わたしたちの美容院スタイル
美容院に行った。土日や祝日に行くことができなかったので、平日、仕事のあいまに「今日とかって予約できたりします……?」なんて電話をかけ、都合をつけてカラーをしてもらってきた。
よし予約できた(このぶしつけな依頼を予約と呼べるなら)と、いそいそとわたしは着替えた。
カラーをしてもらうのだもの、黒いブラウスにしたほうがいい。
以前、トリートメントを洗い流してもらうときに洋服の背中が濡れたことがある。わたしの着ていたグレージュの洋服は、濡れると目立った。それに気づき、担当美容師さんやアシスタントさんが平謝りに謝ってくれたのが忘れられない。大したことじゃないのに……、と申し訳なく感じた。
それからは、濡れたり、万が一、カラー剤がついたりする可能性を考慮して、美容院でのカラーリングには黒っぽい色の洋服を着ていくことにしている。
少し前にこの話をしたところ、友人はそんなの気にしないと言っていた。
「そういうときは『あら、お洋服が濡れちゃった!』って言えばいいねん。クリーニング代やら謝罪なんかは要らないけど、びっくりしたんやもん、素直に「あら」って言うたらええやん」
彼女は天真爛漫で才能豊かな美女である。なるほど、彼女らしいと言えば彼女らしい。彼女に「あら!」はよく似合う。彼女なら、嫌味なく言える。
わたしは高校生か大学生くらいの頃、彼女に憧れた時期がある。恵まれた育ちゆえか、生来の性格ゆえか屈託がなく、あっけらかんと自分の心のうちを話せる彼女がまぶしく見えたのだ。
でも、あれから20年経った。出会いから数えるとわたしたちの付き合いは30年。いつのまにかフラットに話せているし、彼女との違いも認められている。
「わたしは『あら!』って言われへんのよねえ。アシスタントさんが怒られてしまうかもしれへんとも思っちゃうし」
お茶を飲みながらそう答えた憶えがある。
今回の美容院にも、わたしは黒いブラウスを着ていった。もちろん、洋服が汚れるような事態にはならなかったけれど、これがわたしのスタイルということでいいのだと思う。