『介護の料理人』第2話 【創作大賞2024:漫画原作部門】
『介護の料理人』
第2話 「料理人 三つ子の魂と故郷(オフクロ)の味」(前編)
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扉絵イメージ:
調理員姿で目を閉じ、腕を組んで考え込む主人公の徳冨周(とくとみひろし)。
周を不思議そうな眼差しで見守る調理員姿の島崎双葉(しまさきふたば)。
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樹愛ホームの正面玄関外観。
開所記念式典の開催されている食堂兼多目的スペース。
入所者は食堂のテーブルのイスに座り、講演する来賓の話に耳をそばだてている。
演台で講演する来賓の脇でスーツ姿の理事長の土井が控えている。
講演が終わり、来賓に拍手する入所者。
緊張した表情で司会進行をする不織布マスクを着けたスーツ姿の施設長の大友。
フード付き調理帽に不織織マスクと作業服姿の周、双葉、厨房スタッフがワゴンに料理をのせて運んでくる。
オードブルや手巻き寿司などお祝い料理がテーブルに並べられている。
笑顔の入所者男女が、周の作った料理を食べている。
食堂の脇で入所者の様子を穏やかな笑顔で見守る周と双葉。
擬音「ドン」
入所者の声「なんだこの料理の味付けは!?」
テーブルを叩く音と、声を荒げる入所者にハッと振り向く双葉。
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字幕「横手 金佐久(よこて きんさく) 樹愛ホーム 入所者」
金佐久「だいたい…味つけからして まったくなっておらん!!」
白髪交じりの偏屈な老人の金佐久。
料理を箸(はし)で指しながら、憎々しげに料理への不満を口にしている。
擬音「ザワ ザワ」
金佐久の一言に入所者たちがざわつく。
女性入所者A「あらまあ…こんなに美味しいのにねぇ~」
女性入所者Aが呆れた表情で隣のBと顔を見合わせる。
金佐久「フン」
口をへの字に曲げ、立ち上がる金佐久。
不安な表情で事態を見守る双葉。
擬音「!?」
怪訝そうな表情の金佐久。
金佐久「…あんたは?」
周が金佐久の行く手に立ちふさがる。
周の脇には、双葉が連れ立っている。
擬音「スッ」
周「調理師長の徳冨と申します」
丁寧な会釈をする周。
周「お作りしました料理…どこがお気に召さなかったでしょうか?」
右手を胸に当て、毅然とした態度で尋ねる周。
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金佐久の声「あんた…"舌" がおかしいんじゃないかね?」
金佐久の一言に周の表情が凍りつく。
双葉「なっ…なんですってぇ~」
双葉がキッとした表情で抗議の声を上げる。
擬音「バッ」
擬音「!?」
右腕で双葉を無言のまま制する周。
金佐久「フン!!」
面白くなさそうな表情の金佐久。
腰に両手を回し、身を屈ませ、トボトボと食堂を後にする金佐久の後姿。
女性入所者A「金佐久さんにも 困ったものよねぇ~」
料理に箸をのばしながら、ヤレヤレといった表情でぼやく女性入所者A。
隣に座る女性入所者Bは、思わずボヤキに顔を向ける。
女性入所者Aの声「前の介護施設(しせつ)でも一緒だったんだけど…」
女性入所者Aの声「何を出されても "マズイ" "マズイ" ってばかりで…」
女性入所者Aの回想。
料理を前に、腕組みをしてプイッと顔を背ける金佐久。
料理を運んできた女性スタッフに、ガミガミと説教する金佐久。
女性入所者B「病気やお薬の影響で…"味覚障害"なのかしら?」
他愛もない表情で憶測を口にする女性入所者B。
女性入所者Bの声「それとも…"味音痴"なだけで…」
女性入所者Aの声「やあねぇ~まったく…」
他愛もない噂話を耳にしつつ、右手を顎に添えて考え込む周。
(時間経過・場面転換)
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字幕「夕方」
調理員の声「お疲れ様で~す!」
調理員の声「お先しま~す!」
樹愛ホームの厨房。
翌朝の仕込みを終え、厨房をあとにする調理員たち。
厨房出入口前で振り返る作業服姿の若手調理員男性。
ステンレス製の作業テーブルの前に周が立っている。
周はコンロに置かれた小鍋からお玉でスープをすくい、手に持った小皿にうつそうとしている。
スープの入った小皿を口に含んで味見をし、味つけを確かめる周。
(画面暗転・時間経過・場面転換)
字幕「翌日」
擬音「ドン!」
金佐久の声「なんだこの料理は!!」
耳の痛い言葉から顔を背けるフード付き調理帽に不織織マスクと作業服姿の双葉。
フード付き調理帽に不織織マスクと作業服姿で無言のまま立ちつくす周。
周「この料理の…どこが"駄目" なんでしょうか…」
鋭い眼差しを金佐久に向ける周。
擬音「バッ!」
周「何でもおっしゃってください!」
脇目も振らず、金佐久に頭を下げる周。
擬音「ザワ ザワ」
双葉独白「徳冨(トミー)さん……」
食堂の入所者たちがざわつく中、双葉は不安な表情で周を見守っている。
無言のまま、頭を下げる周を見つめる金佐久。
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金佐久「あんた……一流ホテルの料理人(シェフ)だったんだってな…」
金佐久「オレみたいなのに…頭 さげて…恥ずかしくねえのかい?」
冷めた眼差しで周を見る金佐久。
周「料理を食べた皆さんが少しでも笑顔になれば…"プライド"なんて関係ありません!」
頭を下げたまま、毅然として信念を口にする周。
擬音「ガタ…」
金佐久「アンタもプロの端くれなら…自分の"頭"で考えてみるんだな!」
面白くない表情で、ほとんど食事に手をつけずに席を立つ金佐久。
双葉「徳冨(トミー)さん!!」
金佐久の後姿を、頭を下げた姿勢で見送る周の元に駆け寄る双葉。
擬音「ムッカァ~!」
双葉独白「あ・の・オ・ジ・ン……」
瞳をメラメラと燃やし、傍若無人な金佐久の振る舞いに怒る双葉。
女性の声「もう…双葉(ふた)ちゃんたら…」
双葉「!?」
背後をハッとした表情で振り返る双葉。
字幕「藤島 夏海(ふじしま なつみ) 樹愛ホーム 看護師長」
藤島「入所者(患者)さんに そんな顔 見せちゃダメじゃない!」
双葉「ふっ…藤島さん!」
看護師長の藤島が、娘ほど年齢の離れた双葉を笑顔でたしなめる。
(時間経過)
藤島の声「横手…金佐久さんのこと…?」
双葉「あの人…徳冨(トミー)さんの料理…まったく手をつけようとしないんです…」
食事を終えた入所者たちが食堂を去っていく。
双葉「前の施設でも…食事に不満を漏らしていたって聞いて…」
双葉「本当は…どこかお悪いんじゃ…」
食堂のテーブルのイスに、藤島と向き合う形で座る周と双葉。
ためらいがちに藤島に金佐久の容体を問いただす双葉。
周は視線を外し、何事かをずっと考えこんだまま。
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藤島「………」
俯き、言いよどむ藤島。
藤島「病気や薬の…副作用でないのは…間違いないわ!」
顔をあげた藤島は、ためらいがちに双葉に答える。
藤島の声「樹愛ヒルズ(ここ)の入所者さん…ご新規さんだけじゃなく…」
藤島の声「横手さんのように 施設や病院(よそ)から来た入所者(ひと)もいるの…」
真剣な表情で藤島と向き合い話を聞く周と双葉。
藤島「入所者(患者)さんによっては…検査や診察をしたうえで 樹愛ヒルズ(ここ)にやってくるの…」
診察室で医師から診断を受ける入所者のイメージ。
擬音「ニコッ」
藤島「横手さん…足腰は少し弱っているけど…至って健康なはずよ!」
優しく微笑んで見せる藤島。
藤島独白「逆効果だったみたいね…」
擬音「ア~ダ…コ~ダ…」
目を閉じ腕組みをしてウンウンうなりながら真剣に考え込む双葉。
双葉の姿を見て呆気に取られる藤島の後姿。
藤島「徳冨さん…」
思いがけず声をかけられハッと顔をあげる周。
藤島「昨日のお祝い料理…わたしもご馳走になりました…」
藤島「とっても…美味しかったですよ!」
右手を頬に添えて、ウットリとした笑顔で話す藤島。
擬音「ガタ」
藤島「わたしたち"師長(リーダー)"が 深刻な顔じゃ……」
席から立ち上がる藤島。
擬音「ニコッ」
藤島「みんなが不安になっちゃいますよ♪」
塞ぎ込んでいるように見えた周を笑顔で励ます藤島。
双葉「藤島さん……」
周を気遣う藤島に、憧れと感謝の眼差しを向ける双葉。
(時間経過・場面転換)
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藤島の声「"調理師長(リーダー)"が 深刻な顔じゃ…」
藤島の声「みんなが不安になっちゃいますよ…」
双葉たちと別れた周は、藤島の言葉を思い出しながら独り施設を歩く。
擬音「カッカッカッ!」
理事長の声「悩みごとがあるようじゃの~」
背後からの理事長の声に、ハッと顔をあげる周。
周「理事長!」
理事長「この前は色々と"世話"になったの!」
笑顔で茶目っ気タップリにVサインで応えるスーツ姿の理事長。
(時間経過)
周「…そうですか…今度 空調(エアコン)直してくれるんですか…」
理事長「カッカッカッ…バカ息子(勝巨)には いいクスリじゃよ!」
3面ガラス張りで街並みが一望できる展望スペース。
窓の外の街並みをを眺めながら話し合う周と理事長。
理事長「なるほどのう…一人だけキミの料理が美味しくないと…」
遠くを見るような眼差しで外を見つめながら、周と会話を続ける理事長。
理事長の問いかけに、同じように外を見つめながらうなずく周。
擬音「カッカッカッ!」
破顔一笑する理事長。
突然笑い声をあげる理事長に驚く周。
理事長「徳冨クン…キミはひとりの料理人として…"自分の料理をマズイ"と言った相手にも逃げずに向き合おうとしている…」
穏やかな眼差しで外の景色を見つめたまま話し続ける理事長。
擬音「ニッコリ」
理事長「ワシはキミをホテルから追い出したお偉方に"感謝"せんといかんな~」
皮肉の聞いた遠まわしな言い方で周へ感謝とプロ意識への称賛を口にする笑顔の理事長。
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擬音「カッカッカッ!」
理事長「"三つ子の魂 百まで"というくらいじゃぁ~」
理事長「出身(うまれ)や故郷(ふるさと)に"謎"が隠されているのかもしれんのぉ~」
両手を腰に回しながら、ゆったりとした足取りで去っていく理事長の後姿を見送る周。
窓の外の景色を眺める周。
擬音「ギュッ!」
周独白「"三つ子の魂 百まで"……か!!」
理事長の一言でヒントを得た周は、右手の拳を握り決意をあらわす。
第2話終わり