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『海がきこえる』を読み(視聴し)なおす:その2 海がきこえるとは?

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『海がきこえる』とは?


 さて、考察を始めるにあたり、まずは、作品を知らない読者やしばらく作品から遠ざかっている読者のために、『海がきこえる』という作品について紹介したいと思います。


ー作品のジャンルと舞台・時代ー


 『海がきこえる』は、氷室 冴子(ひむろ さえこ)先生による青春小説です。


 作品の舞台は、主人公である杜崎 拓(もりさき たく)の出身地であり、ヒロインである東京からの転校生である武藤 里伽子(むとう りかこ)と出会う「高知」と、拓(と里伽子)の進学先である「東京」。(高校の修学旅行先としてハワイも登場しますが。)


 作品の時代は、「1990年代前半の日本社会」です。
バブル崩壊後と言え、いまだ日本社会の勢いが良かった時代です。
インターネットや携帯電話、スマートフォンなどの情報インフラが未発達の時代です。文庫版では、携帯電話が少しだけ登場しますが、重要な小道具でありません。
家の固定電話や公衆電話、人づての噂、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、郵便などが人々の主な情報交換手段の時代です。
コンビニエンスストアやファミリーレストランなどの便利なお店が今ほどない。
(ただ、後述するように、小説版が時代の変遷に合わせて、加筆・訂正されたことから、小説版の最終形態ともいえる文庫版では時代が1990年代後半にアップデートされているとも言えます)


ー作品の変遷~アニメージュ連載版の誕生から、アニメ化・実写ドラマ化へー


 「海がきこえる」は、今から約30年近く前の1990年から1992年にかけて、徳間書店のアニメ雑誌である「月刊アニメージュ」に連載されていました。

 挿絵は、のちにアニメ版『海がきこえる』のキャラクターデザイン及び作画監督をつとめることになる、近藤 勝也(こんどう かつや)さん。(ハードカバー版小説や文庫版小説の挿絵も担当されています)

 アニメージュ連載は、全23回。約2年近く続きました。

 雑誌連載終了後、オリジナルであるアニメージュ版を踏まえながらも、構成やストーリーに手を加えスタジオジブリによってテレビアニメスペシャルとして制作されたのが、アニメ版です。
(アニメ版は、初放送の1993年と2011年の2回しか地上波テレビで放送されていません。スタジオジブリ作品の中で、知名度が低く、見たことがない人が多いのはこのためです。)


 監督は、宮崎・高畑の両監督でなく、外部から招聘した望月 智充(もちづき ともみ)監督。アニメ制作も、近藤 勝也さんをはじめとする「スタジオジブリ若手制作集団」によって制作が行われています。

アニメ版あらすじ
 東京の大学へ進学した杜崎拓は、吉祥寺駅の反対側ホームにある人影を見た。下り列車に姿を消したその人影は確かに武藤里伽子に見えた。高知へ帰省する飛行機の中で、拓の思いは、里伽子と出会ったあの2年前の夏の日へと戻っていた。拓にとって里伽子は親友の片思いの相手という、ただそれだけの存在だった。高校3年の修学旅行までは…。
「ジブリがいっぱい COLLECTION『海がきこえる』」あらすじより

 また、アニメ版の放送に先立つこと数か月前、アニメージュ連載版の内容に大きく手を加えたハードカバー版が発行されました。(アニメージュ連載版とハードカバー版の差異は、本稿で触れません。筆者は両方とも所持していないからです。2つの版の差異を紹介しているサイトがありますので、興味のある方は、検索してみることをおすすめします。)

 アニメ版放送から2年後の1995年、氷室 冴子先生書き下ろしによる、ハードカバー版『海がきこえる』の続編、『海がきこえるⅡ アイがあるから』が発行されます。(この続編は、ハードカバー版『海がきこえる』の続編であり、アニメージュ連載版の続編でないことに注意が必要です。)

 同じ年、『海がきこえる』のファンでもあった武田 真治さん主演による、テレビドラマスペシャル『海がきこえるⅡ アイがあるから』が放送されています。(筆者は、未見です。)

 単行本の発行から4年後の1999年、ハードカバー版の内容を加筆訂正して発行されたのが、文庫版『海がきこえる』と文庫版『海がきこえるⅡ アイがあるから』です。2冊同時発売されています。

『海がきこえる』あらすじ 
高知の高校を卒業した杜崎拓は、東京の大学に進学し、一人暮らしを始めた。
その矢先、同郷の友人から武藤里伽子が東京の大学に通っていると聞く。
里伽子は高知の大学に行っていたのではなかったのか?
拓の思いは、自然と2年前のあの夏の日へと戻っていった。
高校2年の夏の日、訳あって東京から転校してきた里伽子。
里伽子は、親友が片思いする相手だけだったはずなのに……。
その年のハワイ旅行への修学旅行までは……。
(文庫版 カバー裏表紙あらすじより)
文庫版、帯キャッチコピー 
高知・夏・17歳 ぼくと里伽子のプロローグ


『海がきこえるⅡ アイがあるから』あらすじ
大学1年の夏、杜崎拓は故郷高知に帰省した。
親友・松野と里伽子のわだかまりも解け、気分よく東京に戻った拓の部屋に、年上の女性、津村知沙が入り込み泥酔し寝ていた。
「その年上の女、たたるぞ」という松野の言葉が拓の脳裏に甦る。
不倫の恋に傷ついた知沙。
離婚した父とその再婚相手との間で傷つく里伽子。
どうしたら、人は人を守れるのだろう?
 さまざまな思いと痛みが交錯しながら拓は東京ではじめての冬を迎える。
(文庫版 カバー裏表紙あらすじより)
文庫版、帯キャッチコピー 
東京・はじめての冬 里伽子がぼくのそばにいる

 アニメ版は、アニメ放送と同じ、1993年にVHS版が発売されました。私が所持しているのは、DVD版の2003年発売の「ジブリがいっぱい」シリーズ版です。

 その後、2015年、4KリマスターされたBlu-ray版が発売されています。

 他にもアニメ版のフィルムブックやイラスト集などの関連本が発行されています。


ー『海がきこえる』シリーズ発表順まとめー


アニメージュ連載版小説→(アニメ版製作開始)→ハードカバー版小説1→アニメ版→アニメ版VHS→ハードカバー版小説2→実写テレビドラマ版2→文庫版1・2→アニメ版DVDジブリがいっぱいコレクション→アニメ版Blu-ray

※再発売されたものやテレビドラマ版ビデオについては除いています。


シリーズをカテゴリー化すると、「小説版」と「アニメ版」の2つにわけることができます。(カッコの中は連載期間及び発行年)

小説版

1.アニメージュ連載版小説 『海がきこえる』全23回
              (1990~92)

2.ハードカバー版小説   『海がきこえる』(1993)
              『海がきこえるⅡ アイがあるから』
              (1995)

3.文庫版小説       『海がきこえる』(1999)
              『海がきこえるⅡ アイがあるから』
              (1999)

アニメ版

4.アニメ版        『海がきこえる』(1993) 


 先にも書いたことですが、面白いのは、「小説版」・「アニメ版」含めて、1~4すべてが、ストーリーや構成、細部の展開など何らか形で「差異」が存在していることです。

 ここまでごらんくださった読者の方で、『海がきこえる』シリーズの「小説版」・「アニメ版」に興味を持たれた方がいるかもしれません。

 次回、「小説版」・「アニメ版」を入手にあたり、現時点における方法と手段について書いてみようと思います。(2021年現在)


※記事に使用した場面写真は、スタジオジブリ公式サイトが提供する「スタジオジブリ作品の場面写真」のうち、「海がきこえる」のページのものを使用・加工しております。 


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