇さんは反応しない。
「それは何か危険な気がする!離れたほうが良いっすよ!」
だが既に蛮奇さんはその物体の目の前まで到達していた。
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