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コーポ石川101号室

パパとママは家族じゃなくて、
友だちになるんだけどいいかな?

いいに決まってる。
友だちのまなちゃんは家族より仲が良い。
毎日自転車で公園に行ってブランコ競争したり、まなちゃんのお家にあるシルバニアファミリーでおままごとをしたり、たまにはケンカもするけどお花をあげて仲直りをする。
パパとママも友だちになったほうが、仲良くなるに決まってる。

友だちになったら、パパとは一緒に暮らせないらしい。たしかにまなちゃんは一緒に暮らしていない。友だちってそういうものだ。

学校から帰ると、いつもいるお母さんがいない。遠くへ一緒に暮らすお家を探しに行ってるらしい。

荷物を片付けてと頼まれた。大好きなぬいぐるみやおもちゃ、サンタさんにもらった枕をパンパンに入れた。まなちゃんからもらったお花も入れておこう。

それから、小学校でお別れ会をしてくれた。図書館に一人で行っていたこの前の5時間目に、みんなでお手紙をかいてくれたらしい。主役になった気分で嬉しかった。まなちゃんには、住所を教えてお手紙を書く約束をした。

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お父さんの車に乗って、新しい家に行った。畳の部屋が2つ並んでいて、少し寒かった。部屋の片付けが終わって夜になると、お父さんは帰っていった。もうしばらく会えないらしい。電子レンジを拭いたオレンジのスプレーの匂いが少しツンとする。

初めて一人で新しい小学校に行く朝、ここの道を渡って、真っ直ぐ行けば着くよとお母さんが言う。本当はお母さんについてきてほしかったけど、勇気を出して道を渡ってみたら、意外とドキドキしなかった。学校の門をくぐった。知らない人がいっぱいで、やっぱりドキドキする。みんなが入っていく昇降口に入ってみたけど、自分の靴箱がわからない。近くにいたおじちゃん先生に聞いてみたら、2年生はここだよって教えてくれた。ついでに教室にも連れてってくれた。大野先生って人らしい。

学校から帰ると、お母さんが広告を見ながら丸をつけていて、とても忙しそうだった。

しばらくして、自分で家の鍵を持って学校に行くようになった。学校から帰ってきたら、お母さんはいなくて、近くに住んでいる叔母さんの家に電話する。電話の仕方はお母さんがボードに書いてくれた。毎日遊んでいたまなちゃんもいないから、テレビをずっと見ていた。14時から17時は8チャンで再放送のドラマ、17時からはニュースになるから3チャンを見る。いつもは天才てれびくんだけど、金曜日は天才ビットくんだからつまらなかった。それが見終わると、お母さんが帰ってくる。夕飯をつくっているお母さんの横で、今日あったことを全部話す。お母さんは、いつもニコニコしながら楽しそうに私の話を聞いていた。

休みの日は、お母さんがアパートの駐車場でバトミントンをして遊んでくれた。休みの日はお母さんが一日中家にいるから大好きだ。

特別な日は、2人で自転車を漕いで焼肉を食べに行った。まず近くのドラッグストアに行って、レジの横にある500円割引クーポンを2枚もらう。それから、隣の牛角で大好きな焼肉を食べる。カルビご飯が一番美味しかった。

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ある日お母さんに
「なんでみんなにはパパがいるのに、
わたしにはパパがいないの?」と聞いた。
お母さんはその夜ずっと泣いていた。
それからはもう聞かなくなった。

❇︎

中学生になるとき、知らないスーツのおじさんが2人家にやってきた。この家を取り壊すことになったらしい。

また荷物をダンボールにつめた。

初めてお母さんと2人で暮らした部屋。
お母さんと2人でがんばって暮らした
思い出の部屋。
いまは綺麗なマンションがたっている。

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