【後編】医者と弁護士と婚活してみた
■めちゃめちゃ忙しない研修医
そんなこんなでマッチングしたのは、研修医だった。
年齢的には、一浪でで医学部に合格した感じだったと思う。年収もそれなり。身長は低かったとおもう。
彼とは直接あっていないため、詳しくは忘れた。
マッチングして早々、『忙しいので、早速明日、30分だけ電話できますか』といわれたのである。
これが採用面接だったらめちゃめちゃブラックな匂いがプンプンするので即時辞退だが、相手は研修医なのでまぁ忙しいのだろう。
それにしても、メッセージの端々から『選び取る側』という高圧的な雰囲気を感じる男だった。しかし、
こちらも『医者』という肩書でしか相手をみていないのでオッケーだ。
互いに相手に敬意がない状態で、我々のやりとりはスタートした。
■許せない
翌日、彼はなんと彼は車の中から電話をかけてきた。
はすがにハンズフリーだとおもうが、個人的に運転中の長電話は相当NGである。
大切な電話ならまだしも、こんなクソどうでもいい婚活のために気もそぞろで運転されるとまじで困る。
『運転中ならいいです』
というと、しかし彼は『すぐ家だから』といった。
教習所の教官につたえてやりたい。
こいつたぶんビーサンで運転するタイプですよ!
しかしまぁ、たしかに彼は家にすぐについた。
■落ち着け
車を降りた彼は凄まじく激しい音で家にはいり、水道を流して手を洗い、
『ケロボボゴボォ』と詰まった水道管みたいな音を立ててうがいをした。
『どうせふられたからめちゃめちゃ悪く書いてるだろ』といま思った人。
ちがうのである。
私のそのときの脳を共有できればいいのに、というくらい、彼は一挙手一投足が激しい人だった。
信じてほしい
■どんなしごとしてるの?
彼は電話中、とまらなかった。
ガチャンがちゃんと音をたて、何かしらの作業をしているのがまるわかりである。
興味ないことが丸わかりのトーンで、私に『どんな仕事してるの?』ときいてくる。
わたしが『こんなかんじの仕事です』とさわりを話したところ、
『へー、ラクそう』
といった。
そして、ここからは彼のターンだった。
自分がいかに忙しく、そして時間を有効に使うためにすこしの時間を惜しんでいるか、この電話もわざわざ時間をつかってしてきているということを軽やかに語った。
わたしはまじで途中からどうでもよくなり、ネイルを塗りなおすなどして時間を潰した。
なんというか、めちゃめちゃ上からこられると、こっちもムキになってしまう。
いくら社会的に地位があるといえ、人の仕事にどうこういうのはいかがかとおもう。
私だって毎日がんばって会社に行き、再雇用おじさんと観葉植物の隅でラインポコパンの話しをしてるわけである。
人の命は救えないし、会社にとっても『何やってんだお前は』というかんじだが、懸命にはたらいている。
私は爪をぬりぬりしながら、かれの話しを聞き流し、
『へぇー』
『わー』
『ほぉ〜』
『すご〜』
と、そういうオモチャのように繰り返した。
NHKのEテレに『よいこのかんそう』という番組があったらこんな感じだとおもう。
そしてきっかり30分後、彼は
『じゃぁ、もし明日も電話したいなら、時間作るけど、どうする?』
と言った。
どうもしない。
わたしの爪はもうピカピカだし、明日も塗り直す必要なんてないからだ。
『明日は忙しいから無理です』
と言うと、彼は初めて『へ、へぇ』と感情を乱した。
『いつならいいの?』
『いや、私も忙しいんです』
これはおそらく予測だが、彼の周りには、患者や同僚以外は彼の予定に合わせて動いてくれるひとばかりなのだろう。
でも、すべての人が医者と結婚したいわけでもない。
履き違えないでほしい。
マッチングアプリで自分から探しておいてわたしは何をいっているんだ?
まぁ、とにかく
こちらも仕事をしているし、相手に乞うてまで電話をするほど暇ではない。
いそがしいのだ。
おなじだね。
『まぁ、じゃあ、話したくなったタイミングでメッセージくれればいいから』と彼はいって、私は了解して電話を切った。
もちろん、連絡などしていない。
向こうからしたら、ワンチャン『フン、おもしれー女』ってなってるかもな、と思いつつ、私はやはり大切にしてくれる男性しか無理だな、と、新たな条件をみつけたのであった。
■弁護士
つぎに、弁護士とのやり取りである。
お察しの通り、この人ともべつに付き合っていない。
彼は33歳とかそれくらいで、きいてみると企業内弁護士をしているということだった。
企業内弁護士とは、(おそらく)企業に籍をおく弁護士で、法科大学院ができてから弁護士の人数が爆裂に増えて増加傾向にある(多分)ときいたことがある。(おそらく)
『めちゃめちゃ苦労しました』
と、彼はいった。
学部で勉強して、法科大学院にもいってめちゃめちゃ勉強して、さらにそこからまためちゃめちゃ勉強したらしい。
弁護士になってからまだ日も浅いというような話だった。
『どうしても弁護士になりたくて』
めちゃめちゃ控えめで、穏和そうな、すこしふっくらとした体型であることが写真からうかがえた。
弁護士になりたくてめちゃめちゃ勉強するひとは、勝手なイメージすごく正義感があって情に厚い、熱と勢いのあるひとか、めちゃめちゃ言葉でバサバサと切っていく冷酷エリートなイメージだったので、その温和さに驚くと同時に、『企業内弁護士だと弁護士事務所の弁護士とはまた雰囲気が違うのだろうか?』みたいなことを思った。
彼は日常を、たんたんとメッセージで送ってきた。
もう内容をまるで覚えていないので、まじで『おはよう』『いい天気だね』『おやすみ』みたいな内容だったんだとおもう。
これが、2週間つづいた。
『せっかくなんでもっとお話とかしないですか?』
と私がメッセージでつたえたら、
『そうですね、そのうち、すこし落ち着いてから!』
と返事がきた。
そしてそこからまた、天気の話が2週間つづいた。
わたしは彼のメッセージをそっと返さなくなった。
わたしは彼に興味をいだけなかったし、天気の話しかしないのは、もう向こうも興味がないということなのだとおもう。
双方、脈なし。
弁護士なんてまじで忙しいんだろうし、守秘義務とかあって仕事の話はできないんだろうし、一ヶ月毎日メッセージしてくるのは誠実ですごいが、
店頭のペッパーくんのほうがよほど感情豊かに接してくれる。
わたしは『さよなら…』と心のなかで告げて、彼への返信をとめた。
彼からも、返事はこなかった。
■マッチングアプリをするってことは
これだけ好条件な男性がマッチングアプリをするということは、それだけ個性的な要素が多いということだろう。
無論、めちゃめちゃすてきな医者や弁護士もマッチングアプリにはいるはずで、全員が嘘つきだったり個性的なわけではないだろう。
つまりそういう人と繋がれない私がわるいし、でも正直、ワタシとマッチングするような向こうもわるい。
まぁ、今回は双方悪いということで。
イーブン。
おわり