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『海がきこえる』を読み(視聴し)なおす:その1 はじめに
タグ: #読書の秋2021 ,#海がきこえる,#海がきこえるⅡアイがあるから,#氷室冴子,#スタジオジブリ,#アニメ,#小説,#考察
はじめにー『海がきこえる』との出会い―
― 高知・夏・17歳 僕と里伽子のプロローグ ―
こんなキャッチコピーからはじまる―『海がきこえる』と出会ったのは、「『ジブリがいっぱい』絵入り官製はがきセット」という、ジブリ作品の絵ハガキが最初だったと思う。
20世紀末、地上波テレビの「金曜ロードショー」において、ジブリアニメは毎年のように放映されていたキラーコンテンツだった。
ナウシカ、トトロ、ラピュタ、魔女の宅急便…見知ったジブリ作品タイトルのイラストが描かれていた絵はがきセットの中で…
『海がきこえる』?
まったく見たことも聞いたこともないタイトルだった。
それでも、上記のキャッチコピーとともに高校生の男女のイラストが描かれた絵ハガキは、強く印象に残るものだった。
程なく、文庫版『海がきこえる』と『海がきこえるⅡアイがあるから』を書店の店頭で見かけた私は、ためらくことなく購入を決断した。
文庫版小説『海がきこえる』と『海がきこえるⅡアイがあるから』 初版本
筆者撮影(帯カバーは長年の使用に耐えきれず、残っていません)
海を背景に、作品の世界に読者を手招きするようにこちらを振り向いているヒロイン「武藤 里伽子」と主人公「杜崎 拓」のイラストはすごく印象的で、購入しないという選択肢はありませんでした。
2冊合わせて600ページに及ぶにも関わらず、読破するのに1週間もかかりませんでした。
当時、男子校に通っていた私にとって、『海がきこえる』は、男女共学の高校生活や来るべき大学生活、そして大都市東京への憧れやイメージをかきたてる作品であり、バイブルであったようにも思えます。
アニメ版(「ジブリがいっぱい COLLECION」DVD)を手に取ったのは、それから数年後、社会人になってからでした。
アニメ版『海がきこえる』(「ジブリがいっぱい COLLECION」DVD)
筆者撮影
書店に併設されたDVD/CDを販売しているお店の店頭に、他のジブリ作品のDVDと一緒にアニメ版『海がきこえる』はありました。5000円近くするDVDでありましたが、購入にためらいはありませんでした。
久しぶりに触れる『海がきこえる』、そして、はじめて視聴するアニメ版『海がきこえる』。文庫版をしばらく読んでいなかったこともあり、あらすじは記憶の片隅にありましたが、視聴に際して、新鮮な気持ちで見ていたと記憶しています。なぜなら、文庫版のカバーイラストや挿絵でしか見たことのなかった登場人物たちが、画面を所狭しと動き、言葉(セリフ)を喋って生き生きとした存在になっていたからです。
アニメ版は、文庫版の文字から想像するしかなかった世界に彩りをあたえるとともに、文庫版を熱心に読んでいた私自身の高校・大学時代への思い出をかきたててもくれました。
それから数年、『海がきこえる』をこの世に送り出した作者である「氷室 冴子」さんが亡くなられたことを新聞の訃報欄で知りました。
それは、長年待ち望んでいた『海がきこえる』シリーズの続編刊行の夢が断たれるとともに、シリーズに登場する登場人物たちも大学生のまま永遠に年をとらなくなることを意味していました。作品のファンの一人としてとてもつらく哀しいことでした。
考察のきっかけ―私の今の立ち位置から―
今、私はここ「note」において、漫画原作を投稿することをはじめました。
無名の私と、「氷室冴子」先生―
私の漫画原作と、『海がきこえる』―
月とすっぽん、ベストセラー作家であった氷室先生に及びもつきませんが、私自身も、登場人物や物語を創作して世に送り出す「作り手の立場(端くれ)」になりました。
今回、「漫画原作者」の視点から、あらためて『海がきこえる』のアニメ版と文庫版に触れたことで、浮かび上がってきたアニメ版と文庫版の差異や疑問を私なりに解き明かしてみたい。
セリフや地の文、映像という表現の表層から見え隠れする作品の深い部分、「深層」を探ることは、これから創作を続けていくうえで、私の大きなプラスになるのではないかと思うのです。『海がきこえる』という作品が物理的にも、精神的にも私の大きな財産になっているように。
漫画原作執筆の手を止めてでも、記事を書いてみたいと思った―そもそものきっかけです。
では、次回、『海がきこえる』がどんな作品なのか、作品を知らない読者の方に向けて、簡単に紹介してみたいと思います。
※記事に使用した場面写真は、スタジオジブリ公式サイトが提供する「スタジオジブリ作品の場面写真」のうち、「海がきこえる」のページのものを使用・加工しております。