約束のベビーパール
最近、ベビーパールのネックレスをよく着けている。「鳥羽に小旅行するんだから、昔買ったあれを」と、ジュエリーボックスの中で長く眠らせてしまっていたものを引っ張りだした。
これまでもパールはときどき着けていたけれど、すべてイミテーションを選んでいた。
本物のパールは水に弱い。酸や熱にも弱いそうだ。つまり、扱いに注意が必要ということ。着けたあとは柔らかい布で拭い、高温多湿を避けた環境で保管するのが望ましい(らしい)。
面倒くさがり屋のわたしは毎回お手入れする自信がなくて、イミテーションを着けていた。それも、普段着に。
顔立ちの問題なのか、わたしがパールの正統派ネックレスをきっちり着けると卒入園式に参列する保護者に見える。だから、あえて着けくずす。
とにかく、パールといえばわたしには向いていない宝石だと思ってきた。
でも、娘たちを産む少し前、夫といっしょに旅行したときにこのベビーパールのネックレスを買った。
店員さんが「ベビーパールはカジュアルに着けられますし、ほかのネックレスとの重ねづけも楽しめますよ」と言ってくれたからだ。直径が6mmくらいより小さなものをベビーパールと呼ぶんです、とも。
「なんだかかしこまっていなくて、すごくかわいい」。そう思ってベビーパールを選んだ。
しばらく経って、双子を妊娠したことがわかった。そこからつわり、出産、育児……と、ジュエリーとは縁遠い生活が続いた。
けれど、このあいだジュエリーボックスに眠る小さなパールの連なりを眺めていたら、無性に愛おしくなった。
大ぶりなパールほどの気高さはない。なのにたしかな照りがある。いっしょに着けるほかのネックレスも引き立てる。
こういう生き方もありかもしれないと考えると、急に愛着がわいてきた。お手入れをしながら着けてみようと思えた。
「だってさ、どう頑張ってもわたし、大粒真珠じゃないからね。いいやーん、って思って」
夫に言うと、思わぬ答えが返ってきた。
「このネックレスを買ったとき『これが似合う女の人になるねーん』って、自分で言うてたで」
え、そんなこと宣言してたのか、わたし。覚えていない。しかし、記憶力のよい彼が言うのだから本当なのだろう。
好きな言葉は「ぼちぼちいきましょか」である。大きなことを成し遂げたわけではないし、暮らしのなかに劇的なこともほぼない。たぶん、相対的に見れば脇役の立ち位置でもある。
ただ、小ぶりでもほんのりと照りのある人生にしていきたいなあ、とは思う。ベビーパールは今のわたしにとても優しい。
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