小説の中の色 #6 にんじん色/「命売ります」①
「命売ります」は三島由紀夫作品の中では異色と言えるエンタメ作品で、色の捉え方もなかなかユニークです。この作品で思わずメモした2つの色の表現のうち、今回はにんじんの色について取り上げます。
だいだい色は田舎臭い?
色にはそれぞれポジティブなイメージとネガティブなイメージがあります。「田舎くさい」というのは、もちろん後者ですね。本文では大きらいなにんじんの色をネガティブ・イメージで修飾しながら、「黄いろっぽい赤」と表現しています。
「黄いろっぽい赤」は、言い換えれば「だいだい色(橙色)」ですね。だいだい色は、情熱的で活動力あふれる赤と、天真爛漫で無邪気さを感じさせる黄色の中間の色で、赤と黄色を混ぜ合わせたような明るさと暖かみを持ち、陽気で親しみやすい印象を与える色です。また、野菜や果物の豊かな実りの色であり、朝陽・夕陽の色でもあることから、自然の生命力も感じます。
純粋な赤には華やかな力強さがあり、それ故少々近寄りがたさを感じますが、黄色が加わってだいだい色になるとぐっと身近になり、同時に自然のイメージも感じる。そんなだいだい色を美意識の高い三島氏は、都会的で洗練されたイメージと対極にある色として「田舎くさい」と言っているのだと思います。
現在では、鮮やかなだいだい色は「エルメス・オレンジ」などと呼ばれ、エルメスというブランドイメージを重ねて高級感のある色として扱われることがあります。これを知ったら、三島氏は何とおっしゃるのか…。