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【実績】インクルーシブデザインによる博物館常設展リニューアル|徳島県立博物館(2020)

・実施期間:2020.08-2020.09
・クライアント名:徳島県、株式会社乃村工藝社
・パートナー:京都大学 総合博物館 准教授 塩瀬隆之氏
・実施分類:サービス・商品開発|インクルーシブデザインワークショップ

(※徳島県立博物館では2019年もワークショップを実施しています。本記事は2020年の活動をまとめたものです。2019年のとりくみはこちらから。)

日本で初めてインクルーシブデザインを用いて博物館常設展のリニューアルを行った徳島県立博物館。常設展リニューアルへ向けたワークショップの企画・運営を、2019年から2020年の2年間に渡って担当しました。「誰もが歓迎される博物館」を目指し、2年目である2020年は徳島在住の外国人をリードユーザーに招いて展示説明の多言語対応について模索し、リニューアルに反映していただきました。

What has changed

  • 日本で初めて、インクルーシブデザインによってリニューアルされた博物館が生まれた

  • 多言語対応の際には「言葉として正しく翻訳する」を超えて、文化的背景なども含めた「伝わる表現」の熟慮が必要だと職員が理解し、今後の翻訳依頼時に活用できる知見を得た

  • 各展示物で知っていただきたいポイントが明らかになり、それらが英語・中国語・韓国語でも「伝わる」ようなキャプション表現が検討された

STORY

 車椅子ユーザーや視覚障害者・聴覚障害者・外国語話者という多様なリードユーザーを招いて館内全体を巡り、常設展の展示リニューアルについて検討した2019年。その翌年である2020年度は、より詳細な部分のインクルーシブデザインとして、展示の説明(キャプション)における多言語対応について検討すべく、徳島県在住の外国語話者の方6名を招いてワークショップを実施しました。

※ 徳島県立博物館についてや連携の始まり、初年度の活動についてはこちらから

リードユーザーの選定

 2019年度のワークショップを経て、乃村工藝社のメンバーや博物館の学芸員である職員の皆さんの中に、「インクルーシブデザインとはこういう気づきがあるものなのか」という体感が宿っている状態で始まった2020年。普段伝えている内容が「こう伝えれば伝わるであろう」という思い込みの範囲の中での発想からスタートしていたことに気づき、より柔軟な姿勢で伝え方を考えようというモチベーションが醸成されている中でワークショップを始めることができました。これは、単年度で終わらない取り組みであるということと、徳島県立博物館の職員の皆さんが前のめりの姿勢で2019年度のワークショップに参加して下さっていたことで可能になった成果の一つでもあるといえます。

 2020年度は、展示物について説明書きをしているキャプションと呼ばれる部分を中心に、「伝えたいことが伝わる多言語対応」について検討したいというニーズがあったため、徳島県に在住の外国語話者の方をリードユーザーとして選定しました。アウトプットに用いる言語の想定としては英語・韓国語・中国語(繁体字・簡体字)を基本として設定し、リードユーザーの選定もそれに見合う方にお声がけをしています。徳島県在住者に絞っている点については、前回2019年度に実施したワークショップでの狙いと同じ理由からです。

ワークショップの内容

 今回のワークショップにおける大きな意義は、「翻訳の専門家に依頼して翻訳するだけでは伝わらない展示物の持つ意味合いをいかにして伝えられるか」という壁に挑戦することでした。学芸員である博物館職員の方々は展示物に対する専門的な知識を持っていますが、翻訳のプロフェッショナルではありません。同時に、多言語翻訳を行うプロフェッショナルである翻訳家の方は、博物館にある様々な展示物に対する知識の専門家ではないといえます。言葉を正確に翻訳するだけでは伝わらない文化的背景による理解の違いや、想像できる事物の違いといったバックグラウンドまでを含めて検討しなければ、「伝わるキャプション」は作れないのです。

 そこで、リードユーザーである外国語話者に前回同様乃村工藝社のみなさんや博物館職員を混ぜたグループを作成し、まずは「展示物について即興の英語で伝えてみる」「その後、何が伝わって何が伝わらなかったのかの確認をする」というワークを行ってもらいました。ここで探り探りのアウトプットをすることで、「これは伝わるんだ」「これはあまり理解されなかったな」といった体感を掴むと共に、「本来伝えたかった意味を伝えるにはこう表現できるかもしれない」「ここを伝える表現が難しかったがどうすればいいか」といったポイントを各チームで収集していくことができます。

 次に、工芸品等に関する英訳について一般社団法人 ザ・クリエイション・オブ・ジャパン発行のガイドライン「『工芸』英訳ガイドライン(2018年版)」をもとに、ジグソーメソッドを活用して読み込みを行いました。参考資料として国土交通省官公庁発行の「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン(平成26年)」も併用し、英訳を行う際に気をつけるべきポイントや特徴、そしてその表現の可能性について理解していくため、まずはグループのメンバーそれぞれに担当箇所を設定し読み込みを行います。次に、それぞれの担当者が別グループの同じ箇所の担当者と一緒にチームを越境して分析を実施、その後各グループに持ち帰って重要箇所について整理し理解を深めるという流れです。

 例えば、「瀬戸物」の「瀬戸」は本来地名ですが、訳し方としてはどう扱うのか、そのまま訳すだけで本当に伝えたい意味合いが伝わるのか。「江戸時代」と読むことはできたとしても、それが何なのか?は伝わらないのではないか……など、たくさんの発見や疑問が一連の中で見つかっていきます。

 2日目のワークショップは、上記の作業や気づきの振り返りとともに、事前に「この場で相談したり確認したりしたいことがあれば持ち寄って大丈夫です」といったアナウンスをしていたことで、各職員がリードユーザーに確かめたい表現や共に議論したいと思う展示物についての情報を持ち寄った状態で始まりました。前回のワークショップで見つけた重要箇所も踏まえて、「欧米の方向け(英語圏向け)」「アジアの方向け(中国語/韓国語圏向け)」のグループに別れて議論の内容をマッピングしていき、各グループで見せ合ってチェック、その後翻訳者の方に依頼をする場合に何をどう伝えたいのか、どう依頼するといいのかを整理するワークシートに落とし込んでいく作業を行いました。

 博物館のように公共性の高い施設では特に、来館者によって文化的背景も異なることを踏まえ、自分達が表現したいものが日本独自の文化の元に築かれているものなのか、それともどこかの地域では共通の文化なのか?などの背景情報も理解して伝達していくことが、翻訳依頼の際に重要な点であるということが見えてきました。ただ言葉としての翻訳をするだけでは、視覚障害者の方に向けて点字表記をつけて「読める」状態にしただけで「伝わる」と勘違いしているのと同じことになってきます。

 今回のワークショップで得た知見は、あくまで素地としての知識になっているはずです。今後展示物が変化する場合にも、こうした「翻訳する場合に留意すべき視点」を獲得したことで、徳島県立博物館のD&Iが進んでいくことを願っています。

【参加していただいたリードユーザー】
徳島県在住外国人6名
【ほか参加者】
乃村工藝社社員、徳島県立博物館職員


2019年の取り組みはこちらから

関連リンク

徳島県立博物館

徳島県立博物館常設展全面リニューアル・これまでの取り組み

徳島県立博物館 常設展リニューアル(乃村工藝社)

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