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半径5メートルの嵐
このところ、家庭内が荒れ気味だ。と言っても、夫と喧嘩しているとか、娘たちがものすごく反抗的だとかいうわけではない。
原因は母とわたしにある。
わたしの実家は近所なので、母はときどき孫に会いに、我が家にやってくる。お菓子やおもちゃの入ったバッグを提げて。
しかし、そのお菓子の賞味期限が切れていたため、わたしが「あれ、これ賞味期限過ぎちゃってない?」とうっかり言ってしまった。母の苛立ちのスイッチが入った。
「なによ、もらう立場でえらそうに言うんじゃない!」
ええー。
わたしは「ごめん」と謝って、いったんはお菓子をありがたくいただいておいた。どうしよう、あんこの古いやつはヤバいって聞くけどな、なんて思いながら、である。そして、お菓子をはじめとしたあれこれを持ってきてほしいとは一切言ったことがないのにな、とも思う。
実家では、万事がこのように進む。母の機嫌で家族が振り回されたり、ぐっと我慢を強いられたりする。わたしはもう慣れっこだから、「ごめんごめん」で済ませることにしている。
そうは言ってもストレスはたまるもので、年が明けてからはなんとなく気分がすっきりしない。やっぱり人に当たり散らされるのは嫌なものだ。
大切に育ててもらったのだから、母には優しく接したいと思うものの、インターフォンのカメラにその姿が映るとぎょっとする。すぐ怒るくせにこまめに訪問する母。なぜ。
……という愚痴を書きたくなったのは、ご近所の方に声をかけられたからだ。
「お父さんお母さんの近所に住んで、ご家族の仲もよくて、ええわねえ。うちの息子なんて、寄りつきもせえへんのよ。やっぱり子どもを持つなら娘がええわね。うらやましいわあ」
うらやむ言葉が本心かどうかはわたしには知る由もない。ただ、そういう見方もあるのだと思った。
うちの家族は他人から見たら仲がよく、うまくまわっているように感じられるらしい。ほんとうは母がやってきた日のうち7割ほどは、嵐が吹き荒れるというのに。せいぜい半径5メートルほどに起こる嵐でありながら、けっこう精神を削いでいく。
同じように、みんないろいろあるのだろうなと想像してみる。順風満帆に見えるあの人も、とってもリッチなあの人も。逆に、さみしそうに見える人が実は心満たされる暮らしをしているかもしれない。
人それぞれ、苛立ちや苦労の種があるはずだ。だからおいしいお茶を飲みに行ったり、子の寝顔という小さな幸せを見つめてみたり。
みなさんもわたしもお疲れ様です。明日も頑張りましょう。