小学生の頃思い出し注射

 小学生の頃思い出し注射は、その名の通り小学生の頃を思い出すことのできる注射で、勤労意欲を低下させ社会秩序を乱す恐れがあるという理由から、法律で原則禁止されている。終末期の患者に対する限定的な投与のみ、認められている。

 さてここにいるのは、今まさに小学生の頃思い出し注射に手を染めようとしている人物、三田。小学校からの幼馴染たちが幾人か、小学生の頃思い出し注射に手を出して逮捕されたという話もあった。
 三田は、これまでなにかに熱中するという経験もなく、淡々とした人生を歩んできた。そのツケが、齢30というこのときに回ってきた。何にも意欲がわかない。何者にもなれぬ見通しだけが立っている。

 勤労意欲の低下が禁止の理由ならば、自分の勤労意欲はすでに低下しているのだから、小学生の頃思い出し注射を使用したってかまわないという暴論を、三田は自らに浴びせた。

 売人から入手した小学生の頃思い出し注射を左腕の静脈をめがけて打つ。目の前の風景が様変わりし、小学生の頃に完全にトリップした。

 さて三田はこの後、一度も小学生の頃思い出し注射に手を出すことはなかった。「別にあいつら、幼馴染ってわけでもなかったな」とだけ思っていた。

(了)

昨日家で飲みすぎたせいか、ずーっと眠いです。

それではまた。

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