【B-review百物語】真清水るる「視る」
というわけで下記放送の跡語りになります。
真清水るるさん「視る」という作品をきょこちさんに読んでもらいました。
その時についてまとめておりますので、よかったら放送聞いてみてください。
作品のURLと百均のコメントは以下になります。
この作品の面白い所は、まず幽体離脱のシーンを一人の人間の視点だけではなく、おばあちゃんの視点からも描いている事です。言ってしまえば、語りて一人が幽体離脱して戻ったという体験談だけだとしたら、それは、そういう事もあるよねと真実味がない訳です。夢の中であった出来事として、自信はないけれども、他の人がその話を聞いてそう思ったのであれば、自分の体験は夢物語だったのだろうと思う事ができる。
しかし、この作品はおばあちゃんも一緒に同じタイミングで幽体離脱している事、語りてよりも、おばあちゃんの方がその状態を感じて死を感じていて、その体験をリアルに感じているように描かれています。そこがとても面白いんですね。
出来事の評価をするときに個々人のなかで下した判断というのはそれが絶対的な評価に繋がるのかというのは、より強い確信や論理的に説明出来る事であればできるとおもうんですけど、不思議な体験が本当に不思議だった。それが夢ではなかったって思う為には他者の評価がないとわからないですよね。その出来事を証明してくれる存在が。逆に言うと、他の人がいる事によってこのエピソードは語りての中に色濃く残ってしまって、その意味を考えざるをえなくなってしまった。ちょっとあった怖い話で片づける事ができなくなってしまっているんですね。そこが後半部分の分析に繋がっている所が非常に面白いと思いました。
また後半の分析の部分もとても面白いです。
>きっと、だれしも、ここに居る一体の自分と、それを客観視できる自分がいるのだ。人は一人なんかじゃあない。こんな体験を聞かされた人の中には、【霊】は居るといういう話を聞かされたと考える人もいるかもしれない。それは、賛成しない。
>私以外の人が、うっかり自分が二つに分かれてしまったとき、その人は「もう死んでしまったのか」と 慌てるに違いないからだ。それは、心臓に悪い。
>自分とは、ふたつに分かれて 鏡を使わずに自分を見ることが たまに、ある。そういうものだ。と、理解しておこう。
引用箇所が示す通り、この体験から幽体離脱をしてしまった自分を霊と感じてしまったおばあちゃんの感想に対してつっこみを入れると同時にその感想に対して安易に霊という既存の概念で片づけてしまう事に対して警鐘を鳴らしています。幽体離脱した事で安易に死的な概念と結びつけて考えてしまうとびっくりして、心臓に悪いーーつまり本当に死んでしまうかもしれないからです。ここら辺倒錯的に映ってしまいそうですが、そうではないというのがいいですね。
この作品は自分自信のあり方を精神と肉体の二元論的に簡単に片づけない事、単純にわかれただけであって、それは鏡を見る時の感想に近い感覚だから安心してほしいといっていますね。
鏡の向こう側の世界にとり残されたという学校の怪談が会った事を思い出します。それは怪談の踊り場においてある鏡の向こう側に自分が残されてしまうが、残った本体の方は何事もなく、生きていて、自分が鏡から遠ざかって行って、自分は鏡の中に取り込されたままになってしまうというお話だったと思います。
鏡を見る事によって自分は自分を見る事ができますが、それに対して恐怖を感じる事があるかもしれないんですが、その感覚を誇張したのが、幽体離脱から見えてくる私の感覚だったのではないか、という考察は面白いですね。先ほど提示した学校の怪談は、このはなしと合致する感覚があって面白いなと思うんですが、自分から離れた自分が、遠ざかって行ってしまう感覚を死と誤解してしまいガチだけれども、実はそうではないんだよという所で、幽体離脱の新しい見方があるなと思いました。
でもその感覚について明確な答えが出ていない所に正に恐怖があるなとおも思います。それは死の感覚ではない、じゃぁどういう感覚なんだろうというのは想像するしかないです。ないのですが、そうなってしまったらこうして作品を投稿される事はなかった訳です。切り離した本体は切り離した事を多分忘れてしまう。それはどこかで喪失感を伴って再起される事はあるかもしれないですが、糸の切れた凧が遠く海に落ちてもそれを拾いに行く人間は凧のことが死ぬほど大事ではない限り多分拾いに行きません。
一度手放した風船が遠くの空にいってしまって、そのもう戻ってこない喪失感に涙できるのは、それが目の前で失われていくからです。幽体離脱して残った本体は抜けていった本体を知覚することが出来ない限り、その喪失には気が付きません。
凧は斬り離れたら何を離した方に思うのか。それは離されないと分からない訳ですが、離された方の声は離れてしまった以上届く事ないという矛盾を抱えているので、多分語りてはその恐怖をこれからある意味死ぬまで抱えていくのだろうなと思います。よかったです。