【コギトの本棚・対談】 映画「ソレダケ / that's it」 石井岳龍 X 渋川清彦
*(公開当時の記事です)2015.05.21
第一回
いよいよ、来る5月27日より、石井岳龍監督作品、映画『ソレダケ/that’s it』が公開されます!主演は、染谷将太さん。脇を固めるのは、村上淳さん、渋川清彦さん、水野絵梨奈さん、そして綾野剛さん。さて、どんな物語が繰り広げられるのでしょうか。
実は、微力ながらわたくし、いながきも脚本で参加させていただいております。普段は自分の作品、ここまで言いませんが、めちゃくちゃ面白いのです。必見です。
そこで、公開を記念して、『コギトの本棚』では、四週に渡って、石井岳龍監督、渋川清彦さんをお迎えした対談という形で、インタビューを掲載いたします。
読んでから観るか、観てから読むか、他では読めないかなり突っ込んだ深いお話、ぜひ、お楽しみください!
(文/構成 いながききよたか)
映画『ソレダケ/that’s it』
『狂い咲きサンダーロード』(80年)、『爆裂都市 BURST CITY』(82年)などで世界を震撼させた"邦画界の革命児"石井岳龍監督(=石井聰亙)が、遂にロック映画の舞台に帰って来た。『生きてるものはいないのか』(12年)『シャニダールの花』(13年)などの不条理なオルタナ世界の探求から一転、無類の音像を構築し続けケタ外れの独創性を発揮するバンドbloodthirsty butchers(ブラッドサースティ・ブッチャーズ)のリーダー、故・吉村秀樹からの熱烈なラブコールのもと完成させた叛逆の青春物語、それが本作『ソレダケ / that's it』である。
石井岳龍 (いしい がくりゅう/1957年1月15日生まれ )
神戸芸術工科大学教授。改名前の石井聰亙(いしい そうご)の名で広く知られている。福岡県福岡市生まれ。福岡県立福岡高等学校、日本大学藝術学部中退。1976年、大学入学直後、8mm映画デビュー作 『高校大パニック』が熱狂的な支持を得る。デビュー以来の鋭い表現手腕は、映画に留まらず、ミュージッククリップ、ビデオアート、写真、ライブ活動等、 様々なメディアで発揮され続けている。尖端的な音楽と、風景や光の情景をミックスさせた映像表現手法は、「実験的」と評されながらも、特に同じ業界の人間 や、アーティストからの評価が高いことでも有名。ちなみにクエンティン・タランティーノも石井聰亙を敬愛している。 代表作に、『狂い咲きサンダーロード』(1980年) 『爆裂都市 BURST CITY』(1982年) 『逆噴射家族 』(1984年) 『ELECTRIC DRAGON 80000V』(2001年)『生きてるものはいないのか』(2012年) 『シャニダールの花』(2013年)など。
渋川清彦 (しぶかわ きよひこ、1974年7月2日)
群馬県渋川市生まれ。「KEE」の名前でモデルとして「MEN'S NONNO」や「smart」などの雑誌で活躍。1998年『ポルノスター』(豊田利晃監督)にて俳優デビュー。2006年より、現在の芸名に改名。名前 の由来は自身の出身地である、群馬県渋川市から。(ちなみに、2011年より同市の観光大使も務めている。)主な出演作は、『ナインソウルズ』(2003年)、『せかいのおわりworld' end girl friend』(2004年)、『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』(2008年)、『PASSION』(2008年)、『フィッシュストーリー』(2009年)、『蘇りの血』(2009年)、『ゴールデンスランバー』(2010年)、『惑星のかけら』(2011年)、『生きてるものはいないのか』 (2012年)、『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012年)、『俺俺』(2013年)
映画の音について
いながき:ひとまず、お疲れ様です。
石井:大成功を祈って。
いながき:今日は、よろしくお願いします。そう言えば、5月5日、シネマート新宿さんで、映画『ソレダケ』の前夜祭としてというか、オールナイト上映がありますね。(インタビュー時は5月1日)『狂い咲きサンダーロード』と『爆裂都市』、そして川口潤監督の『kocorono』と。お邪魔してもいいですか。
石井:ぜひ来てよ。すごくいい劇場だよ、『ソレダケ』を封切りしてくれるシネマート新宿さんは。
渋川:『ソレダケ』は、けっこうな音のボリュームでやるんですよね。
石井:小さかったら、「上げろ」って言うよ。
渋川:石井さん、チェックしますもんね。
石井:この前、シネマート新宿さんに確認しにいったのよ。結構いいスピーカーだった。ここはいけるなって感じだった。
渋川:あそこ、スクリーンもでかいですもんね。
石井:プラス、支配人さんも入れ込んでくれてて、試写にも何回も来てくれて、「再現する」って言ってくれてたから、期待してるんだよね。『サンダーロード』と『爆裂都市』は、昔のフィルムの音でモノクロだから、そんなに上げたら割れてしまう。でも、『ソレダケ/that’s it』はどれだけでも上げられると思うんだよね。低音が弱いと、上げるとキンキンしちゃうけど、低音がしっかりしてるアンプとスピーカーを入れてれば気持ちいいと思う。
いながき:このあいだ音響効果の勝俣さんから、試写の時、イマジカのスピーカーがトんだ、と。
石井:あ、そうなの。トんでないんじゃない?
いながき:本当はどうなのかわからないですけど、劇中、音がボンと下がるじゃないですか、あそこで振幅がありすぎて、ってことじゃないですかね。
石井:次の音が鳴るところで、鳴らなかったんだ。
いながき:そうらしいです。
石井:確かに一つ言えるのは、データ的には大丈夫なんだけど、その状態で鳴り続けるっていう経験がないから、それで不具合が起こる可能性はあると思うのね。そういう使い方を普段しないから。でも、データ的には全然大丈夫なんだよ。大丈夫だと思うんだけどな。
いながき:それにしても、爆音はすごくいいですよね。
石井:気持ちいいよ。この間の試写のときも、もっと上げろって思ったもんね。でかい方が面白いって、思ったんだよ。シネマート新宿はスピーカーでかいから、でかけりゃでかいほどいいと思いますね。
渋川:音は一番初めの初号から変わってないっすか?
石井:変わってない。音を大きくして見ると見え方が変わってくるんだよね。迫力が増すね。あと、音がいい方がより面白くなる。
いながき:今回、LCRじゃないですか?(左・中央・右の3CH)『生きてるものはいないのか』も『シャニダールの花』もそうなんですよね。5.1CHではないですよね。
石井::『生きてるものはいないのか』は本来DCP仕上げで音も5.1chだったんだけど、まだ当時は試写会場や上映館のデジタル対応が遅れていて、結局ブルーレイ2chで上映される事が多かった。それで『シャニダールの花』からは違うアプローチを取るようになった。『鏡心』の音楽のミックスもやってくれた勝本博士というスタッフがいて、彼とはずっと組んでるんだけど、彼のMIX(今回は音楽)は、ほとんど立体音響なんだよ。スピーカーって普通、前に音が出るんだけど、彼の場合、(顔の周りをぐるっと回し)この辺りに音場を結ばせようとするんだよね。だから、映画館全体を鳴らすんだよ。
いながき:それは5.1CHじゃなくてLCRでってことですか。
石井:そう、LRでもいいんだけど、ロックの場合、真ん中をちゃんと鳴らさないとボーカルとかが抜けちゃうんです。だから、ちゃんと真ん中も鳴らす。場合によっては真ん中を少し薄くして、効果音をそこでおもいっきり鳴らす。ぶつかる帯域あるからね。たとえば、拳銃の音と楽器の音と声が被ってしまったり、その被る領域をうまく3チャンネルをつかって、微妙にずらしてるわけ。
でも、5.1になると、予測がつかなくなっちゃうんです。ラウンドの在り方が劇場によって違うんでね、低音サブウーファーがすごくいいところと、すごく貧しいところがあって、そこを頼ってしまうと、音が館によって違ってしまって、狙ったところが変化して、見えなくなってくる。だったら、確実なところで行こうと。LCRは基本だから、それが鳴らない小屋はない。それを最大限に使おうという狙いなんです。今回の映画なんかも、低音の出し方も半端ないのでね。貧しいサブウーファーだと対応できない。
その辺はもう長年なんとかして映画館でロックの音を鳴らそうという試みをやってきた試行錯誤と、こっちが狙った音が全然出てないじゃないか!っていう経験の末たどりついた部分ですね。
仮に「うちの劇場はいい音が出ますよ」と言われても、多分レベルが全然違うんです。「全然鳴ってねえじゃねえか」というのは何度も経験しました。
それはしょうがないよね、劇場側はそれを基準に考えられてるわけじゃないから。精いっぱいやってると思うんだよね。でも、ともかく、3チャンネルというのは、どういうシステムでも最高状態のバランスに持っていけるという狙いの元ですね。
いながき:一説には、LCRにした理由は「ライブは前からしか音は出ない」と石井さんがおっしゃってたと今回のサウンドデザインの古谷さんから聞きました。かっこいいなと思いまして。
石井:それもある。オレはモノラルでもいいと思ったんだよ。だけど、モノだと細かい効果音との兼ね合いが逆に難しくなるんだよね。だったら、3チャンネル使おうということです。 音に関しても、シネマート新宿さんはなかなかいい劇場ですよ。
渋川:この間チラシなくなったんで、もらいに行きましたね。
石井:劇場に?!
渋川:はい。直接行って。
石井:向こう、渋川君ってわかった?
渋川:なんとなくわかってましたね。「渋川っていいます」って言って、もらいましたから。
石井:「渋川っていいます」って……。(笑)
渋川:宣伝しますって、向こうも言ってくれてましたね。
石井:スタッフがなかなか熱心な方でね、ありがたいですよ。
☆映画『ソレダケ』の長台詞
いながき:今日は取材漬けの一日だったそうですが、何社くらいインタビューを受けたんですか?
石井:忘れちゃった。でも、新聞社が二社来てくれて、二人共女性のライターさんだったんだけど、双方聞くことが全然違って、面白かったよ。一人の方は、すごく音楽が好きらしくて、音楽のことをたくさん聞いてくれて、もう一人の方は、オレの映画の本質みたいなことを分ってくれていて、そのことについて聞いてくれてましたね。
「石井さんの映画はこの作品の宇宙があるんだけど、その奥にそれを生み出す銀河系があるような気がする」って。
いながき:すごい、わかってるような気がする……(笑)。
石井:「では、それをちゃんと書いてくださいね、私はそれがどういうことか知りたいから」って伝えました。要するに、男の子たちはこの作品『ソレダケ/that’s it』について「30年ぶりにこれを待ってたんだ!これぞ、石井聰亙=岳龍だろ!」っていう言い方をしてくれるだろうけど、女性はどうかっていうことなの。それで、その女性は「石井さんの集大成であり、すべて入ってるような気がする」と言ってくれて、わたしは「それは、どういうことですか?」ということが聞きたかった。
いながき:そういった意味では、僕が聞きたかったことに近いんですが、『ソレダケ/that’s it』は内容的に、石井聰亙時代の『サンダーロード』や『爆裂都市』といった作品が帰ってきた的な文脈ってあると思うんですけど、僕のような中の人としては、かなりアップデートしてるんじゃないかという感覚があるんです。
石井:すごくアップデートしてるはず!
いながき:石井岳龍ならではの集大成という部分がすごくあるような気がするんですけど、そのあたりは、ご本人としてはどう感じますか?
石井:『シャニダールの花』にしても『生きてるものはいないのか』にしても、本質的な部分では理解されてないという感覚はありました。仕方ないことだけど、表面的な部分が観られるじゃないですか。だから、この『ソレダケ』は、あえてそういう表面的なことを、割と分かり易くシンプルにPOPに推し進めたんです。たくさんの人に観てほしいから。せっかく、こういう依頼があったから、そこはちゃんとやろうよということですね。楽しみとしてのわかりやすさというかね。それはやろうという意識はあったじゃない?
いながき:はい、ありました。
石井:やっぱり、当然、オレが監督するんだし、二人で一緒にやってるんだから、進化系じゃないとつまんないわけじゃない?ただ、体制としてはものすごい厳しい状況だったんですよ。
渋川:厳しいというのは?
石井:どこまで言っていいかわからないけど。しかし、作りたいという気持ちがあり、いながき君に相談して、で、がんばってくれたんだけど、最初僕らがやろうとしたことって、今回の物理的条件にとても収まらないようなものだったの。だから、いながき君に「シチュエーションを一つにしてくれ」とか言ったり、でも、気持ちとしては「ロックアクション映画なのに、一つなのか!」とか思ったりね。
そういう紆余曲折があって、たとえば長台詞というものに表われたりしたわけですよね。場所は一つでそこから動かないような、演劇的作劇じゃなければ成立しないっていう状況から出発してるわけです。でも、やっぱり一つじゃ無理だから、せめて、二つくらいにしようかとなったわけです。「猪神のアジト」と「千手のアジト」ですね。最終的には、「恵比寿のアジト(ガネーシア)」と「大黒のアジト」も加わって。
でも、「大黒のアジト」に関しては、最初は、部屋の中じゃなくて、野っぱらで考えてたんだよね。でも、それだと、同録できる場所がなかった。あと、最終的な「あの場所」はさすがにいるよなと増えていって、幸い撮影場所として良いロケ地を借りることができたわけだけど、基本はこういうロックアクション映画なのに、劇構造は演劇としてやってるのよ。
なので、セリフが長いっていうのは仕方ないんだけど、それを逆手にとっちゃえと思いましたね。それが面白いという映画にならなければだめだと思いました。幸運なことに、それができる役者さんが揃っていたから、じゃあ、もうそれで押せっていうか。
にしても、長かったけどね(笑)
いながき:そうですね……。普段、僕は長いセリフをあんまり書かないんです。ですけど、諸条件に対する逃げ道という意味もあるんですが、それよりも、僕は『生きてるものはいないのか』と『シャニダールの花』を拝見して、率直に「石井監督は進化している」という感覚があったので、その進化の跡を今回も残すために、なにがあるのかと思ったんです。それが、即、長台詞に繋がるわけではないんですけど、石井監督がやる以上、アクションとロックという部分は、絶対的な安心感があるので、それ以外の部分で、どんな新しいものを見せるか、という考えのもと、書いたんです。
まあ、それにしても長いですよね。
渋川:でも、画があるから、全然長く感じないんだよ。ちゃんとブロックごとに分かれてるから、セリフの中に、とある人物がいて、彼がいじめられていて、結果どうなるというブロックがあるから、なんか大丈夫なんだよね。
石井:もちろん、それはメチャ面白く見せきりたかった。同じシチュエーションで何度かリフレインする。語られて行くなかで、そのリフレインが生きてるからね。たとえば、大黒と恵比寿の関係性は、1回目と2回目の同じシチュエーションで、明らかに変わるし、それはドラマチックに生きてますね。
渋川:大黒との関係で言えば、恵比寿と大黒は、ストーリーの裏では、ちょこちょこ会ってるんだろうということがわかった。それで、大黒に親近感が湧いてくる感覚があったんだよね。だから、染谷(大黒役の染谷将太)もさ、劇中で、何回も、オレにちょっかいかけてくるじゃん。
石井:立場が逆転するんだよね。
距離感ということは、ずっと考えてました。セリフにはない、二人の距離が縮まっていくという微妙な裏の部分を読んでましたね。更に渋川君も、予告にもあったと思うけど、「お前が嫌いだ!」なんていうセリフが新たに出てきたりしてさ。あれはよかったね。
渋川:あれはブッチャーズを初期から追っていった感覚が出てるのかもしれないですね。一枚目のアルバムから順番に聞いていったんです。でも、すごく時間がかかるんです。濃いから。で、オレはなんとなく、初期もいいけど田渕ひさ子さんが入ってからのブッチャーズの方が好きかも知れないですね。
石井:オレも、そうかもしれないね。
だけど、今回、ブッチャーズをとことんつっこんで聞いてみて、それまで見えないものが見えた。
(次週は、作品の肝にある「bloodthirsty butchers」と石井監督との関わり、そして、『ソレダケ/that’s it』のシナリオについてです!第二回をお楽しみに!)
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