しゃてきーやデザイナーズノート:回り回って戻ってきた話。
ゲームマーケット2024春に出す(出した)ゴム銃アクションゲーム「しゃてきーや」の開発後記、デザイナーズノートです。
ゲーム自体は、射的ベースの簡単なゲームになっていますが、その過程は割とかかってます。その周り道の過程を書いておきます。
今後、アクションゲームを作ろうと思ったときの参考にしてもらえれば。
ゲームデザイン:田邉顕一(COLON ARC)
ゴム銃製作:3ring舎
イラスト・デザイン:かわさきみな(minaccio)
1.出会い
しゃてきーやを作るきっかけとなったのは、大阪市内で行われているフリーマーケットでした。フリーマーケットというか、定期市というか。
たまにそういうのに出かけるんですが、そこで3ring舎さまと出会ったのが始まりです。
イベントは屋外のフリマで、3ring舎さまのブースでは、針金製のゴム銃や、針金アートを販売されていました。
ブースを通りがかった瞬間、「おぉ、こういうものを作ってアートとして売る方が大阪にいるのか」という感じで興味を持ちました。
補足ですが、私自身、イラスト関連のギャラリーさんに月に1回、合計3-4カ所ぐらいを回ったりもするぐらい、一般の方に比べると、イラストやアート(立体物を含める)を見る機会が多いのですが、実際に触って遊べるタイプのアートはなかなか見たことがありません。
また、これは製造関連の話になるのですが、ゲームとしての原価に抑えられているもの、というのはほぼありませんでした。
立ち話ではありますが、その辺の話をして、結果「ボドゲとして作ることはできそう」という感じになって、「ルールを思いついたらまたお声がけします」ということで、その場は終わりました。3ring舎さまが割と乗り気だったのが助かりました。
余談ですが、私主催のボドゲフリマをご存じだった、というのは小さくない話だったかもしれません。
2.ルール開発
さて、そんな訳で、ゴム銃をコンポーネントとしたゲーム作りの始まりです。
「じゃ、射的で決まりだね!」
いや、そんなことはないよね。そんなことも思ってないよね?
でも「ゴム銃で射的とは安直な」としゃてきーやについて考えている人はいそうよね。うん。(勝手
実際は割と時間がかかってます。(ここを今回書きたいのです)
さて、ここで私の開発手順に沿った話になります。
で、最初の手順が「コア」とは? となります。
これはアクションゲームに限ったわけではなく、すべてのゲームを思いついて、開発に映った段階で、最初にコアの評価になります。
それはシステムのコアだったり、テーマのコアだったり、コンポーネントのコアだったり。別々のものですが、基本的には「コア」という名前に違いはありません。
コアということで、企画部分の心臓部分を指すんですが、「企画?」って方にはちょっと分かりにくい話になりそうです。ので、そういう方は「ゲーム開発 企画」とかでちょっと調べてもらえると助かります。
この辺、簡単な記事、そのうち書きます。
さて、企画の意味が分かったとして、まずはコアの評価です。
このコアは結局どういうものでしょうか。
これが割と難航しました。
大きな問題点として、私自身がアクションゲームをほぼ作ったことがないことです。
もちろん、遊ぶことはたくさんあるし、うちのゲーム棚にも数多く並んでいます。HABAのアクションゲームなんて、そのほとんどが面白いですよね。
ただ、「アクションゲームたらしめていること」とは何なのか。そこから理解する必要があったので、いつもの3倍以上は時間がかかった気がします。
さて実際は、コアを知るためにはコアを触ろう、ということで、ゴム銃をいろんな使い方をしつつ、その特性をメモしていきます。
こういった部分を積み重ねて、「こいつはいったい何なのか」を考えます。
その延長線上として、「自分に用意できる未来、このコアがなりたいと思える未来は何か」を考えます。
難しいことを書いていますが、結局は「企画」を考えています。
3.試行錯誤
詳しくは書かんのかい、と言われていると思いますが、書いているとその理由から書かないと読んでる人が分からないのでめちゃめちゃな量になるのと、それに合わせてNoteを書く時間がめちゃめちゃ増えるのと、うちの開発内部資料大公開、みたいな話になるので書けないのです。
で、結論としては、「ゴム銃」はゲームの中心に置かないといけない。
要素としては、「ゴム銃」と「標的」に分かれる、ということです。
この時点で、競争のゲームでもありえたし、協力ゲームでもあり得ます。
次に、似たもので「面白い」と思うものを思い浮かべます。簡単です。
そう、FPS、TPSのデジタルゲームです。ApexやらValorant、CoDですね。モンハンやEDFはちょっと違うかなーって感じではあります。結局EDF要素は必要だったんですが(後述
何それ?って方は、今すぐSteamをインストールして、名前を検索して遊んでみてください。ApexやValorantは無料なので、すぐにできます。
人間視点シューティングゲーム、って言えばいいかなl。そういうのです。
もちろん、こういった完成されたゲーム、は様々な要素や考え、企画が合わさってできており、そこからシューティング部分を取り出し、何が面白いのかを考えていきます。
普段、なんとなく遊んでいるゲーム。それは作り手が様々な面白さを積み上げたものになっていて、理解するには1つ1つ分解して理解していく必要がある、と思っています。
逆に理解できたら、自分でも作れる可能性があるじゃないですか。そんな感じです。
4.具体例
標的は動いたものにした方がいいんじゃないか。
1つ1つラウンドやターンを超えると、標的の場所を変えて(遠ざけていくなど)もいいのではないか。
むしろ、お手玉のようにプレイヤー間で放り投げているものに当てることもいいのでは。
協力ゲームのようにして、弾を集めて撃つゲームでも面白そう。
などなど、様々なアイデアをメモしては試したり、図でまとめたりして行きます。
2チーム対戦で、標的を守りつつ、相手陣地まで入っていく、などもあったかと思います。
5.結局
さっき書いたようなものは、すべてボツになりました。ボツの量だけで言えば、上の倍ぐらい(もっと?)あるかもしれません。大量のメモ、案があります。メモを見る限り、案は2桁ありますね。いやぁ、遠回りしたよねぇ。
大きな理由がいくつかあります。
1)めんどうくさい
こういった射的のようなゲームは、何が嫌かというと、「セッティング」です。
標的を立てること、場所を作ることが非常にめんどくさいし、誰もしたがらない。
テストプレイで見落としがちになる部分かもしれませんが、デザイナーが場を整えて、プレイヤーには簡単なアクションのみをさせる、ということをすると、その場は面白いけれど、結局セッティングは誰がするのか。という問題が残ります。
この射的というゲームに置いて、「一瞬で壊されるものを作る」のが非常にめんどくさいのです。
そのため、標的を作るために何らかの理由が必要になります。
2)標的がめんどくさい
さっきと違う意味で面倒なのです。
例えば、標的を黒と白に分けたとしましょう。黒だけを狙って、白は当ててはならない。
所詮、日本の小さいパブリッシャーが作っているゲームです。そんな問題になることはありませんけれど(実際の話)、でも気にするべきとは私は思っているので、これはできませんでした。(後ろに「人」と付けると意味が変わってくるのがわかると思います。)
では大きい標的と小さい標的を用意しましょう。
それらの標的を動かして、それに当てましょう。
ちょっと気づいてもらえているか不安ではありますが、どうやっても「何かしらのオマージュ、想起」につながるのです。
いやー、めんどくさいですね。
人によっては「そんなこと気にする方が悪い」と捉える人もいることでしょう。
でも「気にする人もいる」訳です。これを無視するのが「気にする方が悪い」と一方的に押せるかどうか、で考え方は変わるかもしれません。
後、それを無視するぐらい面白いのか、という視点です。
結果だけでいうと、私はできませんでした。
そんなこともあって、「動かして」というアイデアや「色を変えて」というアイデアはすべて難しくなっていきます。
紐を使ってつるして、というアイデアもあったんですが、作ったギミックの手間に対して、結果が付いてきにくい、ということで、こういった複数を使ったギミックというのもボツにしたのが多いです。
こういったことがあって、結局「射的」にした方がもろもろ都合がよいことがわかりました。
この数か月はいったい何だったんだろう、とはなりますが、その実、アクションゲームとは何なのか、何が面白いのか、どこに魅力を詰め込まれているのか、そして、アクションゲームを繰り返す理由は何なのか、それらを考えるきっかけになったかと思います。
これにほかのゲームでも考えている、ゲームの面白さの概念を骨格として入れ込んでやると、作れそう、とはなりました。
そういう部分では大きな収穫だったと思います。
改めて、HABAの中の人、すごいなぁって思いましたし、インタビューで答えていた内容(大分前の話ですが)の意味が少しわかった気がします。
6.内容物の調整
そんな訳で、大まかな企画ができ、ざっくりルールに落とし込んで、定期でやってるテストプレイに持ち込んだ後に、ルールの詰めと同時に、内容物の選定を行いました。
まず、標的ですが、紙コップのほか、紙製のものや木のコマを含め10数種類は試したと思うのですが、その中で、結局「紙コップ」を選択しました。
販売したい金額から逆算した原価に収まり、その中でも取り扱い安いもの、などなど、条件に合致したものが「紙コップ」でした。
余談ですが、紙コップには複数の規定サイズがあり、その中で、箱の中に入れれるもの(逆に、箱が作れるサイズの限界とか)から逆算して、サイズを決定しています。
規定サイズはネットから拾えますしね。後は、その紙コップを探すだけです。
持ちやすさ、取り扱いのしやすさ、大人、子供視点、などなど。
基本的には、これとゴム銃で大体だろう、ということで、箱のサイズが決まって、見積もりとかイラスト・デザイン依頼とかをはじめ、同時にテストプレイで問題点を洗い出して、詰めていっていました。
余談ですが、この段階では1ラウンド目を3回行う、というものでした。もちろん、問題が出たから、今のように2ラウンドになり、2ラウンド目が大きく変わったんですけれども。
次に作り始めたのが「カード」です。
今回は、撃つ場所や標的の場所を決めるラインカード系、得点を示す得点カード系を入れることになりました。
得点も実は最初トラック形式のカードを用意する、という感じだったんだけど、「射的」は当てて何かもらえるから嬉しいんでしょ、っていう話(自己完結)してカードにしました。
ま、問題になってもいるんですが。
それは「コスト」です。
すでに公開はしていますが、このカード、最終物は「手作業で切る」ことになりました。
「種類が多くないこと」、テストプレイの結果、「めちゃめちゃ汚れやすく、傷つきやすいこと」、そして「カードの状態はあまり関係ないこと」がわかりました。
もちろん、ゲームを大事にしたい人にとって、乱暴に扱いたくないことは分かりますし、その通りとも思います。
内容物がしっかりしててほしい、ということで、カットが1mm以下でずれているカードは、ずれているのであれば受け付けられない人もいるでしょう。
ただ、それをすることによって、今回3000円だったものが4500円になって、同じ内容だったとして、そっちの方が「ほしくないだろう」という判断をしました。
もちろん、著しくカットがずれたものはすべて外しましたし、精度も1mm以下になるように調整はしました。
まー、これについては、製品として売っている立場からしても難しい部分でしたが、ゴム銃も手作りであること(でも精度は私の書いているカードの話よりも100倍はいい)、それに伴って生産数も少ないことを考えて、手動でのカットを採用しました。
もし、しゃてきーやが定番化して、1000個売れた、とかそういう話になってきたら変わるかもしれませんけど、そうなったら逆にゴム銃を1つ1つ手作りしている3ring舎さまが死んでしまうので(腱鞘炎とかで)、結局は無理だろうな、ともなりました。
せっかく作るんなら、新しいものも作りたいでしょうしね。双方(私も。
7.ルールの最終調整
テストプレイと試行、コスト計算をして、現在の内容物に収まりました。
その中で、意味を少し書いておきます。
・プレイヤーコマ
プレイヤーごとに渡される2枚の木製チップ。
1枚は1ラウンド目のみ使用する、「標的に隠すボーナスチップ」です。
これをすることにより、最初のセッティングが全員同時に行え、素早くゲームを開始できるようになりました。
・2ラウンド目の変更
2ラウンド目は大きな標的を作ることになりました。
「射的」ゲームは、結局のところ、ゴムを発射する機構、および標的の形で、いくつかのパターンを見せる必要があることが、分かったためです。
そのため、2ラウンド目はピラミッド型に積むこととなります。
この部分、大きさという点だけですが、EDFでも(多分)用いられている面白さの部分かなぁとか思ってはいます。
他の点もありますが、細かすぎるので省略です。
・得点
元々、得点形式自体はもうちょっとだけ複雑でした。
ただ、遊ぶプレイヤーのことを考え、小学生低学年でも自分で計算できる程度で押さえたつもりです。
パッと計算して分かるぐらいがいいですもんね。
8.隠し要素?
そんな訳で完成となったわけですが、遊ぶ前のちょっとしたTIPsみたいなのを書いておきます。
遊ぶ前のヒントみたいになっちゃうので、見たくない人はここで読むのをやめて、9へ飛んでもいいかもしれません。大したこっちゃないんですが。
1)ゴム銃
すべての始まりであり、コアとなっているゴム銃ですが、これが「木製」であったり、「プラスチック製」であれば、このゲームは成立しませんでした。
というのは、「射的」というのは、本来すごく簡単なゲームで、特に「標的が動かない」ならば、「ほぼどんな人でも命中率は100%」にすることができます。
テストプレイで200回以上射撃している私なんかが、しゃてきーやを遊ぶとすべて命中して面白くないのでは、と考える人もいるかもしれません。
それがね、当たらないんですよね。もちろん命中率は上がっていくんですけど、100%は無理だと思っています。
理由は、「針金故、曲がること」「本体自体も曲がること(手で直してね)」「トリガーを引くことによって、本体全体が曲がること」です。
つまりは、構えた段階と発射する段階では、ゴム銃の形状が異なります。
発射する段階を予想して、さらに弾道を予想して、標的に当てる必要があります。
思っているよりステップが多いんです。
2)物理演算(リアル)
紙コップである理由がここにあります。
紙コップは表面が曲面になっています。つまり、中央に当てればゴムの威力は紙コップに伝わるのですが、ずれたときに伝わらないことがあります。
もちろん、1ラウンド目は落ちやすいのですが、2ラウンド目だと、力が足りず、崩せない、なんかもあります。
さらに、土台となっている、つまり机に設置している紙コップを倒しても得点になるのですが、これが本当に「倒れません」。
これがなぜなのか、という検証に時間がかかりました。
結論だけ書きますが、「設置している場所の素材による」ためです。
摩擦もありますし、結局正面から当たった輪ゴムがうまく紙コップに伝わり、倒れるまで行くのか、そういったことを考えて当てる場所を狙わなくてはなりません。
余談ですが、うちのテーブルにはプレイマットが引いてあり、衝撃を逃がしやすくなっています。この状態で、設置している紙コップを倒すのはかなり難しくなっています。
とはいえ、できないわけじゃないんですが。
3)遠近と見下ろし、見上げ
人の目って面白いもので、正面に見たとき、見下ろした時、見上げた時で物の近い、遠いが、実際の距離とは異なって見えることがあります。
特に高低差が大きいとその影響は大きく、例えば、立った状態で床の紙コップを狙うのは割と難しくなっています。
さらに、ゲームを行うのが狭い部屋と広い会場では大分感じ方も異なります。
余談ですが、BGBE(大阪・インテックスにて開催)の空き時間でもテストプレイしていたのですが、これがまためっちゃ当てにくい。
回りの遠近と標的が違いすぎて、軽い混乱を起こします。いや、ほんとマジで。
これはこの時に発見されて、意外でした。こんなこともあるんだねーって感じで。
9.まとめ
そんなこんなで完成した「しゃてきーや」です。
イラストもわかりやすく描いて頂き、面白そうに見えるかなと思っています。
まー、射的自身への不信感? みたいなのもあって、好きな人は好きだし、そうでない人にとっては興味がない、って感じのゲームにはなったかなと思います。
とはいえ、現物を見て、触ってもらう方が絶対に面白いだろうなと思っているゲームでもありますので、見かけたら触ってください。
試遊はありませんが、試射はできますゆえ。(ブースの狭いところですけど)
よろしくお願いします。