司馬遼太郎「坂の上の雲」感想

坂の上の雲


司馬遼太郎の名作「坂の上の雲」を読み終えて、感想を書きたいと思います。

結論から言うと、日露戦争前半までは面白く、後半は冗長な感じがして面白くありませんでした。

日露戦争開戦前までは、正岡子規や秋山兄弟の幼少期からのエピソードなどが書かれ、読み物としても面白いです。

また、オスマン帝国やモンゴル帝国など物語の主題とは関係のない歴史事実なども触れていますが、面白く読めました。歴史に全く疎い人間だったので、様々なことを知ることができて面白いです。個人的には軍事関係の話題が好きなので、少しエピソードを取り上げたいと思います。

例えば、当時の世界最強の軍事力を誇っていたのが、海軍はイギリスで陸軍はドイツでした。日本はその2つの国からそれぞれ真似し、海軍はイギリス式、陸軍は徳川幕府時代のフランス式からドイツ式に変更しました。陸軍は長州閥、海軍は薩摩閥がそれぞれ力を持っていたそうです。

日露戦争の相手「ロシア」の軍事力は陸海軍ともに強大でしたが、英独には及ばない程度といったところでしょうか。具体的なエピソードとしては、バルチック艦隊が英国の漁船団を誤って攻撃してしまった後は、イギリスが世界中の港に根回しをして、石炭の補給を妨害したり海軍の戦艦で煽り行為を行うなど何でもし放題です。当時ロシアと同盟を結んでいたフランスなんかもイギリスには逆らえず、ロシアとの接触を避けるようになりました。また、ロシア陸軍が大量に東方へ送られるにつれ、フランスはドイツ陸軍への牽制のためにロシアと同盟を結んでいたので、その効果が薄れロシアへは更に非協力的になったそうです。

日本の軍事力はロシアと比べると圧倒的に小さいです。戦艦数や兵士数、物資量など圧倒的に不利です。かろうじて抗えた要因を挙げていきたいと思います。

海軍の方は、山本権兵衛大佐の人事が素晴らしかったということが挙げられるでしょう。彼は無能を切り捨て、海軍士官学校卒の将校を多く採用するなど実力による組織を作り上げました。また、当時閑職に就いていた東郷平八郎を起用するなどしました。東郷は運の良さもあったそうですが、実際は優秀な部下の邪魔をしないという点で選ばれたと思います。秋山真之も東郷のもとで活躍します。山本がこれほど自由に動けたのも、海軍相であった西郷従道(西郷隆盛の弟)が山本にすべて任せたからだとも言われています。粗は若干ありますが、全体的に海軍は優れていたという感想を持ちました。

陸軍の方はかなり批判的に書かれていました。有名なエピソードとしては203高地の激戦などが挙げられるでしょう。参謀の伊地知幸介や大将の乃木希典、更に参謀総長の山縣有朋がかなり批判されていました。山縣が長州閥を意識して乃木を推薦し、それに合わせる形で薩摩閥の伊地知が選ばれたとされています。伊地知が偵察など殆ど行わずに前線の遥か後方で作戦指揮を取っていたり、海軍の援助を断るなど独断で作戦を行っていました。乃木は伊地知を尊重(傍観)し、大量の死者が出るという結果に終わりました。結局203高地の激戦は児玉源太郎の指揮のもと、沿岸砲を使って非常にあっさりと片付いてしまいました。その他、秋山好古の騎兵隊は線路や橋の破壊などで活躍しますが、ものすごく大きな活躍はありませんでした。ただ、機関銃を独自に配備して使用するなど先進的なことをしていました。

日露戦争の最終的な着地点としては、日本が圧倒的に不利なのを無理矢理アメリカに調停してもらうという形に終わりました。確かに海軍の活躍は目覚ましいものでしたが、あのまま戦争が長引けばロシアから鉄道で日本軍の何倍もの陸兵が送られてきたのは間違いないので、確実に負けていたと思います。途中、帝政崩壊のために暗躍する明石元二郎大佐のスパイ活動もありますが、帝政ロシアが崩壊したのは第一次世界大戦の時期なので、その影響は小さいでしょう。一応教科書などでは戦勝という事になっていますが、実態を詳しく調べると果たして勝利と言えるのかどうか分かりません。

*坂の上の雲の作品中では、ポーツマス条約締結に関しては書かれていません。その後、興味本位で調べたのですが、賠償金なしで朝鮮の指導権や満州南部の鉄道及び領地の租借権などを得ました。賠償金が無いということで、調停役のアメリカの大使館や教会を襲う日比谷焼き討ち事件などに繋がります。また、満州鉄道の経営に関する桂・ハリマン協定というアメリカとの契約を破棄したりします。日本は結構アメリカから嫌われる事をしてきたというのを改めて知りました。




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