ディスクレビュー「カフェ・ルーゾの アマリア・ロドリゲス」
世界には途方もない数の音楽ジャンルがある。
私も音楽好きを自称しているが、知らないジャンルの聴いたことがない曲の方が圧倒的に多いと断言出来る。
私がこれまでの人生で出会った音楽の中には、ブラジルのサンバ。ジャマイカのレゲエ。トリニダード・トバゴのカリプソなど、自分の人生に於いて、深い感動を与えてくれた存在も数多くあった。
そして、今回レビューに選んだ「カフェ・ルーゾのアマリア・ロドリゲス」にて演奏されている”ファド”も、私に大きな感動を与えてくれた存在である。
ファドは19世紀から続くポルトガルの伝統音楽である。やや哀愁を帯びたサウンドのギターラ(ポルトガルの弦楽器)に情念のこもった女性ヴォーカルが乗ることにより(正確には女性だけではないが)紡がれる音楽だ。
そして、本盤で歌唱しているアマリア・ロドリゲスは、そのファドの歌い手として、ポルトガルに於いては、国民的歌手として人々に認知されている。
以上の前提知識だけをここに書き記して、レビューの本文に入る。
さて、一聴してまず驚いたのがライブ録音とはいえ、アマリアと観客の距離が非常に近い。演奏がスタートする前や、次曲へ移るインターバル時の話し声や咳、曲終わりの拍手など、観客の反応が自然なのだ。
独特のノリやお約束もなく、リアルな観客の反応を確認出来る事も、このアルバムの魅力の一つである。
しかし、アマリアが歌い始めると、観客は一気に彼女の世界に引き込まれ、静まり返る。そして、徐々にその歌声に陶酔していくのだ。
先ほど、私はファドの歌を表現する際に情念という言葉を使った。
彼女の歌声はそれを見事に体現しているように思える。
ポルトガル語に明るくないので、彼女が何について歌っているかはわからないのだが、高いキーを美しく歌いこなしながら、その中に繊細な感情表現を織り込むその技術の高さには、歌詞の内容はわからずとも、思わず胸に熱いものがこみ上げてくる。喜怒哀楽を自身の歌声のみで、しなやか、伸びやか、そしてイキイキと表現する様は、音楽が有機体生命であるかのような錯覚すら覚える。
また、情熱と哀愁が同居した、独特の歌いまわしは、演歌のコブシにも通ずるものがあり、実は日本人にも受け入れやすいのではないだろうか。
特に下記にYouTubeのリンクを貼った2曲に於ける、彼女の歌声のエネルギーは圧巻の一言である。個人的には、この2曲を聴いたことにより、ファドの魅力にハマった。
日本の美空ひばりさんや、東アジア圏でのテレサ・テンのように、時代や国家を代表する魅力と実力を備え、彼女の没後も、多大な尊敬をポルトガル国民及び、世界の音楽ファンの間で集めていることに納得であり、間違いなく南欧を代表する最高のシンガーであると認識した次第である。
ファド入門の一枚かつ、アマリア・ロドリゲスという歌手の魅力を知る作品として、今作はこれ以上ない最高の作品だ。
ジョルノ・ジャズ・卓也
友人でありライターの草野虹氏と「虹卓放談」というPodcastをやっています。よろしければこちらも視聴していただければ幸いです。