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Anthony Martial

 ワクワクする選手。この思いは今になっても変わらず心の中にある。Anthony Martial 世に出てきた当初はアンソニー・マーシャル(マルシアル)と呼ばれ、今ではアントニー・マルシャルが一般的となった28歳のフォワードだ。
 初めて彼の存在を知ったのは彼がASモナコでその名を広めて始めていた頃だった。「モナコに10代の凄いドリブラーがいる。」そんな噂を耳にして、プレーを見てみた。サイドラインいっぱいでボールを受けると、足で転がしつつ、対面のサイドバックとの距離を詰めていく。そして、タイミングよく突破にかかる。カットインしていくプレーも上手い。少し切り込んで右足から放たれるシュートも良い。これが10代なのかと思ってしまった。
 そのシーズン終わりの夏だったと思う。監督がルイス=ファン・ハールになっていたマンチェスター・ユナイテッドはこの若者の獲得に乗り出した。チームに迎え入れるために要した金額は当時の10代選手としては世界最高額。大きな期待を赤い悪魔のサポーターは抱いた。
 18歳の青年はその期待にデビュー戦で満点の形で応える。彼のデビューは因縁のリヴァプール戦に途中出場という形で訪れた。ピッチに入り暫くして、ボールはサイドライン際で待つ彼のもとへやってきた。なんの迷いもなく、中にカットイン。ワンツーで最終ラインを突破し、GKとの1対1を落ち着いて流し込む。ファビュラスな新参者にストレットフォード・エンドのみならず、満員のオールド・トラッフォードは興奮熱狂の坩堝と化した。

鮮烈なデビューを飾ったマルシャル
この時は彼の才能を疑う者は誰もいなかった

 かく言う私も瞬時に恋に落ちた。今後のMUFC左サイドのアタッキングプレーヤーは、10年は安泰だろうと信じて疑わなかった。しかし、物事とはそううまくはいかないものなのである。このワンダーキッドはMUFCで様々な試練に直面し、敢えて先に言ってしまえば、キャリアを難しくしていくのである。
 彼を獲得した監督であるルイ=ファン・ハール時代は良かった。ファン・ハールはこの若者にかかる重圧を都度和らげ、彼もそれに応えるようにリーグ戦31試合11ゴールと素晴らしい成績を残し、FAカップの優勝にも貢献した。だが、この決勝の直後にファン・ハールの解任が決まるのである。

FA杯優勝にも貢献したマルシャル(中央カップを掲げるルーニーから右に2人目)

 後任は「スペシャル・ワン」こと、ジョゼ・モウリーニョとなった。結論から言ってしまえば、モウリーニョとの相性は最悪だった。新しいボスは、気に食わない練習態度と低調なパフォマンスだった若者をことあるごとに批判し、出場機会も限定した。
 時を戻して、2016年夏、プライドがズタズタに切り裂かれる事件も起きた。この夏に新加入となったズラタン・イブラヒモビッチが背番号9を要求し、フロントはあろうことか9番を着ていたマルシャルに聞くことなく、イブラに9を与え、マルシャルは11番に変えられてしまったのである。このことは少なからず先のこと―気に食わない練習態度と低調なパフォマンス―に影響を与えた。
 次の監督、”baby face assassin”ことオーレ・グンナー=スールシャールの下でマルシャルは復活する、但しボックスストライカーとして。オーレは決め事を少なくすることで多くの選手に自由を与えた。その結果というべきか、19/20シーズンにアントニーはユナイテッドの選手として実に7季ぶり、あのロビン=ファン・ペルシー以来のハットトリックを記録した(6月25日のシェフィールド・ユナイテッドFC戦)。最終的に、このシーズン、リーグ戦32試合17ゴールを挙げた。

ハットトリックを取ってこの隠しきれないニヤニヤ顔を覚えている方も多いだろう

しかし、またも試練が訪れる。2021年にクリスティアーノ・ロナウドがユナイテッドに復帰するのである。スペインで稀代のストライカーとなった男は当然に復帰したクラブでもその位置に座った。マルシャルはその冬、監督がスールシャールからラルフ・ラングニックに代わった中で、スペインのセビージャにローン移籍した。ここでも、負傷もあって上手くいかなかった。
 2022年夏にユナイテッドに復帰するが、新監督エリック=テン・ハグの下でもCR7とのポジション争いを求められ、一定の試合数に出場したものの、大きな結果は残せなかった。
 残りの契約年数が1年に近づくにつれ、移籍の噂がのぼっては消えを繰り返した。インテルミラノなどのクラブ名があがるものの、負傷がちでゴール以外の貢献が少なくゴールもなかなか決められないという現状で買い手は現れなかった。
 23/24シーズンも結果を残せず、2024年6月30日に契約満了でマンチェスター・ユナイテッドを退団することとなった。8月も下旬に差し掛かった今も新天地は決まらない。
 これが現実であった。ただ、9年間の貢献に感謝して、この言葉で送りたい。

Tony Martial scores again,
Tony Martial scores again,
Tony Martial scores again,
Tony Martial scores again! 

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