自閉症スペクトラム
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これまで色んな記事を書いてきましたが自閉症スペクトラムについての記事を書いたことがなかったなぁと思いました。これだけ自閉症支援のことを言っているのに(笑)そこで今回は自閉症スペクトラムについて記事にしていきたいと思います。今回は6838文字でした。
1.見えない多様な自閉症
皆様は「自閉症」と聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか?こだわりが強い、融通が利かない、ずっと同じことをやっている、空気が読めない、一方的に話をする、言葉使いが独特である、など皆さんの中でのイメージがあると思います。近年は「発達障害」というキーワードで多くのメディアで取り上げられていますので、どこかで聞いたことや触れたことがあるかもしれません。今は番組で特集が組まれたり、記事で特集が組まれたりしています。
しかし、まだまだ自閉症についての理解はうまく伝わっていなかったり、一部の専門家や関係者のみの知識になっていたりしているようです。その一つに症状の広範さというものが考えられます。自閉症は、コミュニケーションの困難さ、社会性の欠如、そして限られた興味や繰り返しの行動など、様々な症状を伴います。これらの症状は人によって現れ方が異なり、重症度も様々です。例えばよくしゃべる方もいればほとんどお話しない方もいます。知的には遅れがない人もいれば、重度の知的障がいを持っている人もいます。環境によって状態像が変化する人もいるでしょう。また、それらの要因が目に見えないことから障害をうまく認識できずにいるかもしれません。正しく理解することはとても大切なことだと思います。
2.自閉症の歴史(古典的研究)
そんな自閉症の歴史を見てみると、1940年代に論文で発表された障害であるとご存じでしょうか?もちろんそれまでにもそういった状態像の方々であろう人のお話や文献などもたくさんあったし、知らないところで研究がされていることもあるかもしれません。ただ、今一般的に言われているのは1940年代です。その視点からこの記事を投稿している2024年現在で考えると、実はまだ100年も経っていないのが現状です。私はこの歴史を学んだ時に現状とつながったような気がしました。
自閉症の症例を初めて報告したのがレオ・カナーという人物で1943年に「Autistic disturbances of affective contact」で11の症例を報告しました。この中でカナーは、自閉症の特徴は統合失調症に似ているものの、多くの点で異なると主張していました。第一に、カナーが述べた子どもたちは、統合失調症の子どもたちのように時間の経過とともに徐々に行動が変化するのではなく、生まれたときからそのように行動していたとしています。第二に、自閉症の子どもたちは、高度な知能を持つ対象とやりとりすることができないと彼は言っています。第三に、カナーは、自閉症の子どもの行動は、同一性と孤独を維持したいという強い欲求によって支配されていると述べました。
翌年1944年にハンス・アスペルガーが「Die Autistischen Psychopathen im Kindesalter (小児期の自閉症精神病)」を出版しました。この中で「特に興味深く、非常に認識しやすいタイプの子供」について説明しています。カナーと同様に、アスペルガーは症例研究を発表しました。当時、この症候群は自閉症精神病と呼ばれ、アスペルガーは、この症候群の特徴として、共感の欠如、一方的な会話、友人関係を築くことの難しさなどを挙げました。
次に挙げられるのは自閉症の要因について言及したブルーノ・ベッテルハイムです。ベッテルハイムは最も有名な心因性発生論の擁護者でした。ベッテルハイムにとって、自閉症は「空虚な要塞」であり、これは彼が 1967 年にこのテーマについて書いた本のタイトル「The Empty Fortress: Infantile Autism and the Birth of the Self(うつろな砦:幼児自閉症と自己の誕生)」でもあります。ベッテルハイムは、自閉症の原因は、母親の冷淡な育児態度にあると主張しました。彼は、母親が感情表現を抑制し、子どもに対して冷たく当たることで、子どもが外界との接触を遮断し、自閉症になってしまうと考えたのです。この冷たく感情のない母親を、「冷蔵庫マザー」と呼びました。この理論は「冷蔵庫マザー」説と呼ばれ、1950年代から1960年代にかけて非常に影響力がありました。
3.自閉症の歴史(転換期)
そして1960年後半には自閉症研究は大きな転機を迎えました。その転機は1968年にマイケル・ラターが言語・認知障害説を提唱したことです。ラターはそれまでの母子関係の情緒的要因説を否定し、自閉症を器質的な障害であると考えました。自閉症は脳の機能的な問題が原因であるという新しい考え方です。ラターは、自閉症の人たちが言葉でうまくコミュニケーションを取れないのは、脳に何らかの問題があるために起こる障害だと考えました。さらに、その後の研究によって自閉症は生まれつきの病気である可能性が高いことが分かってきました。これらの研究によって、自閉症は単なる心の問題ではなく、先天性の脳の機能的な問題が大きく関わっていることが明らかになりました。
次にローナ・ウイングは1979年に「Severe Impairments of Social Interaction and Associated Abnormalities in Children: Epidemiology and Classification」という論文を発表しました。この論文で、ウィングは自閉症の特性を「社会的相互作用の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力の障害」の三つに分類しました。この三つ組は、主要な行動特性をさし、これによって自閉症の診断がより体系的かつ正確に行われるようになりました。さらに、ウィングの自閉症スペクトラムの概念は、これらの特性が連続的に存在し、個々の特性の強さや組み合わせによって異なる症状が現れることを示しています。これにより、より多様な自閉症の特性を理解し、適切な支援を提供することが可能になりました。
また、当時の自閉症の診断は、主に言語のコミュニケーションが限定されていることや人への関心が非常に乏しかったり、対人関係の困難さだったりを基準としていました。その中でウィングは、言葉のコミュニケーションは可能でありながら、社会性やコミュニケーションに困難を抱えたり、対人関心はあるが、コミュニケーションに質的な課題がある人たちの存在に気づきました。これらの特徴は、従来の自閉症の診断基準には当てはまりませんでした。これらの人たちがハンス・アスペルガー報告したケースに似ていることを発見し、1981年に「Asperger’s : a Clinical Account」という論文を発表し、ハンス・アスペルガーの研究成果を広く普及させました。この論文で、アスペルガー症候群という用語を初めて導入しました。
4.日本における自閉症を取り巻く状況
世界の流れはだんだん見えてきましたが日本ではどうだったのでしょうか?日本の自閉症研究は、1952年の鷲見たえ子による最初の症例報告を皮切りに、徐々にその歩みを始めました。1967年には文部省(現在の文部科学省)が「児童生徒の心身障害に関する調査」を実施し、自閉症を情緒障害に含めました。1979年には精神科医の久徳重盛は、自閉症の原因が母親の愛情不足にあるとする「母原病」といった説を提唱し、日本では心因論が中心となっていました。
一方で上記のように世界では1970年代以降、脳科学の発展に伴い、自閉症が中枢神経系の発達障害であることが明らかになり、海外の研究動向の影響を受け、日本の自閉症研究も1980年代以降少しずつではありますが進展します。
2000年代に入ると、発達障害に対する社会の関心が高まり、2004年には「発達障害者支援法」、2007年には「障害者自立支援法」が制定されるなど、法律や制度の整備が進みました。これらの法律により、自閉症を含む発達障害を持つ人々に対する支援体制が強化され、早期発見・早期療育の重要性も認識されるようになりました。近年では、2016年の「発達障害者支援法」の改正により、発達障害者の早期発見と支援がさらに強化され、より多くの人々が適切な支援を受けられるようになっています。
このように、日本の自閉症研究と支援は、長年の努力と社会全体の意識の変化によって大きく進歩してきました。しかし、まだ解決すべき課題も多く残されており、今後も研究の進展と社会全体の理解の深化が期待されています。
5.自閉症の診断基準
これまでの流れを知ることでまだまだ自閉症研究の歴史は短いことがわかるとともに、なぜ理解をしていくことが難しいのかひも解くためのきっかけになったと思います。最後に現在の自閉症の診断基準を載せておきますが、発達障害について調べていると、「DSM」や「ICD」という言葉を見かけることがあります。この2つ、一体何が違うのでしょうか?
DSMとICDの違いとして範囲を比べるとDSMは精神疾患だけ、ICDはすべての病気について書かれています。内容についてはICDの精神疾患の部分は、DSMと似たような内容になっています。ICDの精神疾患の内容は、近年はDSMと連動して作成されていますが、細かいところでは一致に至っていない部分もあります。それぞれの使い方を見てみると日本では、病院の診断書などにはICDが使われることが多いですが、研究などではDSMが使われることもあります。ではなぜ2つの診断基準があるのか?ですが世界中の国々が、病気について共通の言葉で話せるようにするためです。でも、それぞれの国で医療の状況や考え方などが違うため、完全に同じ基準にすることは難しいのです。どちらも正しい診断基準です。どちらを使うかは、状況によって変わってきます。大切なのは、これらの違いを理解し、それぞれの診断基準がどのように使われているのかを知ることです。
診断基準は、医師や専門家が一貫した方法で自閉症スペクトラム症(ASD)を診断するためのガイドラインです。これにより、異なる専門家が同じ基準に基づいて診断を行うことができ、診断の信頼性と一貫性が保たれます。そのため、臨床現場での実用性を重視しており、社会的コミュニケーションの障害や限定された興味と反復的な行動など、観察しやすい行動特性が診断基準として採用されていると言われています。
一方で脳の機能障害と言われているように自閉症の行動特性に大きく影響を与えているのは自閉症の認知面の特徴です。認知特性は、自閉症の理解を深めるために非常に重要な要素ですが、個人差が大きく、とても多様です。例えば、計画を立てたり、課題を遂行したりする実行機能の弱さから優先順位を立てることが難しく「社会性」や「コミュニケーション」が難しいのかもしれません。細部に注目しやすい特徴から全体をとらえることが難しく「限定的な行動」が強くなってしまうのかもしれません。この認知特性についてはまた改めて記事にしようと思います。
ここで言いたいのは自閉症の理解はとても大切であり、理解をした中で支援を検討していかないとご本人たちの本当のしんどさの解消と豊かな生活につながりにくいと思います。また、自閉症の背景を知ることで現在成人期である方々のご家族のご苦労やご本人の診断やサービスの変化の連携をしていくことにつながるかもしれません。何か参考になればと思います。本日も読んでいただいてありがとうございました。
collaborate lab
高橋 大地