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『アングスト/不安』 人ひとり殺すこともままならないのだから、生きること自体がままならなくたっていいじゃないか
『アングスト/不安』(1983年/ゲラルト・カーグル)
【あらすじ】
人を殺すのにめちゃくちゃ苦労する
とりあえず映画を撮る前夜に、機材打ちを終えて爆眠い中なんとなく見直した。
なぜなら、不安というタイトルから乖離して、観れば観るほど安心感が増す大好きな作品なので。安定剤映画。作劇とかストーリーとか展開とかメッセージとか教訓とか全部度外視にして、ビビットに「映画」だけが、「運動」だけが連なってそこにある空気がたまらなく安心する。
実は撮影がものすごくテクニカルだけれど、そういった創意工夫も自らの活気に繋がる。自分にとって観るたびに、こんなにハッピーな気持ちになれる映画もないが、それはひとえに、映画を一生懸命撮っていることがまず伝わるからなのかもしれない。
自意識過剰・自信満々なモノローグと真逆のトンチキ殺人描写に初見時は爆笑したが、次第に哀愁すら感じてきた……。
人を殺すことも、映画を撮ることも大変なのだ……。不器用ながらも、一生懸命にそれに励むことはできるはずだという心意気を持ち続けることは大切。
一言も言葉を発さないし悲鳴もほとんどあげない娘さんの、ドアノブに縛られ、からの口にナイフ咥えるまでのアクションとか惚れ惚れする。そういった異化効果は、婆さんの入れ歯だったり、ワンちゃんだったり、ソーセージだったり、普通にセンスが良すぎる。
ダイナーでの目線のカット繋ぎとかももはや天才的だけれど、ラストショットが天晴れ。ドジでトンチキなキミに幸あれ……な爽やかで晴れ晴れしたハッピーエンド。「お疲れ様でした」エンド。観客がちゃんと「お疲れ様でした」と思える映画が実は大事です。
タクシーでパニクって走って逃げ出すところ、クラウス・シュルツの音楽や、カメラワークのかっこよさとかけ離れて、その行動があんまりにもかっこ悪く、その瞬間、かなり主人公が大好きになった。
『ハウス・ジャック・ビルト』と並んで、殺人鬼がべらべら喋りながら、ヘマもしつつ、最後には観客から「ばかたれ笑」と頭を引っ叩かれるブラックコメディの傑作だと思います。
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