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『ミンナのウタ』 恐怖にも怪異にも怨念にも怪談にも誠意が込められたエンタメ幽霊譚

『ミンナのウタ』(2023年/清水崇)

【あらすじ】
怖いカセットテープを聞いたので怖い目に遭う

手数の多さにニッコニコ。企画それ自体のポップさと乖離する、ホラー映画と真正面から向き合ったド直球恐怖映画。
あらゆるテクニックを駆使して描かれる恐怖演出は、ジャンプスケアやゴア表現に頼ることなく、"ホラー映画"の便法を半ば強迫観念的に遵守している。
それでいて、所謂「小中理論」からは遠く離れて、ダイレクトな恐怖そのものを追求し続けた清水崇監督の集大成的な作品として結実している。
人の情念が時を超えて、肉体を失っても尚、世界にはびこっていく様子に、清水崇監督の真骨頂を見た。

GENERATIONSはもちろんのこと、元ももクロの早見あかり、歌手でもあるマキタスポーツも含めて、主要俳優が全員ミュージシャンという意図的なキャスティングが、コンセプチュアルで素晴らしい。
端的に、声含めた"音"の魅力に溢れた映画でもある。映画館の音響も素晴らしかった。

GENERATIONSのメンバーなんか誰ひとりも分からないし興味もないマキタスポーツ演じる探偵を配置していることで、ファン層以外にも親切な構成にしていて巧い。

一緒に観た友人が、白石晃士監督の『シロメ』の、あの早見あかりが、『ミンナのウタ』では"あの行動"を取ることの熱さに泣いたと話してて、僕も泣いた。

というか、定型として「美少女が主役」というセオリーを破るマッチョイケメンたちが主人公ってだけで新しい。Jホラー・ポスト・ポストモダン!

高橋洋による『呪怨 呪いの家』に対する「俺にとってのホラー映画はコレだ!くらえ!」とでも叫んでいるかのようなカウンターパンチでもあって、そういう意味では『シン・呪怨』みたいな要素すらある。

とは言え、今回のオバケことさなちゃん誕生の背景は、伽倻子や貞子など、従来の怨念悪霊バケモノと明確に差別化する素晴らしいアイデアがあって、そういうところも新しい。

映画の脚本というよりも、長編怪談を聞いているような感覚も付帯している。
そこでノレねえという人もいるかもしれないけれど、これは『残穢』以降のナラティブというか、伝承や口述によって恐怖の解像度が高まっていくドライブ感が徹底され保たれていると感じた。
というか、劇中で明確に「怪談を話す」シーンが存在している。
マキタスポーツがかぐや姫の怪談を話し始めたところでガッツポーズした。
もうそこで感動して泣いたのだけれど、『残穢』を経て、『霊的ボリシェヴィキ』を経て、『シライサン』を経て、『ミンナのウタ』も新時代のホラー映画(ネオJホラー)の系譜に正しく当てはまる"ホラー映画"だ。

カメラがクローズアップしない所作にこそ恐怖が宿っている演出もゾクゾクした。
ああいったことは小説だと少しばかり難しいと感じるし、「意味がわかると怖い話」系とでも言おうか、観客が自発的に"発見"してしまう時の不気味さが確かにあった。

『呪怨 白い老女』で一番怖かったアレも拝借して、しっかりと新たなショックを生み出しているのも流石。
マリオ・バーヴァの『ザ・ショック』のアレに関しても、お茶目というか、使える!と思って再利用することは罪じゃない。誰もやらないなら、俺が先にやって驚かす!これも、元々イタズラ好きの少年だった清水監督の本領。

フィルマークスのスコアで見ると『呪怨』や『輪廻』よりも上で、清水崇フィルモグラフィで最高スコアなのが興味深い。

「久しぶりにちゃんと怖いマトモなJホラー」と巷で言われているけれど、ホラーファンとしては、うるせーバーカ!ジャンル映画ナメんなよ!と、そういう輩に限ってジャンル映画を馬鹿にしていることに無自覚なので思わず腹が立つ。まあ、ジャンル映画なんて肩身が狭いのでいいですが……。
(これと同じ現象は『ダークナイト』公開時にもありました。曰く「これはただのアメコミ映画ではない」。テメェが一番アメコミ映画バカにしてるよ!ただのアメコミ映画をナメんな!)

ちなみに、ホラー映画好きな友人たちと6人で鑑賞した結果、3人は「面白かったけど怖くはなかったカナー」で、自分含めた残りの3人は「あまりにも感動して泣きそうになった、泣いた」と情緒がおかしかったです。

「GENERATIONSさえ出演していれば、あとは監督の好きなように撮っておけ。めっちゃ怖くしてもおけ」と、清水崇にこの映画を撮る機会を与えてくださったLDHには足を向けて眠れない。
思えば、ハイローを観た時から、LDHには足を向けて眠れない……

日本のホラー映画界をLDHが救う!!

ありがとうLDH!!

一番やんちゃそうでガタイの大きい関口メンディーさんがずっとビビっていて、襲われた後に出す悲鳴には笑ってしまいました!すみません!!

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SUGI
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