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「THE MATCH 2022」を見て

もう今更感がハンパないんだけれど、自分の中で形にして残しておきたいので書かせて貰います。
キックボクシングを見始めたのは確か中学生の頃だったと思う。当時はまだ旧K-1のヘビー級全盛期でアンディ・フグ選手、マイク・ベルナルド選手、アーネスト・ホースト選手、ピーター・アーツ選手なんかが活躍していた頃だった。時期によって見る際の熱量の変化はあったけれど、とにかくそれくらいの時代からずっとキックボクシングを見続けてきた私なので6月19日に開催されたTHE MATCH 2022(以降、TMと略称する)については本当に楽しみにしていました。昨年の12月24日に開催が発表された際には「どんなに辛い事があったとしても、あと半年は生き続ける楽しみが出来たぞ!」とさえ思うくらいには。いや、別に生きてて辛くはないんだけれどもw

TMが盛り上がったのは、ひとえにK-1が他団体との試合を一切組まないという原則があったからに他ならないと思う。時は流れ、今ではK-1以外の団体にもキックボクシングの有力選手が数多くいる時代になった。だからこそK-1の有力選手が他団体との有力選手と戦うという事にニーズがあって盛り上がったのだ。非常に興味深いカードが多く、実際見ても良い試合が多かった。武尊選手と那須川天心選手との対戦が格闘技ファンの多くが注目する世紀の一戦であった事に違いはないのだけれど、それだけではここまで大きな収益を上げる興行にはならなかったハズだ。

事前のファン予想では武尊選手の勝利を予想したのが7割程度、那須川天心選手の勝利を予想していたのは3割程度だと言われている。ただこれは本当の意味での勝敗予想ではなかったと私は考える。シビアに勝敗を予想すれば那須川天心選手が勝つと予想するファンが多かったハズだ。では、どうして武尊選手が勝つと予想をしたファンが多かったのか。それは武尊選手に勝って欲しい、武尊選手なら勝ってくれるんじゃないかと期待を寄せていたファンがそれだけ多かったからだと思う。例えが適切ではないかも知れないが、高校野球の中継で自分に縁もゆかりもない学校どうしの試合だと何となく負けている方を応援してしまうアレに近い現象なんだと思う。
はっきり言って那須川天心選手は強すぎるのだ。圧倒的な打撃スピードと高い技術。そして目が良く、反射神経もズバ抜けている。対戦者からすれば正に手に負えない相手といった印象だろう。大半の試合で苦戦している様子すらなく勝つべくして勝っているかのように見える。類稀なる才能を持った者が多大な努力を重ねてきた結果である事に疑いはないのだが、如何せん強すぎるため、もはや別種の生き物なのではないかとすら思えてくる程だ。
対して、武尊選手は那須川天心選手と違って敗北を知っている選手である。それだけでも努力を積み重ねて今の地位に上り詰めたという事を見ている側も実感し易い。試合自体も壮絶な打ち合いを制して勝利を飾る事が多い選手なので非常に見応えがある。常にアツい何かを感じさせ、見ている者を魅了する試合運び。これは那須川天心選手の試合ではなかなか味わえないモノだと思う。連勝街道を驀進中で無敗のままキックボクシング界を引退しようとしている那須川天心選手に唯一の黒星を付けてくれる者がいるとしたら…それは武尊選手以外にはあり得ないだろう。そう考えたファンが多く居たのではないだろうか。

試合展開については多くのレポートが存在するだろうから、ここで詳細に描写する事は控えるが、1ラウンド終了間際に那須川天心選手が武尊選手に左フックを決めてダウンを奪った。溜息が出るくらい鋭く綺麗なカウンターだった。2ラウンド以降も武尊選手のペースに一切乗る事なく試合を運び判定勝ちを収めてしまった。
この試合を半年間ずっと楽しみにしていたのに開始直前にはやっぱり試合を取りやめてくれないだろうかと思えて来て、試合開始からは感極まって泣きながら試合を見ている自分が居た。正直言うと武尊選手は負けるんじゃないかと思っていた。その反面、武尊選手なら勝ってくれると信じてもいた。別に白黒付けて欲しかったワケではない。武尊選手に勝って欲しかっただけなのだ。言うまでもなく武尊選手はとても洗練された選手である。しかし那須川天心選手と比べれば、どこか泥臭さと言うか人間臭さを感じられる存在だった。だからこそ勝って欲しかった…。
試合終了後、武尊選手も那須川天心選手も泣いていた。私は泣きながら試合を見ていたけれど試合が終わってからは涙は止まっていた。心にポッカリ穴が開いたような気分で、泣くというより呆然とした感じだった。試合後のインタビューで武尊選手は涙を堪えながら謝罪を繰り返し、質問等も受け付けずに会場を後にした。その姿を見て私は更に落ち込んでしまうのだった。

4日後の23日になって、武尊選手はようやく「心と体を治してまた前を向いて進みます」と声明を出した。それを知って私もようやく立ち直る事が出来たような気がする。だからこそ今頃になって記事を書く気力が湧いたのだ。彼が再び立ち上がってくれなければ、私達ファンも立ち直る事が出来なかったんだと感じた。27日の14時頃に試合後初の会見を開くとの事だけれど、武尊選手が立ち上がって前向きになってくれたのであれば、私は会見がどんな内容であっても構わないと思っている。30年近くキックボクシングを見続けて来てこれほどまでに心を寄せる事の出来る選手は初めてだったから。どんな形であれ、これからも一ファンとして彼を応援し続けるつもり。武尊選手、本当にありがとう。そして格闘技、最高ッ!!

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