輩に絡まれている
2022年8月、僕はアパレルブランド「JUNRed」さんからお話をいただき、コラボTシャツを発売した。
かわいくて僕自身も着たくなるデザインにしてもらい、型は今風のオーバーサイズでドロップショルダーに。
誰もが着やすい良いTシャツが出来上がったと思う。
順調に売れているというお話も聞いて、僕は喜んでいた。
あの男が絡んでくるまでは。
その男は、何の前触れもなく僕に絡んできた。
最初はライブスタンドの東京初日だったと思う。
海浜幕張駅に着くと、目の前に見覚えのある人がいたので、隣に並ぶようにして挨拶をした。
僕の予想通り、その人物はGAGのひろゆきだった。
そして彼こそが僕に絡んできている輩だ。
いつものように
「おはようございます。」
と言い、一緒にひろゆきと会場まで歩くことに。
何か違和感を感じていたが、その違和感が何かわからないまま歩く。
そして、歩きながらひろゆきの方を向いた時、僕は違和感の正体に気が付いた。
ひろゆきは僕のコラボTシャツを着ていたのだ。
服を発売したりすると、芸人仲間に配って着てもらってSNSにあげて宣伝してもらう、というようなことがあるが、今回僕は誰にも配っていなかったので、ひろゆきが着ていたことにまずは驚いた。
彼は自分でオンラインショップで購入したということだった。
その時は、『ありがたいなぁ』とか『嬉しいなぁ』という気持ちだったように思う。
まだこの後の悪展開に気が付いていなかったのだ。
それからというもの、ひろゆきは色んな場面で僕のコラボTシャツを着るようになった。
そして、少しずつおかしな方向に行っていることに僕は気が付いた。
ひろゆきというのは、何かの価値を下げることに長けている。
プレミア価格になると言われていたスニーカーを買えば、そのスニーカーの値段は暴落し、即完売すると言われていた大人気ブランドのコートを買えば、そのコートは売れ残ってセールになっていた。
彼が身につけるものは全てその価値が下がる、下手したら価値が無くなるのだ。
そんなひろゆきが僕のコラボTシャツを着ている。
そして、それをライブや営業など人目につくところで着ている。
価値は下がっていく一方だった。
僕がひろゆきに
「マイナスプロモーションなので着ないでください。」
と何度お願いしても、彼は
「宣伝してあげてるんやん。ありがたく思いや。」
とズレた反論をしてくるばかりだった。
屋外での営業があった時もひろゆきは僕のコラボTシャツを着ていた。
彼は極度の汗かきで、コラボTシャツは彼の汗でびしゃびしゃになり、少し素肌が透けていた。
そして、あろうことかドロップショルダーになった袖を捲っていた。
これ以上ないというくらいのダサい着こなしだった。
なぜ落とした袖を上げるのだ。
こんな摂理に逆らうことがなぜ出来るのだ。
僕は、何もできずにひろゆきが僕のコラボTシャツの価値を下げていくのを指を咥えて見ていることしか出来なかった。
そして数日後、彼の発言で僕はもう一度地獄に落とされることとなる。
その発言とは
「2枚目買ったよ。」
である。
着古してくれて、もう着れなくなればいいかと安易に考えていた自分を呪った。
その後も彼のマイナスプロモーションは止まることを知らず、今では違うデザイン3種類のコラボTシャツを購入して着回している。
今回のコラボTシャツは全部で4種類のデザインのものを発売したのだが、そのうち3種類を彼に買われてしまったのだ。
先ほども書いたが、彼はライブでこのTシャツを着ている。
こういうコラボTシャツというのは、お客さんがこれを着てきてライブに参戦するというのも1つの楽しみではないかと思う。
しかし、それを着てきてしまうと、ひろゆきとお揃いになってしまう。
そんなこと誰が望んでいるだろうか。
他のお客さんから好奇の目で見られるに決まっている。
『あの人ひろゆきと同じTシャツ着てる』
こう思われてしまって笑われる。
街で同じTシャツの人と鉢合わせるよりも精神的ダメージは大きいはずだ。
何せ相手はひろゆきなのだから。
警察に駆け込んでも相手してもらえないだろう。
弁護士に相談しても打つ手はないと言われるだろう。
そのくらい巧妙な手口なのだ。
僕は輩に絡まれている。
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