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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』 絶望の時代には、それ以上の絶望を

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年/庵野秀明、摩砂雪、前田真宏、鶴巻和哉)

【あらすじ】
目が覚めたらみんなめっちゃ怖い

新エヴァで唯一繰り返し観ているほど好きなのが『Q』。その理由はまず、旧エヴァ特有の病み感、真っ黒なドロドロ感、居心地の悪さみたいな鬱屈したヤバイ感覚に、本作が最も近いからなのだと思う。
あともう一つの理由としては、単純に作画のレベルがシリーズで最も高い。死ぬほど画が美しいアニメーション。

『破』でせっかく新しいことをしたのに結局鬱アニメに戻るのかよ、という批判があったとしても、「戻ってしまう」のが庵野の作家性だと信じていた僕のようなファンにとっては、こんなに嬉しい絶望感は無かった。
絶対に庵野以外にこんな絶望映画は作れない。

主人公の行動や意志のすべてを全否定し、それを楽しんで消費した観客も道づれに地獄へと叩き落とす。キャラクターへ、エヴァ自体へ、作者自身へ、そしてファンへ、全方向に向けられた絶望感、自他殺願望、ペシミズム、それら強度の高さたるや。なんて純粋無垢な厭さだろう。

公開当時は震災の翌年ということもあって、劇中のカタストロフには震災を想起せざるを得ない共感もあった。しかし、絶望的な今こそ、純度の高い絶望を。毒には毒をだ。

『Q』を作って鬱になった庵野が(ハヤオの『風立ちぬ』は置いておいて)『シン・ゴジラ』で復活するとは誰も考えられなかった。しかも、鬱の原因がエヴァなら鬱克服もまたエヴァ・コラージュな『シン・ゴジラ』という。

冒頭、突然『ふしぎの海のナディア』の『バベルの光』アレンジの曲が流れ始めてアガった。

ぽかーんとお通夜状態の客席を癒すかのように鳴り響く宇多田ヒカル『桜流し』も印象的であった。

エヴァヲタの友人4人と初日に観に行って、自分以外の全員がちゃんと絶望していたのも憶えている。鑑賞後に入ったサイゼリヤで、とりあえず公開を祝してワインをデカンタで頼んだものの、友人たちが「なんか、飲めない……」とテンションガタ落ちしていたので「庵野がんばれー」と自分が全部飲みました。厭な映画を観るほど元気が出るものです。

このとんでもない映画から9年待っての『シン・エヴァ』。
卒業式まで長かった……。

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