なつかしい町がくれた勇気
今日の大阪は、朝からお天気がよかった。空は高く澄んでいて、さわやかさの塊みたいだった。
夫が娘たちの面倒を半日見ていてくれるというので、電車に乗って出かけてきた。ある町まで。
いつも買い物をするときはなんばか梅田。そのふたつの街を通り過ぎ、もうちょっと北上したところに目的地はある。
大阪メトロ御堂筋線は、大阪市内を南北に貫く地下鉄だ。途中から北大阪急行という路線が乗り入れていて、南から行くと、中津を過ぎたあたりでズババーッと地上に出る。窓の外を流れる景色がぐーんと広がるこの瞬間が好きだ。
そのまま電車に乗ると、私が20代の頃に住んでいた町に着く。私はそこでたった1年間、ひとり暮らしを経験した。
会社勤めを始めて数年経った頃、ひとりで暮らしてみたくなったのだ。テレビもないワンルームマンションの一室で、友人たちに「キャンプごっこ?」とからかわれながら暮らした。冷蔵庫はあったものの、私は料理ができなかった。キャンプごっこという言葉には、友人たちの心配もこめられていたに違いない。
ひとり暮らしの1年間にはいろいろなことがあった。大きな失恋をしたし、仕事で壁らしきものにもぶつかったし、親友と喧嘩もした。傷の多い1年間。よく泣いた記憶がある。
マンションの契約更新をするタイミングが訪れたとき、私はひとりで暮らすことに限界を感じていた。もうすべてにおいていっぱいいっぱいで、溺れそうだった。そうやって、私のひとり暮らしは終わりを迎えた。
今日はたまたま用事があってその町を訪れただけなのに、まるで当時の苦しい思いをたどる旅のようになってしまった。かつて住んでいたマンションの近くを通り過ぎたり、よく行ったカフェでコーヒーを飲むことになったりしたのだ。
でも、そうした苦しい思いが完全に過去のものになったと実感できたひとときでもあった。「あー、つらかったよね、あの頃は」と、にがい経験の数々をほんの少し達観した心持ちで思い返すことができた。
もうあれから15年近く経っている。失恋して泣いていた私も、結婚して二児の母になった。仕事もぼちぼち納得しながらできているし、ありがたいことに親友との縁も続いている。
なんだ、すべて過去になるんだ。そう思うと、心も体も軽くなる感じがした。きっと、いま私が抱えている悩みだって、10年後には懐かしさを凝縮した過去になる。なーんだ。時間って、すごいやん。
先日買ったフラットパンプスで踏み出す一歩は、軽い。むりやり前向きになる必要もないし、ときには後ろを見ながら歩いたっていい気がする。それが逆に気持ちを後押ししてくれることだってあるのだから。
懐かしい町の空気に、変わったかたちの勇気をもらった日だった。