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映画『シークレットサンシャイン』考察 ネタバレあり

イ・チャンドンらしい観た後に考えさせられる余韻が残る本作ですが、僕はネットで一般的に言われている感想とは違う感想を持ったのでその事を書かせて頂きます。
いつものように結論から言わせてもらうとネット上では題名のシークレットサンシャイン「秘密の…隠れた太陽」は主人公を陰日向なくいつも支えてくれていたジョンチャン(ソン・ガンホ)を指していると言われているようですが、僕はそれは表面に過ぎず裏は…本当は神の事を指していると思います。

何故かというとその視点からから物語を見ていくと、まず主人公の性格はというと、信仰を持たずにむしろそういった物を馬鹿にし、夫に浮気されていたのにそれを認めずに現実から逃げ、その先でも人の好意をまともに受け取らずに刺々しく接し、その一方で周囲にはお金があるように見えるように振る舞う等かなり凝り固まった性格をしています。

そして主人公に受難がおきます。
唯一の頼りである息子を失い、その苦しみから逃れるために一時は神に救いを求めますが、悪人にも被害者の同意無しに勝手に許しを与えるという行為を利己的に感じて神という存在に迷いを持ち一時は信仰に疑問を持ちます。

その後、主人公は神を試す行動をします。
まず万引きしたCDを使って集会で「嘘」等の信仰に疑問を与えるようなワードを連呼しますが導師は説法を辞めず、信者も動揺しません。
次に導き親である薬剤師の男性を妻がいる身でありながら誘惑してその堕落した様を神に見せつけようとしますが、男性はそれを感じたのかのようにすんでの所で思い留まります。
信じる物がある人間は強いのです。
しかし、主人公はいうとそんな事を繰り返している内に精神的に追い詰められていき自殺未遂をしてしまいます。
そして退院した後、やはり女性という事で身嗜みを整えに美容院に行きますが、そこで美容師になっていた息子を殺した犯人の娘と遭遇します。
娘は事件とは直接は関係ないのですし犯罪者の子供という事で随分と苦労したらしき事が解りますが、主人公は激情を抑えきれずに店を飛び出してしまいます。
主人公は信仰に目覚めていたジョンチャンがわざとその店に女の子の元に連れてきたと思ったようですが、ジョンチャンは否定します。
となるとまるで神の思し召しのようです。
そして最後、店では女の子に許しを与える事ができなかった主人公ですが、帰宅後に陽だまりの中で女の子がハサミを入れてくれた髪の長さに自身の髪を揃えます。

僕はこの最後こそ物語のテーマを象徴していると思ってて、この物語がラブストーリーなら 太陽の正体がジョンチャンなのであれば彼への愛情を示す形で物語が終わると思いますが、そうではなく先述のように自身の髪にハサミを入れるシーンで終わっています。
つまりこれは最後に主人公が女の子を許してあげる物語
ついでに言うなら主人公が受難を通じて本当の信仰を得る話なのではないでしょうか?
神とはジョンチャンもそうだと言えますが、薬剤師が言っていたように太陽の光のように知らぬ内に支えてくれる存在だということではないでしょうか。

そう考えると新興宗教を批判的に描いている事からこの作品は信仰に批判的であるかのように言われていますが、むしろ逆に神と信仰を非常に賛美している作品だと思います。
ここらへんの二律背反的なテーマと物語作りは正にイ・チャンドン監督らしいというのかお見事だと思いましたが、敬虔な仏教徒である僕からするとそもそも仏教は法難という言葉こそあれどそこまで受難という行為を重要視していないですし、仮に受難にしても信仰と引き換えに息子を失うという代償はあまりにも大き過ぎるのではないかと思って共感する事ができず、ファンである監督の作品として少し厳し目の評価になりました。
つまり作品そのものよりも宗教観が評価に影響した形になりました。


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