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言葉の覚えかた 再び小説の固有名詞について 

 昨日、「インセル」という言葉を知った。文脈上、弱者男性みたいな意味だろうと思ってそのまま放っておいたのだけれど、なんとなくどんな意味だろうと改めてネットで調べたのだ。それでようやく100%とは言えないまでも単語の輪郭は掴めた。
 最近、言葉を調べなくなったということは自覚していた。新しい言葉を見聞きして、それの意味を調べる機会は昔と比べて圧倒的に減っている。だいたい、年齢のせいか慣れない漢字の読みかたを調べてもそれを忘れてしまうことが増えた。まあそれでもなるべくはちゃんと調べようと思っているが、どうなるんだろう。

 ところで、甥や姪といった小さな子供と話していて思うのだが、人間は恐らく単語の意味そのものよりも文脈の流れで言葉を理解しているのではないだろうか。以前、若手のお笑い芸人が「先輩が『ドラゴンボール』でものを例えても俺たちはわからない」と言っているのを見たが、本当にそうだろうか。『ドラゴンボール』がわからなくても文脈からなんとなく推察することはできるんじゃないかと自分は思う。もちろんまったくわからないこともあるし、なんでも文脈で理解してはいけないのだろうけれど、案外、話を聞いているほうは意味をわかっているのではないか。さすがにあまり知られていない四字熟語をいきなり言ったらわからないが、こと固有名詞に関してはそこまで知名度にこだわらなくてもいい気がする。

 自分は長嶋有の小説が大好きなのだが、彼の小説にはいろいろな固有名詞が出てくる。なんといってもデビュー作の『サイドカーに犬』では自分がもっとも好きなバンド、ブルー・オイスター・カルトが出てくるのだ(大した役割ではない)。他にも『キン肉マン』なんかもよく出てくる。これは長嶋有の作品の特徴のひとつで、サブカルチャー由来の小道具がある種の役割を持って使われるのだ。
 小説を書く上でわからない固有名詞や言葉によるノイズを除去するというのはとてもよくわかる話ではある。そういった手法はもちろんあるし、それはそれでいい。
 ただ一方で、本を読む楽しさの中には「新しい言葉や単語を覚える」というものもあるのではないだろうか。「知らないけど、きっとこういう意味なんだろう。でももっとちゃんと知りたい!」という気持ちにさせるのも、読書の喜びのひとつだろう。

 そうは言ってもまあ、体力次第は読んでいられない作品もあるので、まあそれぞれ好きにやればいいとは思うが……。

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