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わたしたちの箱ものがたり

箱をいさぎよく捨てるほうだと、自分のことを思ってきた。ジュエリーや高級菓子の紙箱はとっておきたくなるけれど、できるだけ早く処分する。うつくしいものは感謝をこめて写真におさめ、古紙回収ボックスへ。

こう決めておかないと、際限なく保管したくなってしまうのだ。世の中、きれいなパッケージが多すぎる。誘惑が多すぎる。

しかし、なかには捨てられない箱もある。

【捨てられない箱①】腕時計の箱

これ、捨てられます? ……と、なぜか問いかけてしまった。それくらい、腕時計の箱ってきれいだ。

開けることもほとんどないというのに。

カルティエのタンクアメリカンが入っていた箱である。カルティエのあの、目に焼きつく赤とゴールドラインのコンビネーションがあざやかで、どうにも抗いがたい魅力にあふれている。

楕円形がエレガント。
こちらも開けることはほとんどありません。
内側がまたなんとも妖艶なのです。
劣化しているのに捨てられません。

ベダアンドカンパニーの箱は優美な楕円形をしている。内側は紫のビロード張りになっていて、なまめかしい艶がある。これまたどうしても捨てられない。

それに、腕時計の箱は付属品として必要だと言う人がいる。売却時、付属品がそろっているかどうかが査定額を左右することもあるそうだ。どれも売る予定はないけれど、そんなことを聞くと「じ、じゃあ置いておこかな」なんて思ってしまう。

【捨てられない箱②】ネックレスの箱

ジュエリーの箱にも、いくつか大切にしまっているものがある。

黒! 白!
ザ・モノトーンです。

ネックレスが入っていたこの箱は、加水分解というのだろうか、内部がポロポロと剥がれている箇所があるのにまだ置いている。

シンプルさがかっこよく、おしゃれなだけに、捨てるに忍びない。

【捨てられない箱③】ご褒美ボールペンの箱

去年のクリスマス、2023年を頑張って過ごした自分へのご褒美に買ったCaran d'Acheカランダッシュの箱も捨てられない。情熱的な赤がすごくきれいだからだ。

赤と黒、スタンダールな色合わせが
思い切りよくて素敵です。

箱も含めて気に入っているし、なんとなく特別感もあるしで、愛着が湧いてしまった。これはずっと持っておくんだろうな、と思っている。

このあいだ、娘たちがネネちゃんという名のお人形の入っていた箱を絶対に捨てないと言い張った。わたしが彼女たちにネネちゃんを贈ったのはもう何年も前だ。とうぜん、箱はぼろぼろである。

困り果てたわたしは言った。

「箱ばっかり置いてたら、うちの家はゴミ屋敷になっちゃうやん」

そこではっと気づいた。どの口が言うのだ。わたしだって箱をちょこちょこためているじゃないか。血は争えないってこういうこと?

死語になった今も優雅さを漂わせる「箱入り娘」と違い、「箱好き娘」という響きはなんだかこわい。

家の中が箱だらけになって、娘たちが箱好き娘になる前に、いろいろ整理しなくては。あせりながらも、ネネちゃんの箱を置いておこうとするわたしがいる。

なんだか、この箱にだけは大切なものが詰まっている気がするのだ。今だけしか見えないなにかが。

彼女たちはどんな箱ものがたりを紡ぐのか考えると、ちょっとわくわくする。うーん、いつか箱だらけの家に住むのもロマンチックでいいかもしれない。

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