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星になるきみへ

夜の明かし方がわからない。
夜って勝手に明けて
朝って勝手に現れる
そういうものだと思っていたのだけれども
どうしたってやり方を考えてしまう。

今この時間から進めない。
この瞬間の中に閉じ込められ、
足がすくんで動けなくなり、
四肢の力が抜けていく。
唇は鼻水と唾液で赤く腫れ上がり
目はパンパンに膨らんでいる。
心の芯がからっぽになるように。
大きく自分の中心を抉り取られるように。

あなたを失うとはこういうこと。

徐々に冷たくなっていく体を
逃すまいと抱きしめる。
まだあたたかさが残るお腹に
何度も耳を傾ける。
再生させてみせると、
そっちにくれてやるもんかと、
必死に蘇生を試みた。
必死に私の息を渡した。
行くな、行くな、生きろ、生きて
必死に大声で名前を呼んだ。

君はいってしまった。

君がいないただいまも
君が起こしてくれない気怠い朝も

君のために重たい体のまま布団から出て
寝ぼけ眼で準備するご飯にお水も

君のために毎日連れて行った昼間の散歩も

お風呂に入るとモップみたいにボリューミーで面白い君の姿も

ペットボトルのぐしゃって音におびえる君の姿も

他のわんちゃんに囲まれて私のもとに逃げてくる君の姿も

カメラを向けられると途端に微妙な顔になる君の姿も

歩くの大変なのに寂しがりだから
小さな部屋の移動もいちいち
後をつけてくる
おばあちゃんになった君の姿も

どんなに元気がなくてもおやつにだけは
しっかり目を輝かせる君の姿も

薬を服用するための混ぜ込みヨーグルトを
下手くそに食べる君の姿も

隣に座っていると膝の上に乗りたいよって
アピールする君の姿も

ぜんぶ、全部
もうこの目でみることができないということ、
どうしても受け入れるには時間がいるようです。厳しすぎるよ。
めんどくさいことも、元気な姿が見れるならって
めんどくささよりも沢山愛おしさが勝っていたよ。

どうしても行ったら
後悔するような気がして、
無理矢理夜のバイトを休んで
部屋に残る決心して間もなく。
息が荒くなり抱き上げてからも
間もなくだった。
私の腕の中での最後を選んだ君は
本当にさすがだと思った。

君は飛び抜けて可愛いし、
強くてたくましくて優しいから
おまぬけなところもあるけど
どこにだって行けるよ。
大丈夫。
安心して幸せな場所に、行きたい場所に
行くといいよ。

そっちの世界で逢えたらいいな。
もしも君の方がなにかとはやかったら
私のこと待ってなくてもいいから、
転生してまた
私の人生内に会いにきてくれないかな。
善い行いができるように心がければ
また会えるかなぁ。出会ってくれるかなぁ。

紛れもなく
自信を持って
あなたが全てだったよ。
あなたが生活の中心で
あなたがこの世で一番愛おしくて
大切だと今でも言えるよ。

私が小学校の頃、
複雑な家庭に招き入れられ
新たに家族になった君には
いろんな苦労をかけたし
いろんな人間らしさを見せた。
人間が怖い生き物に見える時もあっただろう。 

それでも
どうしようもなく孤独で救いようのない
私にすぐに気づいて
涙を拭って
ずっと一緒に寄り添ってくれた君のこと
今後の人生でずっと握りしめて抱きしめて
どんな状態になっても離したくないよ。
兄弟も従兄弟もいない完璧な一人っ子で
両親ともうまくいかない
私のかけがえのない存在。

時間をかけて苦しさを薄めて
乗り越えることしか
人間にはできないかもしれないけれど
一生、一緒に忘れないよ。
心から愛している。
大切な一生を私と過ごしてくれて
ありがとう。

君からの新たないろんな試練だと思うけど
流石にキツすぎるな。難関すぎる〜。
すぐに受け入れることはできない。
それでも今晩は苦しくても
寂しくなっても帰ってこなくても、
ずっと君のことを考えたいよ。

三時間後に焚いたお香はまだ近くにいる君を知るためです。
金のお香トレーの上にセルフ爪切りのときの君の爪が
散りばめられていたのは
可愛くて捨てれなくてちまちまためていたものです。
おまじないみたいだね。
お香の香りは
普段散歩をする公園にちょっと前まで咲いていた
金木犀の香りです。
これが金木犀だよ。いい匂いでかわいいでしょ。と
抱っこをして近くまで連れて行ったね。
君の数少ない好きな人間からもらった素敵なマッチで火をつけた。
灯った途端に煙が物語のように私を囲ったこと、
生涯忘れないでしょう。抱きしめてくれてありがとう。

会社員をやめて間も無く
母が残した家に
君と二人きりで長いこと生活したね。
君がいない家を想像できない。
君がいない部屋を想像できない。
君の寝息がしないおやすみも想像できない。
君が寝床を7割近く占領して
残りの3割の間で私が眠らない夜を
想像できない。

飲み込むための時間はうんと長いけど、
それを何倍も何倍も上回るくらいの
幸せな時間をくれた
ちょーちゃんが心から大好きです。
よく頑張りました。心からありがとう。
安らかにいい夢をみてね。
今夜は私がこの世からいなくなるときにかけてほしい
大切な唯一の音楽をゆっくり聞かせてあげるね。
おやすみなさい。また逢おうね。
早速今夜、夢で逢えたりしちゃうかな。

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