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漫画原作:『蹴鞠の君~鞠庭秘抄』第1話

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『蹴鞠の君~鞠庭秘抄』第1話シナリオ(※マンガ原作形式)

凡例:

文章間に挿入された▼記号は、そこでマンガの該当ページが開始することを示す。

文章間に挿入された●記号は、そこでマンガのコマが変わることを示す。

文章間に挿入された2つの●記号は、そこでマンガのページが切り替わることを示す。

文章間に挿入された▲記号は、そこでマンガの該当ページが終了することを示す。

基本的にそのコマに入る、「 」でくくられた、擬音・字幕・独白・セリフ・解説を先に記載している。
次いで、そのコマに入る背景や人物の情報が記載されている。
この2つと文章間に挿入された●記号でマンガの1コマに入る情報を区別している。

人名の後の「 」の中には、その人物のセリフが入る。

人名独白の後の< >の中には、その人物の心の中のつぶやきが入る。

字幕の後の「 」の中には、5W1Hを説明する文が入る。

擬音の後の「 」の中には、そのコマに必要な効果音が入る。

解説の後の「 」の中には、作者の事項に対する解説文が入る。

「 」の中の( )はセリフのルビを示す。

「 」の中の" "はセリフの強調を示す。

( )は、( )の時点で、場面転換・時間経過・画面暗転が発生し、前のコマと次のコマとの間でストーリーが転換することを示す。

セリフなどの後の、背景や人物情報などを記載する文章の中の『 』や「 」は、背景や事物に、カッコ中の文章が記載されることを示す。 

※は、該当コマを作画化する上での注釈や作者の意図を示す。

1ページ


字幕「鎌倉時代:建保元(1213)年5月17日 平安京冷泉高倉邸(藤原定家邸)」 
早暁の寝殿造の藤原定家(ふじわらのさだいえ)邸の寝殿。ほの暗い寝殿の母屋(もや)にかすかな明かりが灯って見える。

立烏帽子(たちえぼし)に直衣(のうし)姿の定家は、板敷に敷かれた高麗縁(こうらいべり)の畳に座っている。手元の文机の上に紙と、右側に硯箱を置き、右手で筆をとり、前日の出来事を日記として紙に書いている。
定家の右側には几帳(きちょう)が、文机の左前には、明かりのついた灯台が置かれている。

擬音「フゥ」
字幕「藤原 定家(ふじわらのさだいえ) 公家 新古今和歌集の選者」
定家「我が子 為家(ためいえ)にも困ったものだ」
定家は、長嘆息をして、書きつけの日記を書く手を止める。

擬音「ガクガク」
擬音「グググ」
定家「蹴鞠ばかりにうつつを抜かしおって」
定家は恨みをこめた顔で体を震わせながら、筆を折らんばかりに右手に力を入れる。

定家は後鳥羽院(ごとばいん)や公家の公達(きんだち)と蹴鞠に興ずる冠に直衣姿の嫡子藤原為家(ふじわらのためいえ)の姿を想像する。

2―3ページ


定家「これも あの方が蹴鞠の名人であったばかりに…」
筆の先から墨が紙に滴る。怒りに震える定家。

擬音「ハッ」
我に返る定家。

擬音「サッ」
定家「それでも…、あの方は蹴鞠ばかりか和歌や今様(いまよう)にも通じておられた」
立ち上がる定家。硯箱に筆が置かれる。

定家「あの方は、なぜ蹴鞠なぞ好まれたのだろうか?」
定家は、寝殿の南面の簀子(すのこ)に立つ。

定家は、日の出間近の晴れ渡る空を流れる雲を見上げる。
朝日が定家の顔に当たる。


タイトル『蹴鞠の君~鞠庭秘抄』  第1話「蹴鞠との出会い」
顔を上げて、思いを巡らせるような表情で雲を眺める定家。雲に重なるように、右足で鞠を蹴る垂髪(すいはつ)で童水干(わらわすいかん)姿の蹴鞠丸(しゅうきくまる)が描かれる。

4―5ページ


(時間経過・過去)          

字幕「平安時代:康和4(1102)年5月
平安京左京八条亭(藤原宗通邸)」
寝殿造、北の対、東西の対、東西中門のある1町(約120メートル四方)の上級貴族の邸宅。

経澄独白「四郎様の守り役を賜るとは…」
西の対の簀子(すのこ)を折烏帽子(おりえぼし)に直垂(ひたたれ)、括袴(くくりばかま)、腰に太刀を下げた坂上経澄(さかのうえのつねずみ)が歩いている。

字幕「坂上 経澄(さかのうえのつねずみ) 武士 藤原宗通(ふじわらのむねみち)の家人」
経澄独白「紀伊国(きいのくに)を出奔(しゅっぽん)し 殿にお仕えするようになってから はや十五年…」
目を閉じて、感慨深げな表情をする経澄。

経澄独白「殿がようやくそれがしの働きを認めて下さったのだ…」
直垂の右袖に顔を当てうれし泣きする経澄。


経澄独白「少々悪戯が過ぎると聞くが…」
立烏帽子に狩衣(かりぎぬ)・指貫(さしぬき)姿の男に、両手で握った蛇を突き出す蹴鞠丸と、塗籠(ぬりごめ)の戸を塞いで、下げ髪に小袖の上に袿(うちぎ)を着て、紅の打袴(うちばかま)姿の女房(家仕えの下女)を閉じ込める蹴鞠丸の姿を想像する経澄。

経澄独白「殿 若を立派な公達(きんだち)にしてごらんにいれますぞ」
右手の拳を固く握りしめ、決意に燃える経澄。

渡殿(わたどの)を通って西の対に向かう経澄。

垂髪(すいはつ)に、半尻(はんじり)、小袴(こばかま)で浅沓(あさぐつ)を履いた蹴鞠丸が庭に植えられた木の上の枝に腰掛けて経澄をこっそり観察している。

擬音「ニハッ」
口を開いて、うれしそうな笑みを浮かべる蹴鞠丸。
※この時点で蹴鞠丸の表情をまだ見せない。

6―7ページ


(時間経過)

経澄に背を向ける格好で文机の前に座っている蹴鞠丸。斜めに置かれた几帳(きちょう)が蹴鞠丸の姿を半ば隠している。

経澄「坂上宿祢(すくね)経澄にござる 本日より若の守り役を…」
板敷に正座し、蹴鞠丸に話しかける真剣な表情の経澄。

擬音「シ~ン」
経澄の声に応答しない蹴鞠丸。

経澄独白「勉学に励まれておるのか」
経澄独白「感心 感心」
立ち上がった経澄は、几帳に手をかけて文机に座る蹴鞠丸を覗き込む。噂と反対に真面目な蹴鞠丸の姿に笑顔の経澄。

文机の前に座っていたのは、半尻(はんじり)と小袴(こばかま)を着せた人形であった。文机の上の紙には、かえる・きつね・さるの落書きが描かれている。
※『鳥獣戯画』に登場する動物のような絵。

蹴鞠丸「ははは ひっかかった ひっかかった」
経澄「!!」
蹴鞠丸の声をする後ろを振り返る経澄。
※経澄は、この時点で未だ蹴鞠丸の顔を知らない。


字幕「蹴鞠丸(しゅうきくまる) 藤原宗通の四男 通称 四郎」
蹴鞠丸「にっははは」
両手でお腹を抱えながら、大きな口を開けて大笑いする半尻に小袴姿の蹴鞠丸。

擬音「バッ」
経澄「おのれぇ わしを"紀伊国きっての兵(つわもの)"と知っての狼藉か!」
顔を真っ赤にして鬼の形相の経澄が、両手を前に突き出して蹴鞠丸を捕まえようとする。

擬音「サッ」
飛びついてきた経澄を避ける蹴鞠丸。

擬音「シャァ」
経澄の手元には、小さな蛇がとぐろを巻いている。

経澄「ぎゃああ!!!」
西の対全体に経澄の叫び声が響き渡る。

8―9ページ


経澄「おのれぇ」
一度ならず二度までもコケにされて怒った表情のまま左腰の太刀の柄に手をかける経澄。
西の対の簀子に据えられている勾欄(こうらん)の上に立ち尽くし、不敵な笑みを浮かべながら経澄を見る蹴鞠丸。

蹴鞠丸に向けて太刀を振るう経澄。蹴鞠丸は勾欄の上で経澄の太刀を軽々と避ける。

擬音「ハァハァ」
経澄独白「何という身のこなし…」
息を切らせながら、肩を震わせている経澄。

綱丸「蹴鞠丸様!!」
声のする方向に振り向く蹴鞠丸と経澄。


字幕「綱丸(つなまる) 蹴鞠丸の乳母子」
綱丸「若様 こちらにおられたのですね」
息を切らせながら、中庭を西の対に向けて懸命に走り近づいてくる垂髪に、半尻、小袴、浅沓姿の綱丸。

擬音「カチン」
擬音「カチ コチン」
経澄「わ・か・ぎ・み…」
両手で握っていた太刀を落とし、石のように固まってしまう経澄。

経澄「若君とは露知らず…とんだご無礼を」
中庭に土下座して蹴鞠丸に謝る経澄。

擬音「ウルウル」
経澄「どうか…殿にはご内密に…」
目を潤ませながら、勾欄に腰を降ろしている蹴鞠丸を見上げる経澄。蹴鞠丸の座る勾欄の側の階(きざはし)の上で、綱丸が気の毒そうな表情を経澄に向けている。

擬音「ニヤリ」
口を開いて、意地の悪そうな笑みを浮かべる蹴鞠丸。

(時間経過・場面転換)

10―11ページ


字幕「平安京左京七条 東市」
平安京左京の堀川小路(ほりかわこうじ)と東市(ひがしのいち)のある七条大路とが交差する界隈。店棚や倉庫がひしめき合い、それに混じって、庶民の家々が立ち並ぶ。

蹴鞠丸「にはは」
経澄「若! お待ちくだされ」
左京堀川小路を北に走る笑顔の蹴鞠丸。
路の両側には築垣(ちくがき=築地)が築かれており、その真ん中を堀川が流れている。
蹴鞠丸を追いかける綱丸と経澄。

嬉しそうに小路を走る蹴鞠丸。

辻から、顔を土とほこりで汚したおかっぱ頭で小袖の腰に細い紐を垂らした裸足の小さな女童(めのわらわ)である裏葉(うらは)が飛びだしてきて、蹴鞠丸にぶつかる。

擬音「ドン」
蹴鞠丸「いててて」
予期せぬ衝突に道端に尻餅をつく蹴鞠丸。目を閉じて、右手で後頭部をさすっている。

目を開けた蹴鞠丸は、前方に目を凝らす。


字幕「裏葉(うらは) 女童」
裏葉「…」
裏葉が蹴鞠丸の顔を覗き込んでいる。息を荒げている裏葉は、怯えた目で申し訳なさそうな表情をしている。

裏葉と視線を交わした蹴鞠丸は、裏葉の表情に怯えと何かに追われている事を感じ取る。

裏葉の傍らには、蹴鞠丸とぶつかったはずみで落とした鞠が転がっている。

蹴鞠丸は、右手を伸ばし鞠を手に取る。

擬音「スッ」
立ち上がった蹴鞠丸は、屈託のない笑顔を浮かべながら、裏葉に鞠を差し出す。

鞠を受け取る裏葉。
自分がぶつかったにも関わらず、怒りを見せずに笑顔を向ける蹴鞠丸に、裏葉の顔から怯えの色が消え、はにかんだ笑みが浮かぶ。

午業「ここにいたか!!」
蹴鞠丸と裏葉は、裏葉の走ってきた右の方角から聞こえてきた声の主に目を向ける。

12―13ページ


午業「売り物の鞠を盗みやがって」
鬼の形相で蹴鞠丸と裏葉を睨む、萎烏帽子(なええぼし)に直垂(ひたたれ)、括袴(くくりばかま)、脛巾(はばき)姿の午業と藤袴兄弟。

擬音「サッ」
怯えた表情の裏葉は、蹴鞠丸の背中に隠れ、蹴鞠丸の衣の袖をつかみながら、覗き見るように兄弟を見る。
裏葉を庇(かば)う蹴鞠丸。

擬音「ギリリ」
藤袴「お前が命じたのだな」
藤袴は、裏葉を庇う蹴鞠丸を見て、2人が共犯だと勘違いし、歯ぎしりしながら睨み付ける。

蹴鞠丸「違う…麻呂は…」
兄弟の勘違いに戸惑いの表情の蹴鞠丸。

擬音「ザッ」
2人を捕えるために兄弟は、両手を突き出した格好で飛びかかってくる。


擬音「バッ」
擬音「スッ」
蹴鞠丸は、裏葉を右手で突き飛ばしながら、突き出された午業の両手から逃れる。

擬音「ハァハァ」
経澄「若ぁ!!」
綱丸「若様!!」
蹴鞠丸のいる辻に走り寄る経澄と綱丸。
経澄の顔に僅かの汗が浮かんでいる。
綱丸の顔には、大粒の汗が浮かび、息を切らした苦しそうな表情をしている。

蹴鞠丸は、小円の動きで体をさばきながら、兄弟の手から逃れている。
離れたところで、裏葉が蹴鞠丸を見守っている。

経澄「あの動き…拙者が先刻見た…」
綱丸「えっ!?」
経澄は、驚いた表情で先程屋敷で見た蹴鞠丸の動きを思いだす。
綱丸も、驚いた表情で経澄の顔をみている。

経澄「腰を落とし、常に2人と正対するように避けておられる…」
兄弟の動きを軽々と避ける冷静な表情の蹴鞠丸。

14―15ページ


経澄「若の立居振舞…」
経澄「歴戦の"武者(つわもの)"そのもの!!」
腰を落とし、右手に太刀を持った姿で構える大鎧(おおよろい)姿の武士を想像する経澄。

擬音「ヒュッ」
午業「ちくしょう ちょこまかと」
午業が蹴鞠丸を捕まえるために、前のめりに屈みこむ。
午業の額には汗が浮かんでいる。

擬音「キョロキョロ」
午業「どこ行きやがった」
立ち上がり、首を振って左右を見渡す午業。

藤袴「あっ兄者…」
午業「ん?」
驚いた表情で、午業の右肩を指さす藤袴。
午業は、藤袴の指さす自分の右肩を眺める。


擬音「バン」
擬音「ニコニコ」
蹴鞠丸「にはっ」
笑顔の蹴鞠丸が、午業の右肩の上に両足を乗せ、地に立つような姿勢で立っている。
大きな口を開けて驚く午業。

藤袴「このぉ」
午業の右肩に両手を伸ばし、蹴鞠丸を捕まえ
ようとする藤袴。

擬音「ニヤリ」
意地の悪そうな笑みを浮かべる蹴鞠丸。

擬音「サッ」
午業の右肩から消え去る蹴鞠丸。
※午業の頭の萎烏帽子を蹴鞠丸は手で取るが、このコマでは、まだ見せない。効果線で隠す。

16―17ページ


髷(まげ)姿の午業の頭部が現れる。

解説「当時、人前で烏帽子を取って頭部を露(あら)わにすることは この上ない恥辱であった」
解説「彼らは眠る時でさえ烏帽子を被ったままであったといわれている」
午業「はっ はわわわ」
烏帽子を取られて、午業の頭部が露頂(ろちょう)する。
青ざめた表情で狼狽した午業は両手で頭を隠す。

擬音「ハハハハ」
騒ぎを見物する通行人が笑い声を上げる。
通行人の真ん中に笑顔の蹴鞠丸。

擬音「ハッ」
騒動を制止しなければと思い、我に返った表情をする経澄。

経澄「静まれぃ」
右手で太刀を抜き、兄弟に対して大声を上げる経澄。

擬音「バーン」
経澄「ここにおわすは」
経澄「検非違使別当(けびいしべっとう)たる右衛門督(うえもんのかみ)様の四の若君なるぞ!!」
右手に持つ太刀の切っ先で蹴鞠丸を指し示す経澄。
※検非違使…京の治安維持が仕事
※別当…長官のこと
※右衛門督…右衛門府の長官


口を大きく開いて驚愕する兄弟。

擬音「ガクガク」
擬音「ブルブル」
午業「検非違使別当って…」
藤袴「京の治安を守る使庁の長官様…」
お互い怯えた表情で顔を見合わせる兄弟。

立烏帽子に白狩衣(かりぎぬ)姿の検非違使と、立烏帽子に赤狩衣姿の看督長(かどのおさ)達の姿を思い浮かべて青ざめた表情の兄弟。
※検非違使は、江戸時代に当てはめると奉行所の「同心」に該当する。
※看督長は配下の「岡っ引き」に該当する。
※なお、その下には、元罪人であった放免(ほうめん)が手下におり、「下っ引き」に該当する。平安時代と江戸時代では警察や治安維持の制度が厳密
にいうと違う部分があるが。

兄弟「へへえ」
兄弟「どうか 獄に下すのだけはご勘弁を」
道端に頭を下げて、土下座をする兄弟。

経澄「若…」
蹴鞠丸の側に立つ経澄は、蹴鞠丸の顔を見て言葉を待つ。
落ち着いた表情の蹴鞠丸。

擬音「サッ」
身をひるがえし、背後を振り返る蹴鞠丸。

18―19ページ


蹴鞠丸の背後にいた裏葉がいつの間にか姿を消している。

擬音「!!」
驚いた表情で裏葉のいた空間を見る蹴鞠丸達5人。

蹴鞠丸独白「あの子は 一体どこに…」
姿を消した裏葉のことを案じる蹴鞠丸。

(時間経過・場面転換)

擬音「タタタ」
両手で鞠を大事に抱きしめて、七条大路を走る裏葉。
顔には汗がにじんでいるが、どこか嬉しそうな表情をしている。

平安京左京七条三坊辺りにある原っぱ。
地面には、青々とした雑草が茂っており、原っぱの周囲には鬱蒼とした木々が群生している。

大路から原っぱに入ってゆく裏葉。


原っぱの真ん中で固まっている小袖(こそで)姿の童2人と、おかっぱ頭で小袖の腰に細い紐を垂らした女童1人。
1人はリーダー格の大柄の童。
もう1人はリーダー核の腰巾着の小柄で細見の童。
女童は、狐のように細い目で意地悪そうな表情をしている。
3人とも裸足。

擬音「スッ」
裏葉は両手で鞠を持ち、前に差し出す仕草をする。
相手の顔色を窺うように不自然な作り笑いをする裏葉。

裏葉からもぎ取るように鞠を奪い去る大柄の童。

大柄の童「へへへ」
両手で鞠を手にする大柄の童を囲むように、左右に集まり鞠を眺める細見の童と女童。

おどおどした表情で3人に近づく裏葉。
大柄の童が近づいてきた裏葉に気づく。

20―21ページ


大柄の童「言いつけ通り鞠を盗んできたからといって…」
大柄の童「誰が 仲間に入れるか!!」
意地の悪い笑みを浮かべて、裏葉を馬鹿にするように話す大柄の童。

女童「帰れ "声無し"!!」
細見の童「帰れ! 帰れ!」
大柄の童の側で右手を突き出して裏葉を追い出そうとする意地の悪い表情の細身の童と女童。

擬音「!!」
驚いた表情の裏葉。声無しという言葉が裏葉の心にこだまする。

やや俯きながら涙を堪えるように、くしゃくしゃに顔を歪める裏葉。


擬音「ニヤニヤ」
馬鹿にされて落ち込んだ裏葉を見て優越感から笑みを浮かべる大柄の童・細身の童・女童の3人。

すがる様な目を3人に向ける裏葉。

大柄の童「行こうぜ」
裏葉に背を向け、鞠を持って原っぱの中央に歩き出す3人。

擬音「ガサ」
蹴鞠丸「待つんだ!!」
原っぱの草を踏みしめる蹴鞠丸の浅沓。

擬音「!!」
立ち止まり怪訝そうな表情を見せる3人。

22―23ページ


毅然とした表情で大柄の童・細身の童・女童の3人を見据える蹴鞠丸。
蹴鞠丸の背後に、蹴鞠丸の袖をつかみ半ば隠れるように3人を見ている綱丸と、経澄が立っている。

擬音「キッ」
蹴鞠丸「その子に… 鞠を返せ!!」
大声を張り上げ、3人に力強い視線を向ける蹴鞠丸。

3人「!」
たじろぐ3人。

擬音「ギロリ」
女童「"声無し"… つけられたね…」
振り向いた女の童が裏葉をにらみつける。

怯えた表情の裏葉は、顔を左右に動かしてそ
うではない事を必死に伝える。


蹴鞠丸「あの兄弟が 麻呂たちに教えてくれた
んだ」
ばつの悪そうな表情で蹴鞠丸に話す午業と藤袴の兄弟を思い浮かべる蹴鞠丸。

擬音「ニヤ」
蹴鞠丸「この辺りで童が遊ぶような場所は"ここ"だけだってね!!」
勝ち誇ったような力強い表情の蹴鞠丸。

大柄の童「くっ」
たじろぐ大柄の童。

裏葉は、不安気な表情で蹴鞠丸を見つめている。
鞠を盗み、迷惑をかけたにも関わらず、どうして怒らないのか不思議に感じている。

擬音「ニコ」
蹴鞠丸「大丈夫」
裏葉の不安を和らげるように満面の笑みを向ける蹴鞠丸。

24―25ページ


擬音「ヒラヒラ」
経澄独白「わしの…わしの銭が…」
綱丸「経澄様…」
経澄は、銭を入れていた袋を逆さにし、左手でつまんで揺らしている。
所持金が鞠の代金にすべて消えてしまい、両目から滝のように涙を流している経澄。
綱丸が気の毒そうな表情で経澄を見ている。

擬音「ニヤニヤ」
大柄の童「これを返してほしいか」
鞠を右手でわしづかみして、蹴鞠丸に見せる大柄の童。
自信に満ちた表情をしている。

擬音「コクリ」
蹴鞠丸は、緊張した表情で大柄の童の言葉に頷(うなず)く。

擬音「ニヤニヤ」
擬音「ケラケラ」
大柄の童「俺たちと蹴鞠勝負をして勝てたら返してやる」
勝ち誇ったような表情の大柄の童。
細見の童と女童は、大柄の童の傍で蔑んだ表情をしている。

擬音「ニヤリ」
大柄の童「そのかわり…俺たちが勝ったら」
大柄の童「お前も子分になってもらうぞ」
蹴鞠丸独白「蹴鞠勝負……」
禍々しい表情で蹴鞠丸を見下す大柄の童。
真剣な緊張感のある表情を見せる蹴鞠丸。


(時間経過)

原っぱに立ち尽くす蹴鞠丸・綱丸・裏葉。
3人に向き合う位置に大柄の童・細身の童・女童が立っている。
西には、北から綱丸・蹴鞠丸・裏葉の順に、東には、北から細身の童・大柄の童・女童の順に立っている。
経澄は、原っぱの北側、綱丸と細身の童の中間の位置に立っている。
原っぱの四隅には、木がそれぞれ1本ずつ立っており、北西の綱丸の側に立つ木は枝葉の茂った大木が立っている。
四隅にある木で囲まれた鞠庭の一辺は7mくらいの広さ。

6人の顔と上半身のアップ。
蹴鞠丸は、緊張した表情。
綱丸と裏葉は不安な表情。
大柄の童たちは、蹴鞠丸たちを見下す表情で口元を歪めている。

26―27ページ


経澄独白「若…」
6人の間に立つ位置で固唾(かたず)を飲んで蹴鞠丸を見守る経澄。

大柄の童「この4本の木に囲まれた範囲が鞠庭(まりにわ)だ」

鞠庭とする原っぱの四隅にある式木(しきぼく)代わりの4本の木をそれぞれ描く。
※鞠庭…蹴鞠をするコートのこと。
※式木…鞠庭の四隅に植えるコートの目印となる四種類の木のこと。
※標準的な鞠場には、桜、柳、楓、松などの4本の樹木が、それぞれ正方形の頂点になるように、2丈2~3尺(約6m60cmから約7m)の間隔で植えられた。
この木に鞠があたってさまざまなコースをとって落ちてくることで、蹴鞠の面白さが増すのである。

女童「この鞠を10回… 先に落とした方が負けよ!」
不敵な笑みを浮かべ、右手で鞠をかかげて見せる女童。

擬音「ムカ」
経澄「おっさん」
細見の童「おっさん、見証(けんしょう)役な」
※見証…審判役のこと
間に立つ経澄に顔を向ける小柄の童。経澄はおっさんと言われて不機嫌な表情をする。


綱丸独白「若様…」
不安な表情を蹴鞠丸に向ける綱丸。
真剣な表情の蹴鞠丸。

蹴鞠丸「綱丸…」
緊張した表情の蹴鞠丸。

擬音「ビュォー」
蹴鞠丸「蹴鞠って どうやってするんだ?」
左手で後頭部に触れながら、目を点にして、とぼけた表情で蹴鞠のルールを問う蹴鞠丸。
驚いた裏葉は目が点になり、綱丸は、うつろな表情で立ち尽くす。
3人の前を木枯らしが吹きすさぶ。

擬音「はあ」
経澄独白「若…」
右手で折烏帽子を抑え頭を抱えた格好で溜息をつく経澄。

28―29ページ


大柄の童・細身の童・女童「あっははは」
お腹を抱えて大笑いする3人。

細見の童「公家の子供なのに 鞠遊びすら知らないなんて」
女童「蹴鞠も知らないで よく勝負をする気になるわね」
笑いがの止まらない細見の童。
蹴鞠丸を見下した意地の悪い表情の女童。

擬音「ポンポンポン」
大柄の童「教えてやるよ」
右足でサッカーのリフティングのように鞠を蹴る大柄の童。視線を鞠に向けている。

擬音「ポーン」
大柄の童「鞠は こうやって 蹴るんだ!」
天高く鞠を高々と蹴り上げる大柄の童。


顔を上げて、蹴り上げられた鞠を見上げる蹴鞠丸。
蹴鞠丸を空から見上げた俯瞰の構図。
※蹴鞠丸が蹴鞠に興味を覚えるきっかけとなる重要なシーン。大コマで。

空に浮かび上がった鞠に魅せられるように、瞳を輝かせた蹴鞠丸の顔のアップ。

30―31ページ


擬音「スー」
地面に落ちてきた鞠に右足をのばす蹴鞠丸。

擬音「カッ」
擬音「ポン」
浅沓を履いた蹴鞠丸の右足のアップ。蹴鞠丸の右足の甲に鞠は当たる。

擬音「コロン コロン」
地面を転がる鞠。

擬音「ニヤリ」
鞠を落とした蹴鞠丸を見て笑みを浮かべる大柄な童。

擬音「ムスッ」
細見の童「おっさん こっちに一点な」
経澄「くっ…」
見証の経澄を見る細見の童。
おっさんと呼ばれて不機嫌な表情の経澄。


地面に両手・両膝をつけて、俯いたままの蹴鞠丸の後姿。

綱丸「若!」
蹴鞠丸を心配して蹴鞠丸の傍に駆け寄る綱丸と裏葉。

綱丸「若…どこかお怪我でも…」
裏葉「……」
不安な表情の綱丸と裏葉。

32ページ


擬音「スッ」
地面に転がっている鞠を手に取る蹴鞠丸の後
ろ姿。

擬音「ニハッ」
蹴鞠丸独白「これが…」
蹴鞠丸独白「これが…蹴鞠!!」
両目をキラキラと輝かせて手の中の鞠をうれ
しそう見つめる蹴鞠丸の顔のアップ。


第1話終わり。次回に続く。

蹴鞠丸は3人の童たちとの蹴鞠勝負に勝利して、鞠を取り戻すことができるのか?次回、蹴鞠に魅せられた蹴鞠丸の活躍を乞うご期待!!

第2話のページへ

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