私たちは親友

 行ったほうがいいのか。一週間前に送られてきた同窓会の出欠表をベッドの上で眺める。あの子は行くのだろうか。久しぶりに電話したくなった。
「あ、もしもし。久しぶり。うん、元気。莉音は?そうなんだ。今度会おうよ。うん、じゃあね。」
 結局出欠は聞けなかった。携帯の電源をつけたままベッドで寝落ちしてしまった。
 翌朝、起きると泣いていた。中学生の時の夢を見たのだ。思い出す。あの日々。
 
 
 制服なんて嫌いだな。固苦しいし。小雨の中の入学式。
「中学生になった感じしないね。」
「ねー、同じクラスだといいね。友達できるかな。」
 私、村山菜友と幼なじみの竹林花梨は、傘をさしながら歩いていた。学校に着くとクラス発表。あいにく、私たちは違うクラス。でも、意外と楽しそう。その中で私は窓際に静かに座る女の子が目についた。何故かは分からないが、その子の目には輝きを感じた。でも、大きな関わりはないまま二ヶ月がたった。私は剣道部に所属し、その子は女子バスケットボール部に所属した。ある日、間違えて朝練の時間に学校に行ってしまった。しょうがなく、教室で本を読んでいると、その子が入ってきた。ずいぶん登校が早い。
「おはよう。松野さん。」
「おはよう。村山さん。」
 それが、その子との初めての会話だった。
 その子は、席について本を読み始めた。それから、朝練がない日は二人で本を読むのが日課となった。最初は少なかった会話もだんだんと増えてきた。
 お互いの呼び方も、松野さんから莉音ちゃん。村山さんから菜友ちゃん。そして呼び捨てに。お互いの好きな本も紹介するようになった。仲良くなっているはずなのに莉音はどんどん元気がなくなっているように感じた。ある日たまたま部活がお互いなく、初めて一緒に下校した。どうしても知りたかったのだ。どうして元気がないのか。自分といるのが楽しくないのか。それとも他の理由があるのか。莉音の話は信じられないものだった。
 いじめ。ドラマで見るようなものではないが、他の人か認識できないように虐めていたのだ。少人数での部活内でのものだった。無視、仲間外れ、罵声。莉音はきっと全てを話してくれた。私は、固まってしまった。そして、気がつけなかった自分を責めた。 その次の日、学校で信じられないことが起こった。あからさまに、女バス(バスケ部)の部員が私を無視するのだ。特に、主犯格の鈴木彩香と杉元明凛。莉音は、この気持ちを一人で全て抱えていたと分かった。女バスのいじめはどんどんエスカレートしていった。周りにも隠さなくなったのだ。先生たちには気がつかないように。莉音も先生に相談したそうだが、先生の前でいい子ちゃんだった六人を信じ、結局は莉音が責められる羽目に。そのまま月日は経ち二年生になりクラス替えもあった。クラスが一緒になって女バスの子たちの性格が変わっていることに気がついた。私は驚いた。井野来海、田中美樹、小原奏絵、そして、幼なじみの竹林花梨まで。二人に変えられたと莉音言った。悲しくなった。もう私の知っている六人ではなかった。でも、莉音は涙を見せることなく耐えた。そして、三年生。私たちは三年間同じクラスだった。部活も引退して、平和な日々が続いた。莉音への嫌がらせは終わらなかったが、関わることもなくなり楽しかった。そして、修学旅行。私は、班長として班決めに参加した。私の班は、佐藤翔豪、大江晃直、山田美縁、溝口亜美、そして莉音と私。前三人は、サッカー部のイケイケだったが根は優しいし面白い。莉音と亜美とはタイプが違うから心配だったけど、なんだかんだ楽しかった。実は亜美も卓球部で嫌がらせを受けていた。お互いに気持ちがわかるからすぐに仲良くなれた。それからは、時が早く感じた。すぐ受験期になり、話すことも減った。莉音は早く受験が終わり私のことを応援してくれていた。そして、受験の前日クラスはピリピリしていた。あまり、話すこともなく受験会場に向かった。テストを受け家に帰ると、メールが届いていた。
 感染症が拡大しているため学校を休校とする
 戸惑いを隠せなかった。みんなで楽しくお別れができていない。幸い、卒業式はできたが大切な時間を奪われた気がした。春休みも自粛期間が続き、出かけることさえもできなかった。莉音とたくさん出かけたかった。たくさん話したかった。たまにするメールが、とても楽しい。家族以外誰とも合わないこの時期に唯一の楽しみなのだ。
 
 
 高校に入学してからは会うことが少なくなった。そのまま、私達は別の場所に就職した。少し寂しい気持ちはあったがお互いに忙しくてあまり、会えないのだ。同窓会で会いたいけど、莉音の心の傷は一生消えない。だから、同窓会では会えないような気がしていた。私は、莉音が行かないなら行かないつもりだ。結局はメールでそのことを伝え聞くと、
「私は行くよ。菜友も行こう!」
と帰ってきた。意外だった。でも、他の子に会いたい気持ちも少しはあったから楽しみだった。
 同窓会当日、莉音はいなかった。私は、はっとした。莉音は私のために嘘をついたのだ。他の子に会いたい気持ちがあることを莉音は知っていたのだろう。なぜなら私達は親友だから。私は莉音にメールで「ごめん」とだけ送った。メールはすぐに帰ってきた。
 「そんな謝らないでよ。今日は楽しんできて!」
 やっぱり莉音は大人だ。私もすぐに返信した。
「今から二人で会わない?妹がって言って帰るから。ね、そうしよ?」
「今日はいいよ。楽しんで!」
 そんな返信を無視して私は莉音の家に向かった。すると、莉音は二人分の夕飯を用意していた。
 
 やっぱり私達は親友だ。

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