僕とサヴィーニがはじめて顔を合わせたのは、実は2002年の春ではない。 そのおよそ1年前になんと日本で最初の握手を交わした瞬間があった。 その出会いを語るために、Mさんのことを書かなくてはならない。 彼女はヨーロッパなどで弦楽器を買い付けてくることを生業としていた、所謂弦楽器バイヤーの草分けのひとりで、僕をサヴィーニに紹介してくれた大恩人だ。僕とは親子ほど年齢は離れているけれど、全く歳の差を感じないエネルギッシュでバイタリティ溢れる人。Mさんの紹介がなかったら、偏屈なところ
2002年3月末。Mさんと共に古都ローマから北に延びる鉄道に20分ほど揺られて郊外の小さな駅で降りると、遠くから「シューラトー!!」と呼ぶ声。それが自分を呼ぶ声と気付くのに少し時間がかかった。「シュウタロウ」はイタリア人には少し覚えにくい名前ではある。 何度目かの「シューラトー!!」の後、そちらに目をやると、水色のシャツに紺のニットのベスト、グレーのスラックス姿にサングラスといういで立ちのイタリア人がこちらに手を振るのが見えた。恰幅がよく、背は170センチの僕より少し低い。サ