【夫婦円満】少しの準備で夫婦喧嘩を予防できると義母から教わった
運転席から振り返って、白い湯気が立つ紙コップを義母から受け取った。
「でかけるときは、子どもの準備で大変だと思うけど、なんでもいいから、親の分の食べるものも持った方がいいよ」
義母はそう言いながら、もうひとつ紙コップを取り、持参した魔法瓶から温かいお茶を注いで、今度は妻に渡した。
「お腹へっても、ここらへんだと都合よくコンビニなんてないから。あっても子どもがいると、タイミングとか難しいしさ。それが夫婦げんかのもとになるわけなのよ」
たしかに周りを見ても、コンビニなんてない。あるのは100人も入ればぎゅうぎゅうの水族館と、いくつかの車。あとは木だ。頭を真っ白に染めた木々が僕らを取り囲んでいる。
雪がちらつく寒い日だったから、暖房をつけていても車のなかは少し寒かった。温かいお茶と同じくらいに、義母からの言葉は身に染みた。
その日、僕、妻、息子、義母の4人で、車で1時間くらいのところにある水族館に向かった。僕の住む町は田舎だけど、その水族館がある町も田舎だ。というより山の中にある。
道中、周りには木と雪しかなかったけど、車内は息子の言動で笑ったりと、和やかな雰囲気だった。
息子は初めての水族館に目を輝かせ、走り回り、ときには自分より大きな魚に怖がったりもした。
3時間ほど滞在し、13時を少し回ったころ、さあ帰ろうかとなったわけだが、出発前に車の中で息子のお昼ご飯だけ済ましちゃおうかとなった。
生後1歳から食べられる「和風ランチセット」を妻の手からもぐもぐと口に入れている息子をみていると、そこで初めて僕もお腹が空いていることに気がついた。
出発が朝早かったこともあって、僕ら親の食事のことなんてすっかり頭になかった。というか、まぁ親はなんとかなるでしょうって感じだった。
そのとき、義母がバックの中から取り出したのが、魔法瓶、紙コップ、コンビニのドーナツで、「なんでもいいから親の分も持ってきた方がいい」という大変にありがたいお言葉をいただいたのである。
たしかに、結婚する前とかもいろんなところにでかけたけど、思うようなタイミングでごはんを食べられなくて雰囲気が悪くなったことが何回かある。
ケンカしたのもいい思い出だよ~というのもわかるが、ケンカしないに越したことはない。
ましてや、子どもを連れて家族でドライブだ!という最高な日に、夫婦喧嘩なんてできればしたくない。息子の記憶には、楽しかった思い出だけを残してあげたい。
ほんの少しの準備だけで、楽しいはずの1日が最悪の1日に変わらないように予防できるんだと初めて知った。
なるほど、どうりで義父母は仲がいいんだなと、ドーナツを頬張りながら、僕は心の中で深く頷いた。
それ以来、僕はコンビニでドーナツを見かけたらつい買ってしまう。ドーナツを食べただけで夫婦円満になるわけではないんだけど、相手に対する気遣いとか、誰かを思う気持ちみたいなものを思い出すことができるからだ。
あと単純にめちゃくちゃおいしいから。
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