あの春の先に(「楽しくなければ仕事じゃない」)|本と巡る季節
小さな頃から、好きな出版社があった。
ディスカヴァー・トゥエンティワン。
初めて手にしたのは、CDサイズで、1ページに一言、視点を変えるようなメッセージや、読者から集めたテーマに沿ったとっておきの言葉が載っている本。
人見知りで、とにかく自分に自信がなかった思春期の頃、自分の背中を「えいっ!」と押したい時いつもページを開いた。
遠い昔の記憶だけれど、海外でのホームステイに挑戦した時も、大好きだった人に告白した時も、その決断をする前には、ディスカヴァーの本たちを読んでいた。
時は流れ、大学三年生の頃。
将来のことを考え始めた頃、「本当に行きたい会社があれば、絶対受けてみたほうがいいよ!後悔しないでね」という先輩の一言で、ディスカヴァーの名前がふっと頭に浮かんだ。
出版社への就職など考えたことがなかったのに、そこからは必死に取り組んだ。
当時流行っていたmixiから内定者の方を見つけてアプローチし、OB訪問もさせてもらった。
「すぐやる、なりきる、とことん楽しんでやる」という行動指針も素敵だと思ったし、それを体現している社員の方々を見て、さらに仲間に加わりたくなった。
奇跡的に、最終面接まで残った。
最終面接の朝。鏡の前で笑顔の練習をして、何を伝えたいか考えて乗り込んだ。
だけれど、あっさり落ちてしまった。
今考えれば、無理もないと思う。「会社が好き!仲間に加わりたい!」という気持ちだけを全力でぶつけても、入社できるわけがない。
面接の結果を待たず、ベッドの中で泣いた。
まるで大失恋をした後のようだった。いや、それよりも泣いていたかもしれない。泣き疲れて迎えた朝の光が冷たく刺さった。
その春以来、私はディスカヴァーの本を読まなくなったのか?
答えはNO。
第一希望の会社に落ちた後にも、人生は続く。
就職して、結婚して、転職して、アメリカに行って帰国して…その間にぶつかった壁を何とか乗り越えてこられた理由の一つは、思春期の頃手にしたあのCDサイズの本だった。
だから、最近、ディスカヴァー社の千場社長の著書が発売されたことを知り、次の瞬間にはkindleでダウンロードしていた。
前置きがとっても長くなったけれど、この本、金言のオンパレードだ。
求められていることより、一歩踏み込む。それがコツだ。そうやって、与えられた仕事、やることになった仕事を、一つひとつ少しだけ深くやって、自分のものにしていく。それが、深くて、広い勉強だ。
ケチケチしないで、今あるものを全部出し切っちゃうこと。すると、自然に新しい知恵、技術、情報が、入ってくる。
会議でも雑談でも、あるいはひとりでネット記事などを読んでいるときも、「自分はこう思う 」と意見を言ってみる。必ず言うと決めて実行する。呼吸の原則と同じで、とりあえずアウトプットすれば、自分の中で、意見、アイデア、判断の基準 、ビジョン、ミッションが育っていく。
こうすれば理想的だろうな、でも、そこまでする必要ないか、時間もないし。ここまでやれば完璧だろうな、喜ぶだろうな、でも、そんなのテレビドラマの中だけだよな。……そんなふうに、ふと思うことがあるはずだ。それをやる。普通はそこまで踏み込まない最後の一歩。そこを踏み込む。それを実際にやる。そして (ここが大事な点だが )、やり続ける。それだけのことだ。
もし、あなたが誰かの上司で、部下を伸ばしたいと思うなら、その仕事、自分たちの仕事の意義を語り合うことだ。やっていることに、意味を与えることだ。もし、あなたの周りの人が、あなたの仕事について何も言ってくれないとしたら、自分で意味づけることだ 。
たまたま自分に割り当てられた預かりものの才能、それはまだ、ほとんど外に表れていないかもしれないけれど、それを育て、磨く義務が私たちにはある。自分だけのためではなく、誰かのために。社会のために。
もう、この言葉たちを改めて読んだだけで、「明日は何をしよう?どうしたらもっとうまくできるだろう?楽しくなるだろう?」と視点が前を向く。
こんなに一つの出版社に思い入れがあるなんて、傍から見てちょっと気持ち悪いかもしれないけれど、憧れの人や場所はやっぱり大きな原動力になる。
あの春、ひねくれなくて本当に良かった。
そして明日も、ディスカヴァー社の行動指針をこっそり実行に移す自分でありたいと思うのだ。