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『マザーズデー』 少女が少女のために「母」を殺す通過儀礼の美しさを、ゴミ映画として忘却してはならない
『マザーズデー』(1980年/チャールズ・カウフマン)
【あらすじ】
女友達サイコー!って楽しんでたらキチガイ親子に拉致される
観たことなかったんだけど、信じられないくらいに素晴らしい傑作だった……。
この映画、ラストばかりが有名で、自分もそのラストだけを認知していた。所謂『キャリー』や『13日の金曜日』ラストをパクったクリシェで、これはこれで唐突に終わりすぎて笑える(草むらから出てくるバケモノのポーズがアホすぎるし、4回もズームしてめちゃ面白い)。
が、それだけで消費していい映画ではない。『マザーズデー』はスラッシャー映画史上初めて「被害者側が加害者側へ逆襲する」作品として、そしてフェミニズム文化史的にも失念してはならない映画になっている。
スラッシャー映画において、被害者側が殺人鬼へ反撃する展開は確かに存在する。恐らくはカーペンターの『ハロウィン』(1978)が闘うスクリーミングヒロインの元祖だ。『13日の金曜日』(1980)でもヒロインは反撃している。
しかし、それは悪を"撃退する"という域を超えてはいない。
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『マザーズデー』では、明確に敵対者に対する"逆襲"が描かれていて、そこには作劇(意外性のあるツイスト)を超越したアツさでみなぎっている。
悪を撃退するのではなく、悪に逆襲する。
都合によっては『デス・プルーフ』よりも上手く表現できている気がする(『デス・プルーフ』は最高の映画だが、特にチアリーダーの子の最後の扱い方とか、フェミニズム視点で観るといかがなものか、という余韻がある)。
殺人鬼に殺される側の被害者たちは、観客がどうでもいいと思えるくらいにはバカで軽率に描かれがちだ。その方がスカッとするし、被害者たちのドラマなんかよりも、どんな殺され方をするのかに興味がある。
しかし、本作の1幕目では、じっくりと丁寧に3人の主人公たちを描く。
しかも3人は大学の親友同士で、10年ぶりに再会する。皆なんとなく年齢を重ねて、ままならない現在がある者もいるけれど「一緒にいると大胆になれるの」と友達に感謝する。アラサー仲良し女子たちのキャッキャ百合感が既にアツい。
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2幕目で殺人鬼一家に拉致される。リーダー格だった女性が真っ先に殺人バカ兄弟の餌食となってしまう。
いちばん地味で大人しかった子が、そんな彼女の死を前にして「許さない……」「仇を取ってやる……!」と決心する。
この決心する瞬間の表情に泣く。その顔は、闘う女の顔になっているのだ。
眼鏡を掛けていた彼女は、その決心の瞬間には眼鏡を掛けていない。アツい。
3幕目は逆襲編。ランボーのようにハチマキを巻く地味子ちゃんは、決して恐怖や哀しみの表情を見せずに、凛とし続けながら殺人鬼一家の家へと向かう。
その家の前に運んでいたのは、亡くなった友達の遺体だ。庭の木に彼女を立て掛けて、地味子ちゃんは言う。「見ててね」そして遺体となった友達にキスをする。アツすぎる。
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逆襲の際にも、1幕目でさり気なく配置されていた伏線が連続的に登場して、そのどれもがアツい。
フェミニズムと母親からの解放、女性の自立。
クライマックス、感涙した。
作り手は決して生半可な気持ちではなく、本気で映画を撮っている。
当然トロマ映画なので、低予算だし多くの観客からは忘却されるようなトラッシュ映画のひとつだ。例のラストもまた然り。
とは言え、尺を稼ぐためにバカ兄弟がやたらと運動したり喧嘩したりするのも可笑しい。
しかし、ゴミのような映画の中で輝きを放つ、人間の尊厳を取り戻そうとする瞬間や物語にこそ、真の表現としての価値がある。
どんなゴミ映画でも、そこに人が関わっている限り、無価値な表現はないはずだ。
そして、映画をたくさん観ているからこそ、どんなゴミみたいな映画でも楽しめる、それが映画ファンの特権だと信じている。
久方ぶりに大きく心を動かされた。それがトロマ映画かよと馬鹿にする輩とは、二度と映画の話なんかしたくない。
もっと正しく評価されるべき名作だと感じたので、是非ともホラーファンの皆様の力で布教していただきたいものです。
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