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【小説】『ファミレス』重松清

僕の好きな著者、重松清さんの『ファミレス』を読みました。

小説の大まかな内容としては、「オヤジの友情」「夫婦関係」「FA宣言」「食の魅力」「家族の形」「人生」などなど、様々なエッセンスが詰まった一冊になっております。
読む人によって、引っかかる場所が変わるんじゃないかな。

その中でも、僕の心に残る素敵な場面があったので、ここで紹介したいと思います。
タイトルにもあるように、金平糖のお話です。


まず、『ファミレス下』の109ページ。
金平糖の作り方が書いてあります。
ざっと言うとこんな感じ。
     ↓
①けしの実、ザラメ、もち米を細かく砕いて粒にしたものが「核」になる。
②糖蜜をかける。
③斜めになっている窯の中で、上へ下へと動かす。
※延々と②、③を繰り返す。
これにより、「核」はツノを作りながら少しずつ大きくなる。
ツノが目に見えるようになるまでに数日、直径1㎝の大きさを作るのには2週間もかかる。

そして、金平糖の説明が終わった後、登場人物の桜子さん(妻)が言うんです。
「人間も金平糖と同じように、一人ひとりにそれぞれ「核」があると思うの。そのひとの始まりというか、原点みたいなもの。…あなたの「核」は何?」

これを受けた登場人物、一博(夫)は絶句してしまいます。
彼はカッコよさを追求し、仕事一筋、スタイリッシュであることにこだわっていました。一博はなんとか声を絞り出し、桜子の質問に対してこう答えます。
「…仕事は、だれにも負けない」

ですが、

「悪いけど、それは人生の「核」じゃないと思う。…ごめん」
と、バッサリ切られてしまいます。

この場面には考えさせられました。
たしかに、仕事は「人生」の「核」ではないな、と。
核に後からかけられる糖蜜だよなあ、と。
じゃあ、「核」ってなんだろう…。

129ページで一博の「核」が分かりました。


一博の「核」は、
子供の頃に商店街でよく食べていた「ハムカツ」と「レバカツ」。


そして、「核」についてこんなことが書かれていました。

「核」とは、「あの頃があるから、いまがある」と思わせてくれるもの。
いまの自分が幸せかどうかは、じつは「今の自分」だけでは決められないのではないか。「いままで支えてきた自分」すなわち、過去から現在の積み重ねが、いまの自分を支え、幸せを感じさせてくれる。その積み重ねの一番奥深くにある、金平糖のけしの実のような存在が「核」なのだ。

さらに、172ページ。

けしの実の「核」に時間をかけて蜜をまぶすことで、金平糖ができあがるように、
ひとの人生だって、少年時代の「核」にオトナになってからの日々が年輪のように積み重なって、いまの自分をかたちづくっている。問題は、その自分の人生の形なのだ。


たしかに!と思いました。
そして、すべての経験は「核」に塗られていく糖蜜。塗り方も、塗る量も、どんな糖蜜を塗るのかも、自分で選べる。そうして、自分の人生がかたちづくられていく。



じゃあ、自分の「核」はなんだろう。自分の人生はどんな形をしていくんだろう?
考えてみたとき、自分の「核」は、
「グラウンドで流した汗」だと思いました。


たくさんの努力を重ねて、必死に頑張っていた子供時代。
当時の頑張りを無駄にしたくない。当時の思いを忘れたくない。
子供時代の自分が、今の自分を見たときに、「すげえじゃん」ってなるように。
子供時代の自分も、一緒に幸せを感じられるように。
子供時代の自分が、「えー」と思うようなやり方で、幸せを感じないように。
自分の「核」を忘れずに。


みなさんの「核」は何ですか?

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