出産レポ〜鼻からスイカと言うけれど〜

ついにお子が産まれた！
なんかいろいろ大変だったけど貴重な体験いっぱいしたから記録しておこうと思います。

幸先のいい滑り出しはいつだって難航の兆し

朝からどうにもお腹が変な張り方をする。散歩しててもご飯を食べても定期的に腹が痛い。いそいそとダウンロードしておいた陣痛カウントアプリを起動し、陣痛間隔のカウントを開始。最初から10〜12分間隔だったので「お？下手すりゃ今日にでも産まれちゃうか？」とか超お気楽に考えていた。
とりあえず夜まで様子を見つつ、陣痛が確実に10〜7分間隔になるのを待って病院へ連絡。この頃には陣痛は下痢のようなかなり明確な腹痛になっていた。

ひとまず入院が決定。ところが…？

夜中に産院に到着。荷物を運び込み産褥着に着替えて準備は万端。赤ちゃんの心拍モニターを装着して陣痛の強さを測るも、結果「まだまだ出産まではかかる」とのこと。「とりあえず陣痛は10分に1回間隔」という知識しか頭になかった私は、出産までにこの間隔がどんどん短くなっていき、最終1〜2分間隔になることなんて全く頭から抜けていた。早くも絶望。
結局、朝まで陣痛室の一角を占領するも産まれる気配はなく、ひとまず病室へ帰んな！とのお達しを受けてすごすごと部屋へ戻る。

痛みで寝れねぇ

病院で出される朝食もそこそこに陣痛と一晩戦い続ける。私の場合、腰の骨が軋んでジンジン痛むような陣痛のため寝転がっているのが逆にしんどい。仕方なく四つん這いになってケツを高くあげる姿勢でやり過ごすも、産褥着はそんな特殊なポーズの人用にできていない。一晩立て膝で過ごして、膝小僧が真っ赤になっていた。あと陣痛の合間5分間とかに意識を失うように寝るので、必然的に四つん這いでケツ上げたまま顔を枕に埋めて寝るスタイルが完成した。出産・子育ては十人十色とは言うが、いきみ逃しもまた十人十色なのだ。

陣痛開始から24時間、もうなんでもいいから産ませてくれ！

朝、昼を陣痛と付き合いながらぼんやりと過ごして、助産師さんの提案でシャワーを浴びることに。最初「もう…シャワーとかええんでホンマ…」くらいのテンションだったが、やっぱり清潔にするというのは心を入れ替える作用がある。若干だが前向きさを取り戻した。
しかしながら進まない陣痛、5分間隔から一向に短くならないくせに痛さだけは一丁前に強くなってきて非常にムカついていた。
夜8時頃、陣痛が4分間隔になったのでやった！との思いでナースコール。助産師さんの触診にて「子宮口、まだ3cmです。まだまだかかりますね〜」。撃沈。ねぇ、まだまだっていつなの…？明日？明後日？その間ずっと陣痛あるの…？もう腰が爆散しそうだが？この時、すでに「もう帝王切開でもなんでもいい！金ならいくらでも払うからなんとかしてくれ！！」とブラックジャックに出てくる患者みたいなことばかり考えていた。
あまりにも私が泣き言を言うもんだから助産師さんが「陣痛2分間隔になったらナースコールね」と、実質「2分間隔になるまでナースコール禁止令」を言い渡されさらに絶望。なんだよぉ、俺はそばにいて腰さすってくれるだけでいいんだヨォ…心はさながら新世界で昼からワンカップ酒あおる公園のおじさんである。

呼吸方法を見つける

夜10時頃、完全に自暴自棄となった私は「ふんだ、もういいもんね。今日は何がなんでも寝てやるよぉ！」と完全に出産を諦め、なんとか寝る方向性にシフトチェンジ。グーグル先生に「痛み　コントロール　睡眠」等ドストレートなキーワードでお伺いし、結局「痛みは感情でコントロールできます！」みたいな記事をササッと読んで諦めた。
4〜5分間隔で来る陣痛の合間に寝るコツはもはや「気絶」だ。試行錯誤の末、上手な気絶の方法を編み出したのでここに記しておきたい。なお、実践の程はご自身の判断でお願いします。

①アホほど酸素を取り込んで吐き出す

いきみ逃しの基本は「息を大きく吐くこと」だ。これを「フゥーッ♡」とか可愛らしい感じではなく、ロングブレスダイエットの美木良介よろしく全身全霊でやるのが良い。息を吸う時も同じで、本当に目をカッと見開いてアホみたいな顔でド真剣にやるのがコツだ。人間、呼吸にこれほど真剣になることはあまりないので10回もやるとなかなかの疲労感が溜まる。

②10呼吸のうち、1回は全力でうんこするつもりで

助産師さんからは「お尻に力入れちゃダメ」と指摘されていたが、もうそんなもんはこの段階までくるとお構いなしである。10呼吸のうち1呼吸分はケツに思いっきり力を入れて自分のいきみたい欲を解放してやるのだ。そうするとええ具合に身体が緊張して、その後の急激な弛緩で全身がめちゃくちゃ脱力する。四つん這いの時は枕を胸元で抱いて、枕に突っ伏すスタイルだと寝落ちしやすい。
幸い、私はこのスタイルで数時間分の睡眠時間を確保できたし、結果的に子宮口も6cmまで開いたので試行錯誤って大事だな〜と思った。

ようやく陣痛が2分間隔に！

明け方5時頃、意識朦朧としながら陣痛カウントアプリを入力していると、やや陣痛時間が短くなっていることに気づく。あと2回測ったら念願のナースコールだ…！と思った矢先、助産師さんが触診に現れる。子宮口確認の後、「6cm…そろそろ陣痛室でモニター検査に移ろうか」。勝った。私はこの時を待ちわびていたのだ…！
陣痛室でもロングブレスダイエット呼吸の効果は遺憾なく発揮され、もはや私はこの陣痛室で誰よりもいきみ逃しの術をマスターしているとさえ思えた。
「うん、この調子ならいけそうやね。前の人の出産が終わり次第、分娩室に移動しましょう」。私は完全勝利を確信した。ここまで来ればあとは産み出すだけなのだ。ゴールは目の前、そう思っていた。いつも私は詰めが甘いのだ。

「いきむ」って…何？

分娩台に座り、いよいよ出産を迎える。ああ、ここまで長かった…しんどかったつわりや陣痛も走馬灯のように私を照らしているとさえ思った。
いろいろ準備をして、早速助産師さんから一言。「いきめそうならいきんでOKですよ〜」。い、いきむ…？イキム…ikimu…？その時の私はいきみ逃しをマスターすることに専念するあまり、逆にいきみの概念を失ってしまっていた。困り果てている私を見て「うんちするときみたいな感じです」と3歳児にもわかるナイスアドバイスをくださった助産師さん、あなた完全に私の扱い方わかってらっしゃる。
早速呼吸を整えて、いざ！「う〜ん！！」「声出したらダメです」そ、そんなぁ。私は生粋のうんちの時は声出し派なのに…。仕方がないので無音で再チャレンジ。
「ん！上手上手！いいですよ〜」の褒め言葉に調子づく。私は元来、こういった人生の特殊な場面でしか使わないものが意外と上手いのだ。昔、自動車教習所の人命救助訓練で人口呼吸が異常に上手くて褒められたことを思い出していた。
いきみ3回+休憩のセットを繰り返していたら、身体がほどよくスッキリしてくるのが分かった。この感覚…どこかで…あっ、サウナで整ったとき…繰り返しいきむ作業の合間でぼんやりと「出産はサウナだった…？」と訳の分からないことを考えつつ、しばらく踏ん張って休んでを繰り返す。助産師さんがハサミのようなもので何かを切り、温かい液体がお尻周りに流れ出す。今私のお股どうなってるの？なんか言ってくれ、何したかだけ教えてくれよぉ…

「鼻の穴からスイカ」とは言うけれど

もう分娩室に入ってからはひたすらいきむのみだったので、後は助産師さんと先生が言う通りにするだけだった。自分のお股は見えないので、いきんだ時に「あ、今ちょっとうんち出ちゃったかも///」的な感覚があったものの、本当にちょっとで済んでいたかは定かではない。
あと、「出産は鼻の穴からスイカ出すようなもん」とはよく言ったものだが、あえて言い換えるとするならば私はこれを推したい。

「丸呑みしたヤシの実をうんことして出す」

もうこれに尽きると思った。
それくらいケツ周りに硬い何かがあるのを感じるし、「いやこんなもん絶対出ねーよw」というレベルのものを股の皮をこれでもかと引っ張り伸ばし、引きずりだすのが助産師さんの成せる業なのだなぁと思った。

正直、子の頭が出た感覚はわからなかった。ので、変わらずいきみ続けようとして全力で止められた。え！出てたの？いつ？？くらいの感じ。脚の間からチラッと見えた赤ちゃんの姿。
ウ、ウワーッ！ワイの子やぁ！アドレナリン大放出で今までの痛みをマジで忘れた。
あれ、鳴いてない…？と一瞬不安がよぎったその1秒後に元気な声が聞こえた。
い、生きてる…しゅごぉい…
隣に置いてもらってマジマジとその姿を見る。かわいい…毛深い…肩まで毛が生えとる…こんな時までどうでもいいことを考えていた。

ふにゃふにゃになったお腹

赤ちゃんをキレイにしてもらっている間、私は産後の処置へ。胎盤をずるりと引きずり出してもらい(欲を言えば見たかった)、会陰の縫合手術へ。最後のいきみの前に「もう出てきてほしいから切っちゃおう」ということになってたらしい。
麻酔は効いていても、自分の皮膚を糸が通る感覚は何となく分かるので変な感じ。痛くないのに思わず「イテテ」と声が出る。
出産完了後、分娩台から降ろしてもらえるまで1時間近くかかった。その間、脚はずっとM字開脚なので最後の方には太ももが震えていた。
10カ月間ずっとわが子が居座っていたお腹は、昨日までの見る影もなくしおしおのぺしょぺしょになっていた。

結論:出産は超ハードスポーツ

出産を経験してみて一番強く思ったのは、出産はめちゃくちゃハードな多種目スポーツばりにキッツイということ。基礎体力がないと余裕で詰みまくる。なので妊婦にはやれたくさん歩けだのスクワットしろだの口酸っぱく言われるのだ。今となってはその言いつけを守って体力をつけておいて本当に良かったと思っているし、なんならもっと筋トレしておくべき箇所が山ほどあったように思う。アスリートばりに調整しておいて損はない。
運動嫌いの私が言うのだからよっぽどです。

おまけ:すごい勢いのウォシュレット

私のお尻は頑張りすぎて脱肛寸前になっていたそうな。産後、トイレでウォシュレットを起動するとたいそう威勢の良いウォシュレットで(外出先あるある)、しかもリモコンが電池切れで止まらない事態に遭遇。「おいっ！勢い！ちょ、イテテ止まれ止まれ止めてお願いコレどうしよ止めて…」
結局便座のプラグごと引っこ抜いた。
こういうことがままある人生だったが、出産は普通でよかった。